新卒一括採用から即戦力採用へ――2020年「日本の姿」 – 城 繁幸

総合新卒一括採用から即戦力採用へ――2020年「日本の姿」 – 城 繁幸

東京が56年ぶりの五輪を迎える2020年、政治や経済、国際関係はどう変化しているのか。スポーツや芸能、メディアや医療の世界には果たしてどんな新潮流が――。各界の慧眼が見抜いた衝撃の「近未来予想図」。

2020年の就活事情は、一体どのような変貌を遂げているのか。人事コンサルタントの城繁幸氏に聞いた。

(出典:文藝春秋2016年7月号)

即戦力採用が主流に?

戦後、日本企業は長く“新卒一括採用”という独自の慣行を続けてきた。毎年春先から採用活動を行い、夏ごろに内定を出すもので、若くポテンシャルのある人材を効率的に確保するのが目的だった。

これは、日本企業が強固な終身雇用制度を前提としていたためで、色のついていない若い人材を採って自社に特化した形で育成するのが合理的だからだ。

結果、大学で修めた学業の中身はほとんど重視されず、コミュニケーション能力や成功体験の有無といったアナログな基準で大雑把に判断される流れが定着してきた。諸外国と比べ、日本の大学にはなぜか20歳前後の若者しかおらず、学生の多くはあまり熱心に勉強しない。それでも、お揃いのリクルートスーツを着て数カ月活動するだけで錚々たる大企業から生涯雇用契約を得てしまう背景には、こうした構造があったのだ。


©時事通信社

そんな新卒一括採用だが、2020年までにはかなり廃れてしまうだろう。企業の側に、新人をゼロからじっくり育成する余裕がなくなってきたためだ。かわって主流となっていると思われるのが、一定期間のインターンシップを経た上で採用可否を判断する仕組みだ。個人ごとに初任給もポジションも変わることになる。いわゆる即戦力採用というものだ。元は2000年代初頭に一部の新興企業で行われていたスタイルだが、大企業にもこれから浸透していくと思われる。

もちろん、即戦力となるためには4年間をフル活用するしかなく、学業に加えて休暇中のインターンシップ、各種資格や語学の勉強も必要となる。中途採用と同じ土俵で評価されるからだ。架空の大学4年生・健一を主人公に、4年後の就職活動状況をシミュレーションしてみよう。

◆◆◆

2020年9月。健一は、いつものように都内にある職場に“出勤”した。大学2年時より、夏季休暇はほぼすべて企業内インターンにあてている。今いる会社は従業員50名ほどの新興企業で、ここ1カ月ほど週3日出勤している最中だ。

上海に発注していた案件の進捗をチェックし、報告書をリーダーにメールし終えたところで、健一は直属のマネージャーに呼び出された。

「今週で最後だね。だいぶ仕事は慣れた?」

「ええ、面白くなってきたところです。ちょっともったいない気分ですね」

「どうだい、来年からはうちで正式に働く気はないかな?」

マネージャーに渡された契約書のひな形を見て、健一はちょっとびっくりした。ポジションは“リーダー”とある。

「現リーダーの高木くんだけど、来年から上海事業所を任せる方向で話が進んでいるんだ。私としてはその後任としてぜひ君を推したい」

この1カ月、自分がメンバーとして支えてきたポストに、新卒ながら抜擢されるのだから、ちょっとしたサプライズだ。数人とはいえ部下も出来る。なにより、喉から手が出るほど欲しがっていた経営・マネジメントキャリアの一端に乗れるのだから悪い話ではない。10年ほど前にサイバーエージェントが新人にグループ企業の経営を任せたり、ファーストリテイリングが1年目の新人を店長ポストに登用した際は大きな話題となったが、今ではそうした勤続年数によらない格付けは珍しい話ではなくなった。

「君ほど優秀で自主性に富む人材なら、きっと他にも複数社からオファーが来ていることと思う。だから、このリクルートオファーは2年間の有効期限を設けておいたよ。卒業後、いつでも気が変わったらうちに来てほしい」

少子化で90年代より4割も新成人が減る中、優秀な人材の奪い合いは熾烈を極めている。「卒業後一定期間有効な内定」も各社の用意しているオプションの1つで、2005年にソニーが導入して以降、低コストで提供できることから幅広い業種に広まっている。

もちろん、オファーを断る理由はない。健一は自身にとって4社目となる内定をありがたく頂戴した。

会社に人生を差し出してきた旧世代

「就職活動、順調なようだな」

2週間ぶりに単身赴任先から戻ってきた父親の昭夫は、1人息子の就活報告を聞くと嬉しそうにほほ笑んだ。内定の集中する学生とそうでない学生との二極化が進んでいると聞く。企業が中途採用にウェイトを移す中、ハードルを下げてまで新卒にこだわる必要がないためだ。そんな中、とりあえず健一は上手くやっているらしい。それでも、息子に対してちょっとした不満もあった。

「もうそろそろ就活もいいんじゃないか。どうせ内定の出た春秋銀行に就職するんだろう?」

昭夫は1990年に大学を卒業し、大手都市銀行の春秋銀行に入行したバブル世代だ。1人息子が自分と同じ銀行に入行してくれることを誇らしく感じている。

「父さん、僕、今日内定を頂いた企業でお世話になろうと思うんだ。まだ出来て5年の小さな会社だけど、成長性のあるいい会社だよ」

「おまえ……銀行がイヤなら自動車でも電機でもいい。最初は出来るだけ大きくて誰もが知っている大企業にしなさい。長い目で見れば、それが一番幸せなんだから」

20世紀に社会に出た日本人にとってはごく常識的なアドバイスだった。だが時代は変わり続けている。

新卒一括採用においては、学生は具体的な担当業務も配属先もわからぬまま内定だけを貰う。そして入社後に何の仕事をやらせるかは、会社都合で決まっていくことになる。余剰人員を人手の足りない部署にどんどん回すことで終身雇用を維持するためだ。いうなれば、終身雇用と引き換えに人生設計そのものを会社に差し出すわけだ。

ITバブル崩壊後には、東大や東工大を出て大手電機メーカーに就職した入社2、3年目の若手エンジニアが、いっせいに研究職から営業職などに配置転換された事例もある。

それでも、将来的に見返りがあるならいい。だが現実はどうか。2000年以降、多くの大企業が中高年社員を対象にリストラを行い、人生の選択肢を差し出してきたはずの社員を切り捨ててきたのではないか。

「もし今、もう一度就活していいって言われたら、父さんはやっぱり銀行を選ぶ?」

昭夫は言葉を詰まらせた。銀行に入行して30年、辞令1枚で全国を回り、与えられる仕事はなんでも全力で取り組み、ようやく課長になった矢先に、名古屋の取引先への転籍が待っていた。確かに雇用は保障されるが、時々ふとむなしくなることもある。

「そうだな……確かにこれからの時代、会社じゃなくて仕事で選ぶべきかもな。おまえの人生だ、好きな仕事を選ぶといい」

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ローリスクの「安定した」仕事は今後もなくなりはしないが、それ相応のリターンしか望めない。一方、健一のような学生は、リスク覚悟で自らのキャリアを成長させられる職場を選ぼうとしているわけだ。職場や環境が変わっても食べていけるだけの職能を身につけることが、最大のリスクヘッジになる。

そうやって競争力を高める努力をすることによってこそ、2020年における職業人も、企業も成長を続けられるのではないだろうか。

出典:文藝春秋2016年7月号