「残業半減・有休取得95%」、SCSKはいかにして実現したか

総合「残業半減・有休取得95%」、SCSKはいかにして実現したか

SCSKが健康経営に乗り出すきっかけとなったのは、2009年に同社の前身の1社である住商情報システムの社長に中井戸信英氏(現SCSK相談役)が就任したことだ。今でこそ健康経営の推進企業として知られるSCSKだが、当時は「社員たちが、昼休みに弁当も食べず机に突っ伏し、夜になるとタクシーが列を成す」(人事グループ ライフサポート推進室長の山口功氏)という状況。

「IT企業は時間でなくインテリジェンスで勝負すべきなのに、時間を売り、健康を売っているだけだ。これではこの会社の未来はない」。中井戸氏は決意を固めた。

SCSK 人事グループ ライフサポート推進室長の山口功氏
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残業削減は経営にとっても重要である──。そう認識していても気になるのが「1人月いくら」というIT業界の受託開発の典型的な費用体系だ。「残業を減らしたら受注額も減ってしまい、業績に影響してしまうのでは」。役員や社員のなかには、そう心配する声もあったというが、中井戸氏ら経営トップは「たとえ一時的に業績が下がるとしても、健康経営は我々が実現しなければならない通過点だ。業績は必ず後で付いてくる」と自ら退路を断った。

具体的な施策として健康経営に取り組み始めたのは、本社移転や住商情報システムとCSKの経営統合を経た2012年度のことだ。同年夏には「残業半減」を全社で掲げ、翌2013年度からは年20日付与される有給休暇の100%取得も含め「スマートワークチャレンジ(スマチャレ)」と改称した。一連の取り組みを始める前の2009年度は、平均残業時間が35時間、有給休暇の取得日数は13日だった。これに対し同社は、平均残業時間20時間、有給休暇取得は20日、つまり年間に付与される有休休暇を100%取得することを目指した。

 

もちろん、ただ「早く帰れ」「有休を取れ」というだけでは実効性に乏しい。そこで同社は、複数の施策を次々に打ち出し、全社を挙げて推進することで残業半減と有休取得100%へ突き進んだ。例えば「バックアップ休暇制度」。年休を使い切った社員が病気などやむを得ない事情で出勤できなくなっても、同制度を使うことで、減給対象となる「欠勤」にならずに済む。年度末に近い1~2月はインフルエンザの流行期でもあり、「もし年末年始までに年休を使い切ってしまうと、インフルエンザなどで休まざるを得なくなったときに困る」と懸念する社員がいると考えて設けた制度だ。2012年の制定当時は3日付与だったが、インフルエンザの発症から回復までの平均期間を踏まえ、現在は5日付与に拡充している。

「達成インセンティブ」、大きな効果を発揮したが廃止

 

2013~15年度に実施し、残業削減に大きく寄与したのは「達成インセンティブ」である。一言で言うと、残業の減少で浮いた人件費を社員に還元する制度だ。同制度では、部門ごとに1年間の残業時間の削減目標と、例えば95%など一定水準以上の有休取得率目標を設定する。その2つの目標を達成すると、インセンティブとしてその部門の社員を対象に翌年夏の賞与を増額する。2013年度の実績を基にした2014年夏の賞与では、最高で1人当たり12万円増額となった。翌2015年夏は、同15万円も増額となった部門があったという。

「会社は業績を上げることを目当てに残業手当を減らしているのではない。浮いた原資はきちんと社員に還元する、という意思を具現化したものだ」と山口氏は説明する。残業の削減は働き過ぎの社員にとってはうれしいことだが、その半面、残業手当の減少により生活給が減ってしまう要因にもなる。会社の狙いは従業員の給与削減ではないので、達成インセンティブという形で還元したわけだ。

この制度は2年間運用したのち、2014年度集計・2015年夏支払い分をもって廃止となった。ただ、廃止したのは制度が不発だからではない。むしろ「残業削減と有休取得がだいぶ定着してきた」(山口氏)ことで、目標を達成した部門だけが得られるインセンティブという制定当初の趣旨が薄れてしまったためだ。代わりに2015年度からは裁量労働制を拡大するとともに、若手社員を対象にいわゆる「みなし残業」を導入した。20時間程度の残業に相当する手当てをあらかじめ支給するものだ。もちろん1カ月の残業がゼロでも手当ては減額されない。「『どうしても残業が発生する場合も、できるだけ月20時間の範囲でやってほしい』という趣旨」(山口氏)とする。

残業が月20時間を超えた場合は超過分の手当てを支給するが、「残業手当」ではなく「健康手当」と名付けている。「法律上、残業すればその分の手当てを支払う必要があるが、『あなたの健康が心配なので支給します』という意味を込めて、残業手当とは呼ばず名前を変えて支給している」(山口氏)のだ。その後対象を拡大し、現在は全社員に対し、月20時間分相当のみなし残業手当てか、それに相当する裁量労働制の手当てを支払うようにしている。

2014年4月には、残業申請時の承認ルールを変更した。各社員・各月の残業時間に応じて、決裁者の階層が上がっていくのだ。20時間以上は部長決裁、40時間以上は本部長決裁、60時間以上は分掌役員(部門長)決裁、そして80時間以上になると社長の決裁を受けないと残業ができないようにした。「管理職が部長や役員へ事前に『この社員がこういう理由で残業します、対策はこうです、承認してください』と報告に来るようになり、部下に漫然と残業させることがなくなった」(山口氏)。

健康の「マイレージ」を賞与に還元

ITも活用している。一つは2015年度に始めた「健康わくわくマイレージ」だ。毎年受診する定期健康診断の結果に加え、健康増進に役立つ行動をウェブサイトに登録することでポイントを蓄積できるものだ。前者はBMIや血中脂質、糖代謝、肝機能、血圧といった生活習慣病関連のデータが対象。後者はウオーキングや朝食、休肝日、歯磨き、禁煙などが対象だ。

各社員が獲得したポイントは次年度の夏の賞与増額という形で還元される。2015年度は1億円の原資を用意。1人で10万4000円を獲得した社員もいたという。また、ウオーキングの実施率はわくわくマイレージ導入前の34%から74%へ、歯科検診の実施率は31%から75%へ増加。喫煙率は36%から19%へ減少するなど、同制度を契機として健康に気を遣う社員が目に見えて増加している。

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同社が社員向けに実施している「健康わくわくマイレージ」の画面例
(画像提供:SCSK)

また、出勤簿上の残業時間に加えて、ICカードの入館証などで集計した勤務記録を照合し、両者の数値に大きな差異がある社員に確認を取ることで、サービス残業を減らしている。

このほか健康経営を進めるため、(1)客先に常駐する社員に配慮し、社長名で客先へ手紙を送付して残業削減や休暇取得への理解と協力を促す、(2)働き方改革のアイデアコンテストを実施して、各組織の取り組みや成果を他の組織に共有する、(3)年1回、サービス残業に関する無記名のアンケートを実施する、(4)休日出勤や長時間残業が改善されない組織を対象に賦課金を課す、(5)2010年に移転した新本社に社員食堂、カフェテリア、診療所、マッサージ室といった施設を用意する──といった取り組みを実施している。

「社員ファースト」の制度設計なら、将来的に組織も良くなる

 

一連の取り組みのポイントは2つある。一つは、施策が常に社員ファースト、つまり社員が恩恵を受ける形になるよう制度設計することだ。こうした健康経営の施策はコストがかかったり生産性が低下したりするのでは、と考えがちだ。しかしSCSKの場合は「社員が恩恵を受ける施策を実施することが、将来的に組織を良くすることにもつながる」(山口氏)という考えで終始一貫している。

もう一つは、個人任せの施策でなく組織単位や会社全体で取り組む施策とすることだ。「施策の実施を個人任せにすると、サボったりしてしまうこともある。組織や全社の取り組みとして各方面から働きかけることで、社員の参加を促しみんなで一緒に推進するようになる」(山口氏)。

こうした取り組みが奏功し、平均残業時間は2009年度の35時間から2014年度に20時間を切り、直近の2015年度は18時間と以前の約半分まで減らしている。この残業時間の減少と呼応して、メンタル系の疾患で休む社員も減少。有給休暇の平均取得日数は2009年度の13日から2014~15年度に19日、取得率は約95%まで上昇した。

健康経営を一過性の取り組みで終わらせないよう、SCSKは2015年10月、健康経営の理念を就業規則に制定。「社員が心身の健康を保ち、仕事にやりがいを持ち、最高のパフォーマンスを発揮してこそ、お客様の喜びと感動につながる最高のサービスが提供できる」。そう明記したのだ。「社員が守るべきルールのトップにあるのが就業規則であり、そこに記載するのが大切。就業規則に理念のようなものを制定するのは珍しいのではないか」。山口氏はそう胸を張る。