総合「副業解禁」から見えてきた理想的な働き方/ロート製薬 吉野俊昭社長
ロート製薬株式会社が2016年6月に始めた、斬新な2つの制度が話題になった。コーポレートアイデンティティ「NEVER SAY NEVER」実現のため、枠組を超えた働き方に挑戦できる「社外チャレンジワーク制度」と「社内ダブルジョブ制度」である。
代表取締役社長兼COOの吉野俊昭氏にスタートから8か月経った現在の状況をForbes JAPANの谷本有香が聞いた。
谷本有香(以下、谷本):2つのチャレンジングな制度が始まった背景とは。
吉野俊昭(以下、吉野):当社は医療品、化粧品、サプリメントなどの製品の開発、提供の事業を行っていましたが、より新しいチャレンジをする必要性がでてきました。一方で、新事業企画の模索には、これまで培ってきた知識だけでは足りない。そこで、従業員全員が新しい知識を身に着けるにはどうしたらいいかと議題に挙がっていました。
そんな中、3年ほど前、取引先のサプライヤーさんにお伺いしたときに、次々と新事業にチャレンジしている様子を拝見して驚きました。これが、ジョブローテーションだけでは足りないかもしれないと考えを改めるきっかけになったのです。そこで2014年に30名弱の若手社員を中心に、働き方の可能性について話し合ってもらったところ、20を超えるアイデアが出てきた中に、社外との兼業、社内での兼任という案が出たため、そこからスタートしました。
谷本:当時の社内での反応はいかがでしたか。
吉野:元々社内では何か発見できるようにと、営業なら生産の、マーケティングなら開発の業務に、部門間の垣根を超えて関わるように呼びかけていましたし、兼業解禁についても、社外で学ぶ必要性を議論していました。そのため社内の反応は、世間程の驚きはありませんでしたね。
谷本:実際に制度をスタートして、どれくらいの人が集まったのでしょうか。
吉野:副業への希望者は63名ほどで、実際には20名強の人数が他社と兼業をしています。社内のダブル業務は100名ほど応募があり、30名ほどがスタートしています。前者においては、なにより上司の理解が、健康上の配慮の観点からも必要ですから、上長と本人と人事と三者面談しながら慎重にことを進めるようにしています。
予想外のことをひとつ挙げると、応募者が、20代から50代まで均等に分かれたことです。キャリアを築いた人ほど挙手しないのではないかと思っていましたが、そうでもありません。皆が熱意をもって応募してきている様子でした。
谷本:従業員の方が望まれた副業先とはどういったものでしたか。
吉野:本業に近いところでいえば、薬剤師の資格を持つ人が、土日に調剤薬局で勉強をしながら直接生活者の方と接したいという提案。他には、NPO法人での活動や、故郷を活性化するために企画を考案したいという話などもありました。本業とは一見関係ないようですが、地方創成や地元の産業との取組みは、これから企業が存続していく上での課題でもあります。今後取り組む上でゼロからスタートするよりも、副業先から成果やアイデアを持って帰ってもらうことで、より発展的な内容にできるメリットがあります。
提案は自由ですが、線引きも必要です。実際に出た例を挙げますと、バーテンダ―希望者が1名いました。「就業後の過酷な勤務で続けられないのでは」という反対派、「お酒の場で盛り上がって有益な話を聞くことができるかもしれない」という賛成派で意見が別れました。しかし、日中働いて、夜間も働くとなると健康を維持できない恐れがあります。そのため、残念ながら辞退してもらいました。
谷本:副業制度を始めてから出てきた課題はありましたか。
吉野:副業の第一条件は、本業に支障がでないこと。それは競合他社に勤務するというようなこと以外にも、先ほど挙げたような健康面も含んでいます。どれだけ熱意があっても、従業員の健康を優先して考えなければいけない。その点はきちんと線引きします。
人材の流出についてですが、今の時代は人材が流動的であることは当たり前です。これまでも制度の有無に関係なく、中途採用、退職者の例はありました。兼業した先で、個々の才能を伸ばすことができたのならば、弊社を卒業してもいいと考えています。生涯一企業の時代はとうに過ぎました。問題意識はありません。
谷本:社内のダブル業務における課題はありますか。
吉野:課題というよりは気を付けている点ではありますが、社内の本部長たちにもジョブローテーションなどで各分野の垣根を超えるよう働きかけています。上がやらないと下にもその意志が伝わりませんし、ダブル業務を受け入れる側、送り出す側、双方の業務を知らないとこの制度は成り立たないと考えています。
谷本:制度を設けて社内でプラスになっていることはありますか。またこの先に向けてはどのようにお考えでしょうか。
吉野:2つの制度は始まったばかりで、試行錯誤の段階であり、具体的にこの先のどのように考えているかはまだ話せません。しかし、副業や社内ダブルジョブをする人間は活き活きしているように見えます。これからも、笑顔でチャレンジをし続けられるような仕掛けをどんどん取り入れていきたい。その分、健康面、メンタル面、現状など、定期的に話を聞きながら、フォローの体制を整えていきます。
谷本:副業を解禁する企業は今後増えていくのでしょうか。
吉野:私どもは元々新しいコーポレートアイデンティティに重きを置き、その下で副業・ダブル業務推奨を掲げたら後者がメディアに取り上げられてしまいました。当時はまだ世間的に少ないのだと思っていましたが、最近は副業推奨を取り入れる企業数が全体の14%まで膨らんできています。これからのトレンドとしては当然の推移でしょう。
谷本:最後に、吉野さんが考えられる理想の働き方について教えてください。
吉野:近年、環境の変化に伴い、企業も変わってきています。副業は、自分の勤めている会社や業界外でどのようなことが起こっているか、環境の変化を実際に体感することにつながります。自分なりに得た知識を企業に還元できるということは、新しいビジネスや制度改革の可能性につながります。それは社内のダブルジョブで、異なる部門の垣根を越えることからも得られます。
社外でも社内でも、横のネットワークをつなげていけば、本人の知識や経験を積み上げることができます。またモチベーションを維持するためにも大事なことだと思います。そういった社員が活き活きとするような働き方が理想だと私は考えております。
吉野俊昭◎ロート製薬株式会社の代表取締役社長、COOを兼任。1950年生まれ。甲南大学法学部卒業後、ロート製薬に入社。03年5月執行役員ヘルスケア第一営業部長、04年6月取締役就任。同年7月取締役ヘルスケア事業本部長、05年5月同マーケティング本部長、08年5月同東京支社長、同年6月常務取締役就任。