新卒就活スタート 学生は働き方にも関心
「厳しい環境では、働きたくない」「休日の少ない企業は、なるべく避けたい」 始まったばかりの説明会で、多くの学生が気にしていたのが「入社後の働き方」です。人手不足を背景に、ことしも学生優位の「売手市場」になる見込みですが、大手広告会社、電通の女性社員が過労で自殺した問題など背景に、学生の間では就職したあとの働き方に関心が集まっているのです。
学生優位の売手市場
3月1日、千葉市の幕張メッセで開かれた合同企業説明会。参加した企業はおよそ600社。全国からおよそ3万人の学生が訪れた全国で最大規模の説明会です。
午前11時の開場前から、リクルートスーツに身を包んだ学生の長蛇の列ができていました。主な企業への就職活動は、経団連が自主的にまとめる「指針」に沿って行われます。
ことしは、会社説明会が3月1日から、採用面接が6月1日から解禁されます。去年と同じスケジュールです。説明会から面接までの期間が、事実上3か月間しかないため、去年と同じ“短期決戦”となります。
ことしの就職戦線も、人手不足を背景に引き続き学生に優位な「売手市場」になる見通しです。リクルートワークス研究所の調査によりますと、来年春の採用が、ことしより「増える」と回答した企業は13.5%。「減る」の5.7%を7.8ポイント上回りました。売手市場が続き、予定していた採用枠を埋め切れない企業も増えているということです。
リクルートキャリア就職みらい研究所の岡崎仁美所長は「ことしも引き続き企業の採用意欲が高い。毎年の採用で人材を取り切れていない企業が少なくなく、ことしこそ採用したいという企業が多いので、学生にとっては活動がしやすいと思う」と話しています。

ことしは働き方にも関心
「厳しい環境では、働きたくない」
会社説明会に来ていたある男子学生の言葉です。大手広告会社、電通の新入社員が過労で自殺した問題を背景に、これまでより入社してからの働き方への関心が学生の間で高まっているようです。ネット上で企業のさまざまな情報が出回っていることもあり、学生たちは会社案内やホームページに書かれている“体裁の整った情報”に懐疑的です。
「自分がやりたい仕事なら、厳しい職場環境でも頑張りたい」という声が聞かれた一方で、「給料よりも仕事内容が充実していて楽しく働ける会社がいい」とか「過労死になるほど働きたくない。ワークライフバランスを重視したい」、「休日の少ない企業は、なるべく避けたい」という声を耳にしました。
バリバリ働きたいという学生でも、残業や休日出勤がどのくらいあるのかなど、本当の働き方を知ったうえで入社したいと話す学生も目立ちました。
企業は“働き方改革”をアピール
こうした学生の変化に着目し、働きやすい職場環境をアピールする企業が、ことしは増えています。
「だらだら残業する時代はもう終わりました」
東京・豊島区の合同説明会の会場で、金融サービス大手、オリックスの社員が力強く話すと、リクルートスーツに身を固めた学生たちのひたむきなまなざしが集まりました。オリックスは去年10月、若手社員などによる社内組織を作り、働き方改革を進めています。
リース事業や保険など幅広い金融サービスを手がけてきたこの会社は、残業も辞さない営業職が中心となって発展してきました。しかし、グループ全体で4割を占める女性社員に加え、外国人社員の登用などが進む中、柔軟な人事制度を導入しないと企業の成長が限られたものになる。そういう危機感もあって、働き方改革に本腰を入れはじめたのです。
この会社では、4月からは、有給休暇を5日以上連続で取得した社員に対して最大5万円の奨励金を支給する制度や、所定労働時間を給与水準を落とさずに20分短縮することにしています。人材の奪い合いが激しくなる中、学生が納得する「働き方」をどうアピールできるかも、優秀な学生を採用する上で重要なポイントになっているのです。

手探りのアピール
しかし、3月1日の採用説明会の前日に行われた人事担当者の打ち合わせでは、「ただ休みたい、楽をしたいという学生が集まっても困る」と本音も漏れました。そこで本番では、担当者が新しく導入する制度を説明するのに加えて、「取得した有休や空いた時間で楽をしてもらうわけではなく、自分のスキルアップに充ててほしい」と強調し、社員のスキルアップを企業の生産性向上につなげるという働き方改革の趣旨を説明しました。
オリックス人事部の直井厚郎部長は 「働き方改革を進めて優秀な人材を集めることができれば、新しいビジネスを進める原動力になる。学生の働き方への考え方が多様化しているので、会社も対応していかないといけない」と話していました。

離職率の低下を目指して
企業にとっては、採用した人材をどう戦力として育成していくかも大きな課題です。東京・中央区のITベンチャーのメンバーズは、去年4月から残業の削減と賃上げの両立をはかる取り組みを始めました。
社員およそ600人のこの企業が、働き方や賃金の見直しに乗り出したきっかけは、離職率の上昇です。転職の理由を社員に聞き取りしたところ、「残業が多い状況がこの先も続くのか」など働き方への不満や、「今後、どのくらい年収が上がるか見えにくい」など将来への不安が出されました。

このため、この会社では、今後3年間で「年収の20%アップ」と「残業時間を50%削減」の実現を目標として掲げました。また、これまで業績連動で支給されていたボーナスも見直しました。残業を削減するため、毎朝のミーティングで残業時間を報告させ、業務が特定の人に集中しないよう働き方を見直しました。
こうした取り組みの結果、残業時間は昨年度よりおよそ30%減少。一時、14%近くまで上昇した離職率は、今は7%程度まで下がったということです。
この会社では、来春におよそ140人の新卒学生を採用する計画ですが、会社説明会やフェイスブックなどのSNSでも、こうした働き方改革を重点的にアピールしています。高野明彦常務は「ITベンチャーはおもしろい仕事なのに、就労環境の問題や、やや信頼性に欠けるという側面のおかげで、本来あるべき優秀な人材が取り切れていない。そういう観点から業界全体として、どれだけブラックではなく『ホワイト企業』なのかの競争になればよい」と話していました。

納得感のある就職活動を
ホワイト企業競争とも言われ始めた、ことしの就職活動。リクルートキャリア就職みらい研究所の岡崎仁美所長は、こうした採用環境だからこそ、入社してからの働き方をしっかり研究する必要があると指摘しています。
岡崎さんは「労働時間や有給休暇の取得状況、それに、社内の人間関係など、実際に働く環境に対する学生の関心が高まっている。就職活動の目的は、会社に入ってから生き生きと働くことなので、いろいろな職種を見て納得感の高い企業の選択をしてほしい」とアドバイスしています。

学生の皆さんの中には、これから業界や企業を決めていくという人も少なくないと思います。同じ業界でも、会社によって社風や特徴は大きく違いますので、できるだけ多くの人に会って話を聞き、悔いが残らないよう自分が納得できる就職活動をしてほしいと思います。