「女だから…」を跳ね返しインドから大出世

総合「女だから…」を跳ね返しインドから大出世

昨年、英蘭ユニリーバで史上最年少の人事トップに就任したリーナ・ネアー氏。女性が働くことさえ珍しかったインドの現地法人から、出世街道を駆け上がってきた。ただ、その過程で「女性だから」という多くの偏見に遭遇。人事トップとなった今、社員が無意識に抱いている性別や宗教などに対する「偏見」を取り除こうと奮闘する。ダイバーシティ(多様性)を重視するユニリーバの人材戦略について話を聞いた。

(聞き手 大竹 剛)

ネアーさんは、インドの現地法人からキャリアを駆け上がってきました。これまでのキャリアを振り返って、女性だから、インド人だから、というような偏見にも直面したこともあると思います。どのように困難を乗り越えてきましたか。

リーナ・ネアー氏:ヒンドゥスタン・ユニリーバに入社した時、女性はわずか2人だけでした。約1万5000人の従業員のうちですよ。私は、女性初の営業スタッフでしたし、工場で働いた最初の女性でした。当時、私はユニリーバの工場だけではなく、工業団地で唯一の女性で、周りの工場からも珍しがって多くの人が覗きに来るほどでした。

「ひ弱な女性にはできない」と常に見られてきた

そうですね。偏見には常に直面してきました。何か仕事をするたびに、周囲からは、「その仕事はひ弱な女性にはできない」といった偏見の目で見られてきました。

リーナ・ネアー氏
1969年10月28日インド生まれ。92 年、ユニリーバのインド地法人、ヒンドゥスタン・リーバ(現ヒンドゥスタン・ユニリーバ)に入社。93 年、リプトン(インド)Ltd にて工場人事マネジャーに着任し、当時工場では珍しかった女性管理職となる。以降、ヒンドゥスタン・リーバで幅広く人事の経験を積み、2006 年には同社初の女性ジェネラルマネジャー、2007 年には最年少でエグゼクティブダイレクターに就任。成長を支えるための能力開発・組織づくりのため、社内に成果主義を根づかせる一方で、キャリアを一旦離れた女性の復職を支援する Career by Choice を含むさまざまなプログラムを導入した。2013 年にはシニア ヴァイスプレジデント HR リーダーシップ&オーガナイゼーション兼グローバル ヘッド オブ ダイバーシティ&インクリュージョンに就任。社内のみならず、社外にもダイバーシティへの取り組みを広げている。2016 年 3 月 1 日、ユニリーバ史上最年少でチーフ HR オフィサーに就任。(写真:陶山 勉、以下同)

すべての女性にアドバイスしたいことは、いまだに多くの仕事で、あなたたちが女性のフロントランナーであるということです。そのため、当然、様々な批判や偏見にさらされることはあるでしょう。

しかし大切なのは、そうした逆境に挑み、批判を跳ね返すだけの実績を収めることです。それが、あなたの後に続く女性たちのために道を切り開くことになるからです。

ネアーさんは強い意志をお持ちですね。

ネアー氏:それは、父が常に私のことをサポートしてくれたおかげです。インドでは、男の子が生まれると喜び、女の子が生まれると悲しむのが、ごく一般的なことなのですが、父は常に私を応援してくれました。そして、仕事を続けるには、夫のサポートも欠かせませんでした。

困難に挑戦するためには、理解者が必要です。特に、家族や友人が大切です。女性が働くには、周囲のサポートが欠かせません。子供が病気になったり、歳をとった両親を介護したり、いまだに家庭のおける多くの責任を女性が背負っています。

家族や友人に加えて、女性に対する会社からの特別なサポートも必要ですか。

ネアー氏:自由な働き方が可能な仕組みは必要でしょう。例えばユニリーバが取り入れている、テレワークなどを活用して、いつでもどこでも働ける、「アジャイルワーキング」という制度もその1つです。もちろん、女性に限らず、男性も利用できる制度ですが。

働き方改革は「アウトプット」が全て

働き方が多様だと、社員一人ひとりをどのように評価するか、難しくありませんか。例えば、テレワーキングだと、対面でのコミュニケーションが取りづらくなります。

ネアー氏:多様な働き方を実現するには、評価を「アウトプット(成果)」に集中することです。「インプット」、つまり、「どれくらい働いたか」ではなく、「何をどれくらい達成したのか」に評価の基準を定めることが重要です。管理職の社員はマインドセットを変えて、部下を結果とパフォーマンスだけで評価するようにして、何時間働いたかといったインプットの指標は評価すべきではありません。

それは、部下を信頼しなければできないことです。しかし、人は信頼され、仕事を任されると、生産性が上がります。それは、ユニリーバ・ジャパンの取り組み(実践! 働き方改革「無制限テレワーク」は性善説で)でも示されています。

ユニリーバはそもそも、インプットよりもアウトプットを重視する会社です。私が入社した約25年前も、目標を定めることはとても重要でした。しかし、最近の技術進化が、働き方の自由度を格段に高め、アウトプットをこれまで以上に重視する働き方へと変わってきたのです。インターネットや携帯電話が普及したことで、社員がどこにいても、これまで以上に信頼して仕事を任せられるようになってきました。

自由な働き方を可能にするキーワードは「TRUST(信頼)」です。それがなければ、上司は部下が常にちゃんと働いているかどうかを、チェックしなくてはいけません。

それは、職場のダイバーシティを高める上でも、とても重要な視点です。アウトプットで社員が正当に評価されるようになれば、性別や人種は関係ない。私が今ここにいるのは、その良い事例でしょう。

職場における無意識の「差別」を取り除く

今、米国や欧州では、宗教など異なる背景を持つ移民や難民に対する風当たりが強くなっています。そうした中、ユニリーバのような多様な人材を抱えるグローバル企業でも、社員同士の偏見や対立が強まる恐れはありませんか。

ネアー氏:ユニリーバにとってダイバーシティはとても大切な要素です。誰でも、性別や人種、ライフスタイルによって差別されることなく、働けるようにしなければなりません。これだけ多くの国で事業を展開しているわけですから、ある意味で当然ですよね。

しかし、ダイバーシティを獲得するには、時間がかかります。それは、ユニリーバといえども同じです。例えば現在、管理職の女性比率は46%ですが、2010年は41%でした。ダイバーシティを高めるために、時には意図的な人事をすることも必要ですが、最も重要なのは企業文化を変えることです。

それには、ステレオタイプ(固定観念)を克服することが必要です。そこで今、私たちは、「アンステレオタイプ(#UNSTEREOTYPE)」というプログラムを始めています。

どういうプログラムですか。

ネアー氏:人間ですから、誰しも少なからず偏見を持っています。それは、仕方がないことです。そこで、様々なワークショップを通じて、まず、自分たちが偏見を持っていることを理解する。そして、それらを克服する手段を学ぶ必要があるのです。

知らず知らずのうちに偏見に基づいて他人と接しているという事実を、まず理解するということですね。

ネアー氏:そうです。無意識に差別をしていることを自覚するのです。

そもそも「#UNSTEREOTYPE」は、マーケティングの観点から始まったプロジェクトでした。昨年6月、フランスのカンヌで発表しました。男性も女性も、依然として非常にステレオタイプなモノの見方をしている。しかし、このままで良いのかということを、問いかけるキャンペーンを始めたのです。それ以降、性差に基づいた偏見を、私たちのブランド広告から取り除いてきました。

しかし、そうしたマーケティングを展開するのなら、私たち自身の職場でも、偏見を取り除く努力をもっとする必要があると考えました。男性社員も女性社員も、互いをステレオタイプで見ている。それは、世界中どこでもそうです。そこで、ワークショップをほぼ同時期からスタートしました。

ダイバーシティで組織は強くなる

古くから世界中で事業をしてきたユニリーバですら、そういうプログラムが必要だった?

ネアー氏:その通りです。偏見を完全に取り除くことは不可能ですから。しかし、無意識の偏見に気が付き、それを理解することができれば、何らか克服する道筋も見えて来るでしょう。例えば、「タフな仕事は男性の仕事」だと考えがちですが、これは明らかに偏見です。何が偏見なのかを理解できれば、それを克服するための判断ができます。性別の違いで、与える仕事の内容を差別しないとか。

ワークショップでは、写真を見せてその写真についてどう思うかを話し合ったり、クイズ形式で何が偏見に当たるかを議論したりしています。そうしたワークショップを通じて、ああ、自分は偏見を持っていたんだと気が付くわけです。

まだ始まったばかりなのですね。他の競合企業も同様の取り組みをしているのでしょうか。

ネアー氏:会社のカルチャーを変えるには、数カ月、いや数年かかるかもしれません。それはまさに、社会を変えるようなものですから。

競合についてはコメントできませんが、少なくとも私たちは、ワークショップを通じて、偏見をなくしていきたいと考えています。こうしたワークショップを今後、世界中で展開していく予定です。ただし、それぞれの国は、それぞれ独自の文化があり、異なる社会的な背景があります。各国の文化的・社会的背景を踏まえながら実施してきたいと思っています。

米国では、トランプ大統領が移民に対して厳しい政策を打ち出しています。欧州でも、極右勢力が台頭しています。こうした状況だからこそ、グローバルに事業を展開する企業としては、ダイバーシティをこれまで以上に重視しなければならないということですか。

ネアー氏:世界は常に変動しており、予測不能です。人種差別などの傾向が強まったとしても、ユニリーバ自身がダイバーシティを強化し、それぞれの違いを認め合う職場になれば、世界がどうなろうとより強い組織になるはずです。それこそが、私たちが目指すところです。

「サステナビリティー」がミレニアル世代を引きつける

企業が、自社の利益成長だけではなく、環境や社会と共に持続的な成長を追求する「サステナビリティー」という考え方が、日本の大企業にも広がり始めています。衣料品ブランド「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング(もう隠しません。ユニクロが工場リスト公開)や、食品大手の味の素(味の素、中計に「肉・野菜の摂取量」)などが、最近サステナビリティーを経営の軸に明確に位置づける方針を発表しました。

 この分野でユニリーバは、2010年に「Unilever Sustainable Living Plan(ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン)」というビジョンを定め、2020年までに環境負荷を半減することを宣言しました。最近では特に若い世代が、こうした環境問題や社会課題の解決に関心が高いとされ、サステナビリティーを重視することで人材獲得にも効果があるとも言われます。 実際、ユニリーバでは人材獲得の面で、何か変わりましたでしょうか。

ネアー氏:ユニリーバにとって今、能力のある人材を獲得する上で最も大きな役割を果たしているのが、「サステナビリティー」です。2010年に掲げたビジョンが特に若い世代を引きつけています。調査をすると、実に入社を希望する人たちの約8割が、このビジョンに共感しています。

もちろん、400を超えるブランドの強さもあります。「ラックス(LUX)」、「Dove(ダヴ)」などユニリーバの商品は毎日、190カ国、20億人が使っています。これらのブランドを生かせば、世界の消費者に大きな影響力を与えることができる。つまり、サステナビリティーを追求する姿勢と、それを世界規模で実行できる大きな企業規模が、人材を引きつけているのです。

ユニリーバは伝統的に、ビジネスだけではなく、社会課題を解決していくという「Purpose(パーパス=目的)」があります。最近では世界的に、パーパス・ドリブン(Purpose Driven=目的志向)の企業が注目を集めるようになっていますが、ユニリーバは創業期からそうでした。例えば、石鹸を作り、売ることの背景には、世界の人々を雑菌から守るというパーパスがありました。

年間180万人がユニリーバへの就職を希望

ただ、ユニリーバ・サステナブル・リビング・プランというビジョンを掲げ、そのパーパスをこれまで以上に明確に打ち出したことで、ユニリーバという企業に対する社会からの見方は大きく変わったと思います。実際、私たちは世界60カ国で採用活動を展開していますが、大学生が選ぶ入りたい企業ランキングで1位を獲得している国の数は、このビジョンを掲げる前の2009年は9カ国でしたが、2015年には34カ国に増えています。

採用試験への応募者数も、2009〜2016年に4倍以上に増えて、今では世界中から毎年180万人が応募してきています。

180万人とは、ものすごい数ですね。

ネアー氏:ええ。非常に恵まれた状況といえます。

1980年以降に生まれた、いわゆる「ミレニアル世代」と呼ばれる若い世代は、サステナビリティーに関心が高いと言われています。

ネアー氏:「ミレニアル世代」というのは、あまりいい呼び方ではないですね。ネガティブなイメージも付きまとうからです。いつも携帯電話ばかりを操作していて、人間関係が希薄だとか、真面目に働かないとか……。

しかし、これらもまたステレオタイプな見方です。私は、ミレニアル世代には世界を変えていく力があると思っています。今や、ユニリーバの社員の約半数がミレニアル世代で、他の企業でも非常に大きな比率を占めるようになりました。つまり、ミレニアル世代が今や、世界規模でビジネスのけん引役になっていると言っても過言ではないでしょう。

彼らは、非常に強い意志を持っていますよ。特徴の1つは、ビジネスのパーパスを年上の世代よりも重視する傾向にあるということです。企業がビジネスを通じて、世界をより良くできる、環境をより良くできると信じていて、そのためには何ができるのかを真剣に考えています。既存のルールにとらわれることなく、仕事を任せると高いクリエイティビティーを発揮します。彼らの才能を活かすには、フリーダム(自由)を与えることです。

つまり、ミレニアル世代は、企業をよりサステナブルに変化させると同時に、イノベーションをけん引する存在になり得るのです。物事の透明性をとても重視するのも、特徴の1つですね。ソーシャルメディアを使いこなす彼らは、都合の悪いことを隠そうとするような企業の姿勢を嫌います。ミレニアル世代の才能をどう引き出し、彼らに支持される存在なれるかどうかが、これからの企業の競争力を大きく左右することになると思います。