総合「人事は不公平」に挑むアイリス流の360度評価
「イエローカード制度」「論文発表」など独自の社員評価制度を持つアイリスオーヤマ(仙台市)。今では広く普及している360度評価も2003年から取り入れるなど、大山健太郎社長は「社員にとってよい評価とは何か」を徹底的に考えてきた。シャープなどからベテラン技術者を積極採用し、家電事業にも本格的に乗り出す大山社長に、人の成長につながる評価とは何かを尋ねた。
■人柄、意欲、能力の順でチェックする
――人を新たに採用するときの、評価の基準はありますか。
「アイリスオーヤマ(以下、アイリス)の新卒採用には、3つの基準があります。順に、1に人柄、2に意欲、3に能力。人柄が悪い、なんて人はそんなにいません。だいたい8割合格です。『入りたい』と思う人は比較的意欲が高いし、滑り止めとして内定をもらおう、という人は意欲が低いのだから、これもあまり問題がない。能力は、最後です。しかし、たいてい逆で、まず試験で選ぶでしょう。何々大学を卒業して入社試験の成績がよかった、といわれてもこの結果からは人柄も意欲も伝わらないよね。よくいうのだけど、能力があっても意欲がない人って結構います。これは組織が困ります。もっと困るのは、能力と意欲があっても人柄が悪いという例。意外といるんですよ」
「組織はチームプレイです。野球でも、たいした選手がいなくても名監督がいて、チームの心の1つになると強くなるときがあるでしょう。どんなに能力の高い選手をそろえても、チームプレイである限り心が1つにならないとうまくいかないし、一人でも人柄が悪いのがいると組織は乱れます」
――能力は筆記試験でわかりますが、人柄の選別は面接でも難しいのでは。
「わかりますよ。人事担当者はプロですから、人柄を見られないようではだめです。能力とは、結局学校の成績です。学校出てすぐ会社に入るわけだから。しかし、知っていることを伝えられるのが学校の成績ですが、仕事の現場では知っていても、できなければ何の意味もない。できて初めて『知っている』といえるのです。ですから、アイリスでは学校の偏差値や学部も参考にはしますが、合否の大きな基準にはしません。入社してから、業務や研修で育ってもらえばいい」
■徹底した360度評価
――従業員の評価は、どのような基準なのですか。
「3つの基準があります。1つ目が能力。30歳前後で就く『リーダー職』以上の社員は全員、テーマを提示して、A4判、2ページ分ほどの論文を書いてもらっています。その論文と前年の成果について、役員や幹部の前で発表してもらうのです。テーマで一番多いのは、今の部署の課題に対してどうアプローチしていくのか、解決していくのか、今の自分の問題点と解決方法などですね。2つ目が実績。しかし、これは商品や得意先、景気などの環境要因で変わります。たまたま仙台支店で成績が良かった人が、他の地域でも好成績か、といえばこれはわからない。自分の扱っていた商品がヒットすれば、売り上げはのびます。3つ目が、360度評価です」
――「360度評価」をかなり以前から導入していますが。
「360度評価を実施している会社でも、うちほど徹底してやっていないように思います。うちの360度評価は、上司、同僚、部下、それぞれ5人ずつ、あわせて15人くらいで評価します。みんな、自分の上司のことをなかなか悪くかけないから、事実を書いてもらうために、当然公表しないように注意をしています。外部に委託して点数をつけてもらって、人事も見ていません。そうしなければ、『甘辛』が出るというか、評価がゆがみます」
――なぜここまで徹底して評価にこだわるのですか。
「私は勤めたことないけれど、自分が勤めるならどんな会社に入りたいかを考えてみました。それは、目的や目標がはっきりわかり、それに対して正しい評価をしてくれる会社です。その評価が結果的に昇格や自分の待遇につながれば一番いいわけでしょう。それができないのが大企業です。年次で上にあがり、1人1人と脱落して、最後にトップが1人だけ残るしくみです。またそれしかできません。うちの会社は、企業理念にあるように『ちゃんと』働く人にとってよい会社。ぶら下がっている人は大変だから、やめていく。無理だな、ちょっと大変だな、とね。追い越しできる人は喜んで進む。競い合いです」
「人事とは、不公平なものです。何をもって公平とするのか。成果主義にすると環境要因もあるし、事実であっても公平でもない。能力ももちろん、ないよりはあったほうがいいけれどすべてではない。チームワークなのだから、360度評価で同僚や上司、部下からどう思われているかを見るのも大切。この3つを3分の1ずつにする。360度評価を生かすためにも、平等で公平かはわからないが、このバランスを取っているのです。アイリスの人事評価委員会のメンバーは、2月のうち20日間は、この仕事をしている。だから、うちの会社、2月はあまり仕事ができない(笑)。しかし、それが大事で、何より社員のためにやっているのです。だから、社員は一生懸命がんばってくれる」
――サッカーになぞらえた「イエローカード」制度、社員の降格のシステムもありますね。
「うちの360度評価では、項目ごとに平均点と点数が出ます。仮に100人いれば、必然的に1番から100番も出る。91番から100番の人はイエローカードです。我々は、これを『気づきカード』と呼んでいます。サッカーのイエローカードと同じく、『注意しろよ』ということです。もらった人の多くは『自分はこんなに実績を出しているのに、なぜイエローカードなのか』という。しかし、周りからはこう見られているよ、と」
■今いる人を育てるしかない
――起業家の先輩として、ベンチャー経営者に一番相談を受けることはなんでしょう。
「どこの会社も人材不足といいます。人手不足以上に人材不足で、右腕がいない、優秀な社員がいない、どうしたらいいのかと。しかし、どうしようもないんですよ。なぜなら、経営者が『将来会社をこうしたいから、優秀な人がほしい』といっても、従業員は今の会社の売り上げ、組織や利益しか分からない。ところが経営者は、100のものを120や150にしたい、あんな人もこんな人もほしいし、技術もほしいというばかり。本来は、今いる人を育てていかに仕事をするかが大事なのです」
「10人いるなら10人を育てる。自分で全部やるんだ、社員は能力がないといわず、まず任せるのです。松下幸之助さんも奥さんの弟を連れてきて創業した。会社が成長して初めて一流の人は入ってくるのであって、親戚や親子ではないかぎり、一流の人が中小企業に最初から入ってくれるはずがない。これが現実です。金がないが人はほしいというのも、ないものねだりです。本当に人がほしいのなら、100万円でも200万円かけても努力しなければ」
――大山社長が家業を継いだとき、社員は何人だったのですか。
「5人です。私も40歳代までは技術でも売り上げでもなく、人が足りないとばかりいっていた。足りなかったから、弟を1人1人引っ張ってきた(笑)。もちろん今でもよりいい人はほしいし、人手不足です。しかし、私は今でも、海外の工場を立ち上げるときも、どこかの商社から引っこ抜いたりしません。英語もしゃべれない、現場から育った高卒の人を工場長にします。中途採用はしていますが、ヘッドハンティングは一切やりません。今いる社員が頑張って成長すれば、周りも成長します。何より、どこかの大会社から偉い人がいきなりきたら、部下は仕事しなくなります。海外の4番バッターを高い金で引っ張ってきても、そういう人はいずれまた金で逃げていきますよ」
■大阪のベテランエンジニアを採用
――アイリスは13年、大阪市内に家電の開発センター(大阪R&Dセンター)を作り、家電メーカーのベテランエンジニアが続々と入社しています。今は宮城に拠点を置かれていますが、大阪に拠点を作ったのは、もともと大山社長の出身地ということもあったのでしょうか。
「地元というのは、正直、後付けですね(笑)。シャープやパナソニック、三洋電機(当時)など、大阪の家電メーカーの経営が厳しくなり、技術を持っていたけれどリストラされた人たちが大量に出ました。その受け皿になったのです。我々は、もともと家電にも数多くのアイデアがあり、家電事業をやりたかったしね」
「当初、彼らに仙台にきてもらおうと思っていました。しかし、リストラされた人の大半が40歳代、50歳代以上の家庭のある人で、いまさら単身赴任で仙台までいけないといわれてしまった。きてくれる人もいたけど打率は2割くらい。残り8割の人を採用するには、会社を大阪に作ればいいんじゃないかと。それでも、滋賀県や門真市(大阪府)、八尾市(同)などメーカーによって工場がバラバラだったので、全員にとって一番便利な場所を探して、(大阪市の)心斎橋にビルを買ったのです。この家電開発、非常にうまくいって今では売り上げの4割を占めるようになりました。あともう少しすれば、とんでもない会社になりますよ」
大山健太郎(おおやま・けんたろう)
1945年大阪府生まれ。64年大山ブロー工業代表者に就任。91年アイリスオーヤマに社名変更。著書に「アイリスオーヤマの経営理念 大山健太郎 私の履歴書」(日本経済新聞出版社 )がある。71歳。

