総合日本型雇用の限界 打破を 多様な働き方欠かせず
新入社員諸君、就職おめでとう。きょうは、君たちとこれからの「働き方」について考えてみたいと思います。日本の会社の雇用システムはどうあるべきか、大事な岐路に立っているからです。
新人が一斉入社する国は、とても例外的です。欧米では大学の専門やインターンシップなどで即戦力かどうかを判断されます。でもポストが空かないと採用がないので、新卒の就職率は低いのです。
日本型と欧米型の仕組みは正反対です。欧米では社歴を重ねても給料が自動的に増えることはありません。日本企業では初任給は安いですが、年齢を重ねると昇給します。
日本型雇用は「メンバーシップ型」(濱口桂一郎著「若者と労働」)と呼ばれています。新卒一括採用や年功賃金、終身雇用が特徴で、勤務地や職種、残業などは会社の指示に従います。これも欧米の「ジョブ型」と異なります。
しかし、日本独特の雇用システムは3つの点で困難に直面しています。
まずグローバル化への対応です。日立製作所で人財統括本部の前人事勤労本部長、迫田雷蔵さん(現・日立総合経営研修所社長)たちは、6年がかりで世界各地の日立グループの会社と、国内の日立の人事制度をマッチングさせる仕組みをつくり上げました。
全世界5万にのぼるポストについて、トップの東原敏昭社長からマネージャーまで7段階のグレードを導入、段階ごとに給料が決まる方式に変えました。年次関係なしに給料が決まるのは、欧米の「ジョブ型」の仕組みです。
狙いは日立グループの内外のパフォーマンスを最大化すること。管理職の定義を内外共通にしないと、現地会社の幹部に日本から赴任しても混乱が起きるからです。
国内では30代半ばから40代の幹部候補生500人を名簿化し、経験を積ませるプログラムを実施中です。実際、40代がグループ会社社長に就任するまでになりました。
新入社員の皆さんにも「早く第一線の仕事を任せてほしい」と思う人がいるでしょう。
日産自動車は約50人の執行役員の4割が外国人です。仏ルノー以外にも多数います。日本人も20代の課長、30代の部長がおり、ホワイトカラーの4分の1は中途採用です。
それでも人事本部副本部長の井原徹さんは「日本人の30代が弱い。経験が足りない」と話します。
日産のリーダーづくりの一端を示しましょう。入社3年でニューヨークに半年間赴任。目標は日産が納入しているイエローキャブの改善です。導入しているタクシー会社の声を聞き、生産しているメキシコ工場にフィードバックし、販売と生産をうまくつなげる。海外で様々な利害を調整する経験をさせて、リーダーシップを磨くのです。
2つ目の限界は、ワークライフバランスへの対応です。皆さんも電通の女性社員が亡くなった事件をご存じだと思います。経団連と連合は繁忙月の残業時間を原則、最長100時間未満に抑えることで合意しました。
しかし慶応大大学院の鶴光太郎教授は、残業時間の上限は「問題の一部であり、全体ではない」と強調します。
「企業は残業時間や勤務地を限定したジョブ型社員(限定正社員)をつくるべきだ」という主張です。そうでないと若手に雑務をさせる文化が消えないとみています。「いま50歳くらいの人たちは、若い頃に寝食を忘れて仕事するのを当然と思っている」
日本型雇用の限界を示す3つ目は、国内で正社員の雇用を守るために非正規社員が急拡大したことです。1990年に全体の2割だったのが、2016年には4割に増えました。連合の古賀伸明前会長は「知人の子どもさんまで非正規になって、やっと気づいた。構造変化に対応が遅れた」と話しています。
「経営者よ、クビ切りするなら切腹せよ」――。当時、日経連会長だった奥田碩さんが月刊文芸春秋に寄稿したのは99年秋でした。多くの会社が人員過剰に直面していた時期でした。正社員を守るために、非正規でコストを制御する方式に変わったのです。
非正規増加の何が問題でしょうか。賃金が安いために結婚する人が大幅に減り、年齢を重ねてもスキルを磨きにくく年収増が見込めず、正社員との格差が大きいことです。
「多くのエコノミストは、日本の潜在成長率を引き上げるために、日本型雇用の見直しが必須と考えている」。富士通総研エグゼクティブ・フェローの早川英男さんはそう話しています。
日本型雇用の限界を打破するには、欧米型とのハイブリッドに改め、多様な働き方を認める必要があります。今のままでは、違う背景の人たちの英知を集めるイノベーションも、生まれにくいのではないでしょうか。
政府の後押しも必要です。第一生命経済研究所特別顧問の松元崇さんは「手厚い高齢者向けの社会保障給付を削減して、(非正規労働者ら)現役世代向けに回すべきだ」と指摘しています。
最後に新入社員諸君。89年4月、作家の山口瞳さんが新人たちに贈ったメッセージを紹介しましょう。「会社勤めで何がものを言うかと問われるとき、僕は、いま、少しも逡巡(しゅんじゅん)することなく『それは誠意です』と答えている」
ちょうどご両親が新入社員の頃。洋の東西を問わず、古びてもいない言葉です。
