女性雇用パナソニックの事例に学ぶ、女性活躍推進を阻む3つの課題
にわかに高まる女性活躍推進のうねり。この機運を一過性のものとせず、長い目で見て企業のなかに根付かせるには、どうしたらいいのか。そのヒントとしたいのが、かつて女性活躍推進でトップランナーだったパナソニックの事例である。社長交代、業績悪化を受けて、女性活躍推進が失速しているとの声も上がる。息長く女性活躍の推進を続けるために大切な視点を、パナの事例から探ってみたい。
この春、パナソニックで内部昇格から誕生した女性役員第一号が、50代前半の若さで顧問に退いた。
83年に技術者として入社、家電分野で数々のヒット商品を生み出し、45歳で理事職に抜擢された。その翌年、100年近い歴史の中で女性初の事業場長となり、2011年に女性初の役員に就いたときは話題を呼んだ。女性登用の象徴的な存在だった。
事業場長時代は、400人の従業員を束ねて約450億円の売り上げを上げる責任者として、経営者としての腕を磨いてきた。役員となってからは、環境本部長、未来生活研究担当を務めた。退任の知らせを受けて、社内のある女性社員は「心に穴が開いた。ロールモデルと仰いできたのに」と肩を落とした。仕事ぶりをよく知る社外の人事関係者は「製造現場で経営経験を積んだ女性は極めて貴重。経営危機とはいえ、中長期の視点をもってそうした人材を残そうとしないのは解せない」と首をかしげる。
「こんなに大変なのに、なんで女性登用?」
退任を受けて、パナソニックでは社内昇格の女性役員はゼロとなった。安倍晋三首相が、2013年春に成長戦略の中で女性活用を大きな柱とし、「上場企業に、女性役員を最低ひとり」と掲げて以来、内部登用で女性役員を誕生させる動きが相次いでいる。パナソニックは社外取締役に大田弘子氏が就くものの、そうした流れに取り残されているように映る。実は、ほかにも気になる動きがある。
月刊誌「日経WOMAN」が行う「女性が働きやすい会社ランキング」では、2006年に6位にランクインをしたのを最後に、その後はベスト10から姿を消している。2001年に当時の中村邦夫社長の肝いりで誕生した、社長直轄の組織「女性かがやき本部」は、その後「多様性推進本部」へと看板をかえながらも続いているが、昨年秋に人事部の内部組織となり、この6月からは本社の経営戦略部門からはずれた。ダイバーシティ推進(多様な人材活用)の優先順位が下がってしまったのか。
同社の女性管理職の人数を見てみよう(下図)。2001年に活動を始めた当初に比べると女性管理職の人数は10倍に増えている。ただし2012年の伸びは旧パナソニック電工との合併によるもので、それを差し引くとここ数年はほぼ横ばいで、足踏みをしていることになる。係長以上の女性役付者比率をみると2013年時点で5.8%、全国平均でいうと女性係長比率は約14%だから、まだその差は大きい。
(注)管理職は、課長クラス以上。パナソニック及び国内主要関連会社の合計(ただし三洋電機は除く。2012年から旧パナソニック電工を含む)
2000年代半ば、女性活躍推進のトップランナーだったパナソニックの取り組みに陰りが見えるのはなぜか。その理由を探ることで、女性活躍推進を企業のなかで根付かせるポイントが見えてくるのではないか。社内外の声に耳を傾けたところ、大きく3つの課題が浮かんできた。
「女性活用のことなど考える余裕がなくなった」
最初に挙がるのは、業績の急激な悪化による影響だ。
2012年、13年と2年間で計1兆5000億円に上る赤字を計上、創業以来最大の経営危機を迎えるなかで「こんなに大変なのに、なんで女性登用?」という声が社内で上がっているという。
「まずは巨額の赤字という大出血を止めることが先決、女性活躍推進が後回しになるのは無理もない」と、電機業界のアナリストは言う。
海外に目を転じると、欧米企業との意識の違いを感じる。EUでは欧州経済危機から間もない2011年3月に、「経済再建のためには、女性の力を生かすことが欠かせない」(欧州委員会男女平等局の課長、ダニエラ・バンキエ氏)として、女性役員クオータ制導入の議論を始めている。
米国のダイバーシティ推進団体カタリストのCEOデボラ・ギリス氏もまた、こんな疑問を呈する。「女性を活用している企業ほど業績がよく生産性が高いことは、各種調査で明らかになっている。欧米企業には、業績向上のために女性の力が不可欠だという考え方が浸透している」。

(資料:McKinsey & Company「Women Matter」2010)[注1/注2]
[注1]第1四分位:取締役会に占める女性の割合が当該業種において最も高い上位25%の企業グループ
[注2]ROE:279社の2007~2009年の期間について平均を算出。調査範囲は、欧州6カ国(イギリス、フランス、ドイツ、スペイン、スウェーデン、ノルウェー)およびBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)
出所:McKinsey & Companyウェブサイト
例えば、経営コンサルティング会社マッキンゼー&カンパニーは、女性役員の登用と業績には正の相関があるという分析結果を出している(上の図)。女性の役員比率が高い企業は、役員が男性のみの企業に比べると、ROE(株主利益率)が41%高いというものだ。
女性の力を生かせば業績が上がる――。欧米企業に比べると、日本企業はまだ女性活躍推進のとば口にたったところで、そうした実感が持てないというのが本音だろう。そこで、目の前の業績により方針が揺れてしまいがちだ。しかし中長期の視点でいえば、多様な人材を活用してイノベーションを起こさないと真の会社再建につながらない。マッキンゼーのデータは、それを物語っている。
経営トップが交代しても変わりなく続くか否か
2つ目は、経営トップの交代による影響だ。中村邦夫社長時代の2000年代はじめに、女性活躍推進は強力に推し進められた。当時も4300億円という創業以来初の巨額の赤字を抱えて経営再建の最中だったが、中村社長(当時)は「多様な人材が革新を生む。それが企業の成長に欠かせない。まずは女性の登用を積極的に進める」との信念のもとで、社員に繰り返しその考えを語ってきた。
中村社長が退いた後、大坪文雄社長、津賀一宏社長と交代するなかで、経営トップからの発信が減っていったという。
次第に社員からは「(女性活躍推進を)何時までやるの?」「まだやるの?」という声が上がるようになった。中村社長が旗振りをしたものの「腹落ちしていない」社員が少なくなかったようだ。中村社長が退任した後、そうした社員の不満がもれるようになったという。
「経営戦略のなかにダイバーシティ推進がきちんと位置付けられていれば、経営トップが交代しても変わりなく続くはずだ」と、カタリストのギリス氏は指摘する。同団体は毎年、ダイバーシティ推進で実績を上げている企業に「カタリスト・アワード」を贈り表彰しているが、女性活用の方針が組織に根付いているかどうかをはかる上で「トップが交代してもダイバーシティ推進は変わらず継続しているか」をひとつの選考基準としているという。
後に続く女性社員の育成が間に合わない
3つ目は、女性管理職を積極登用したものの、後に続く女性社員の育成が間に合わないという問題だ。
パナソニックでは2005年に初の女性理事が誕生、その後十数人の女性が理事に就いたものの、後に続く女性がなかなかいない。「人事部が本気なら、もっと真剣に女性を育ててきたはず」「ポジティブアクションに行き過ぎもあったのでは」という指摘もある。
リーダーシップの取れる人材を、役員から部課長、係長クラスまで途切れることなく育てることを「パイプライン」の形成というが、これが間に合わないのだ。
実はこれは、パナソニックに限った話ではない。企業におけるダイバーシティ推進を手がけるNPO法人J-Winでも「多くの会員企業が同様の課題を抱えている」と広報の海老原有美さんは指摘する。「女性活用の機運とともに、それまで足踏みさせられていた優秀な女性が一気に役員や上位職に登用されたが、後進が続かず(パイプラインの半ばが)『空洞化』してしまっている。少なくとも部長職までは、パイプラインがしっかり形成されていないと継続的な登用は難しくなる」という。
パイプラインの形成には、その入り口となる若手社員の育成も欠かせない。パナソニックの場合、女性社員比率は2014年1月の時点で17%。理系社員が多い職場では、女性社員と組んだらプラスになったという経験をまだ持てない管理職も少なくない。さらに、人員削減が進んで仕事時間が増えるなか、育児や介護で時間制限のある女性社員を活用する余裕がないことも、男女差なく「期待をかけて鍛える」ことを阻む壁となっている。
いくら経営トップが号令をかけても、中間管理職も社員もダイバーシティ推進の効果を「体感しない」と組織文化は変わらない。なかには、女性社員に任せてみたらヒット家電が生まれたり、海外の事業所で外国人女性など多様な人材のぶつかり合いから新しいものを生み出したりと、その意義を肌で感じている男性管理職も出てきている。こうした変化の兆しはあるものの、連結で従業員27万1800人の意識を変えるのは容易なことではない。巨艦の隅々まで意識改革を浸透させるには、時間がかかるのだろう。
元女性幹部が、他社の社外取締役に相次ぎ就任
パナソニックの人事担当役員は、こうした問題をどう考えているのか。
「ダイバーシティ推進において『失速』している印象を受ける。経営戦略の中での優先順位が下がっているのか。もしそうだとしたら、その理由は?」
担当役員の石井純常務に質問状を送ったところ、以下のコメントが届いた。
「パナソニックの経営での多様性の重要度は決して低くなったわけではない。むしろその重要性は高まっている。
先日も大田弘子社外取締役と社長、副社長、4カンパニー長、そして人事担当の私が女性リーダーの育成について集中的に議論する場を持ち、今後も女性リーダーの育成を力強く進めていくことを確認したところだ」
「失速」と映るのは、中村時代に1年に10歩進んでいたのが、今は数歩になったためかもしれない。しかし今、多くの企業が年に10歩進もうと走り始めているなかで、残念ながら遅れをとり始めているように感じられる。
実はパナソニックの元幹部の女性数人が、昨年からこの夏にかけ相次いで社外取締役クラスのポストに就いている。会社を卒業して、社外ですぐに役員クラスの就任が決まるだけの人材を育てたパナソニックは、人材輩出企業ともいえる。翻ってパナソニックの立場に立てば「長年、時間とお金とエネルギーをかけて育てた人材が流出した」ともいえる。
これから後に続く女性幹部候補に、製造現場で事業場長として修羅場を経験させて女性役員となるまで育てるには、これから何年もの月日が必要だろう。
