総合会社を成長させるには、「総合職」を廃止せよ
半年間、委員を務めさせていただいた経済産業省「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会」が終わり、報告書が提出された。
もともとこの会議は、女性活躍推進法後の企業のダイバーシティ推進について、「形式的に数値目標を達成することなどに終始して、結局競争戦略につながらなければ意味がない」という経産省サイドの問題意識ではじまった。
競争戦略として企業の成長につながる実質的なダイバーシティ2.0に進めるにはどうしたらいいのかということで、先進企業のベストプラクティスをもとに「7つのアクションプラン」が整理されている。
経営トップが、ダイバーシティが経営戦略に不可欠であること(ダイバーシティ・ポリシー)を明確にし、KPI・ロードマップを策定するとともに、自らの責任で取組をリードする。
(2)推進体制の構築
ダイバーシティの取組を全社的・継続的に進めるために、推進体制を構築し、経営トップが実行に 責任を持つ。
(3)ガバナンスの改革
構成員の多様性の確保により取締役会の監督機能を高め、取締役会がダイバーシティ経営の 取組を適切に監督する。
(4)全社的な環境・ルールの整備
属性に関わらず活躍できる人事制度の見直し、働き方改革を実行する。
(5)管理職の行動・意識改革
従業員の多様性を活かせるマネージャーを育成する。
(6)従業員の行動・意識改革
多様なキャリアパスを構築し、従業員一人ひとりが自律的に行動できるよう、キャリアオーナーシップ を育成する。
(7)労働市場・資本市場への情報開示と対話
一貫した人材戦略を策定・実行し、その内容・成果を効果的に労働市場に発信する。 投資家に対して、企業価値向上に繋がるダイバーシティの方針・取組を適切な媒体を通じ積極的 に発信し、対話を行う。
アクションプランは現時点で強制力もなければ、すぐに企業が使えるノウハウ集という形にもなっていない。ただ、この会議は経営者・人事担当役員など企業サイドと、投資家・ガバナンス専門家などの投資関係者が一堂に会したことに意義があったと思う。
ダイバーシティのない企業のリスク
会議の中では、ダイバーシティを本気で進めるには「トップダウンで力づくで既得権益を奪っていく必要がある」といったトップの覚悟を求める発言と、その必要性を裏付けるかのように投資家側から「CSR報告書のようなものではなく、アニュアルレポートや中期経営計画などトップがコミットしていると分かるよう、あらゆるIR資料に方針を書くべき」という声が出た。なぜダイバーシティが投資家にとっても重要なのか。
1つは、よく指摘される理由で、ダイバーシティ&インクルージョンが「イノベーション」につながるとされるためだ。多様な経験、能力、視点のある人が集まることが企業のパフォーマンスを上げるという研究や調査があり、投資家もアップサイドを狙いたいわけだ。
2つ目が、ガバナンスを効かせるためという理由だ。背景として、海外投資家の間でも、リーマンショックをきっかけに取締役会の女性比率など「ダイバーシティ」が強く意識されるようになったという。
リーマンショックの際、私も証券部記者として海の向こうから押し寄せる資本市場の混乱を目の当たりにしたが、どうして誰もリスクを指摘できなかったのかということが当然議論の遡上に上がる。
その中で、均質な人材の意思決定で突き進んでおり、多様性がない企業はガバナンスが効きづらいという認識が広まっていったようだ。また、多様性があっても「反対意見を言う」「人と違う行動をする」といった行動に「心理的な安全」(Psychological Safety)を感じられないような「インクルージョン」のない組織は、存続性や成長性においてリスクがあるということになる。
3つ目の要因として、会議の中で「日本企業は海外企業に雇い負けしている」という指摘があった。日本人が香港やシンガポールで働くことを選ぶ、優秀な女性が外資系企業に就職する、あるいは外国人留学生がせっかく日本に来て就職しても離職してしまう…といったことが実際に起こっている。多様性がないこととトートロジーではあるが、こうした「人材の確保」も企業にとっては成長に対するリスクになる。
以上のような理由で、経産省の当該会議では投資家にとっても「ダイバーシティ」が重要という認識が広がっていることが確認された。そこで企業と市場の対話としての情報開示の必要性などがアクションプランに入ったわけだ。
働き方改革ともリンクする
この会議では、もう1つの論点として「働き方改革」もたびたび話題にあがった。委員が共通して「ダイバーシティをやろうとすれば働き方改革に自然と手を付けないといけなくなる」「働き方改革とダイバーシティ推進はセット」という認識を持っていたともいえるだろう。
つまり、「24時間働けます、いつどこにでも転勤します」という前提を付けていればおのずから女性や外国人を排除してしまうというわけだ。これについては、企業側、投資家・ガバナンス関係者も同じ認識をしていたと感じる。
先日、日経新聞で「投資会社ブラックロックが投資先に働き方改革についてのレターを送った」と報道されていたが、ESG投資が盛り上がる中では投資家サイドも働き方を今後注視する動きが広がっていくだろう。ダイバーシティを進めること、働き方改革を進めることは経営者にとってもはや必須の戦略になる。
なお、会議の中で「企業に働き方についての情報開示を義務付けることはできないのか」と何度か提案したが、「形式的に目指しても意味がない」との意見もあり、実現には至らなかった。
裏を返せば、いかに改革を実行し、それを投資家にPRできるかは個々の企業に任されることになる。これまで人事任せ、CSR的位置づけで他部署を巻き込み切れていなかった企業もあろうが、IRも含め、ダイバーシティ戦略を本気で進めないといけなくなる。
長時間労働の根本原因
会議では、労働市場との対話についても議論された。私は労働市場に対してもわかりやすい情報開示の必要性を何度か訴えた。今年度の就職活動が本格化する中で、学生たちには企業の働き方やダイバーシティの進み度合いをきちんと見極めてもらいたい。
採用とその後の育成という意味では、会議の派生イベントである経済産業省主催のシンポジウムで、新卒採用からジェネラリスト的に人を育てる「総合職」という枠組み自体を疑う必要性についても問題提起もした。
「総合職」はコミットを求め、職務を限定せずに様々な部署を経験させる。昇進が遅く外国人などを生かしきれない、限られた時間で成果を出したい育児・介護中の社員などの活躍を阻害するなどの問題点も含んでいる。日本人男性であっても、担当が変わるたびに長時間労働を要請される一因となる。個々の強みを生かすというよりは平均的に総合得点が高い人を育てる枠組みで「ダイバーシティ&インクルージョン」からは遠い。

これに対して、会議の参加企業からは同じ問題意識から「エンジニアなど分野によっては専門職採用をはじめている」「全社的にジョブ型に切り替えている」「総合職そのものの魅力をあげようとしている」などの事例共有があった。
ただ、個々人のキャリア形成や育成にも直結する問題だけに「最初は総合職で、徐々に専門職的にキャリアを築けるようにするのがいい」「はじめに専門性を身に着けてから、徐々に広げて総合的に経営を見られる人材を育成する必要がある」など真逆の発言も出ていた。先進企業も非常に模索しており、統一見解になるような「答え」はおそらくまだ誰も見えていない。
人の採用、育成、評価すべてと絡み合っている問題は長期的にしか判断できない側面もある。働き方改革についても、「リモートワークが非常に進んで誰もオフィスにいない会社で新入社員はきちんと指導されるか」「効率重視で働いたときに、若手がきちんと育つか」といったことを懸念している企業は多い。すでに多様化し、融解しつつある「総合職」をどうしていくのか、ある程度状況を見極めながら進めていく必要はあるのだろう。
おそらく、このままダイバーシティを進めていくと、日本の雇用慣行そのものの見直しがいずれかのタイミングで必要になろう。今回の会議ではこうした抜本的な「慣行」をどう変えていくのかまでは見えてこなかった。
せっかく政府主導で検討するのであれば、すでにできているベストプラクティスを集めるだけではなく、制度的な難点がどこかということを含めて今後議論が進展することを期待したい。