総合【鳥取県】IoTにも対応、人口最少県のIT人材育成への挑戦
鳥取県は2013年、「鳥取県戦略産業雇用創造プロジェクト」(CMX)をスタートした。背景には、鳥取三洋電機がパナソニックによって完全子会社化されたことがある。2012年の子会社化以降、事業再編とともに県内の雇用がなくなり、県は大きな打撃を受けた。現在、民間企業と協力しながら、複数のIT人材育成プログラムを推進している。
日本で最も人口が少ない県として知られる鳥取県。2016年12月1日時点の推計人口は56万9145人である。東京都八王子市よりもやや少ない人口と言えば、その規模が想像できるだろうか。超高齢化が進むと同時に、生産年齢人口が漸次的に減少している。
そんな鳥取県では、民間企業と協力しながら、複数のIT人材育成プログラムを推進している。まず、産業分野特化型の「鳥取県戦略産業雇用創造プロジェクト」(以下、CMX。現在は第2期のCMX-II)、そのプログラムの一環として進めている「課題解決型高度ICT人材育成事業」、そして、2017年1月にスタートしたIoT(Internet of Things)人材育成プログラム「TORIoT(トリオット)」である。これらの人材育成プログラムを通じて、いま直面している県内でのIT人材不足に対応すると同時に、長期的には鳥取県で働き、家族を持ち、暮らす人を増やしていく。
IoT講座も充実、誘致した先端事業所に対応できる人材を
以前、鳥取には鳥取三洋電機があり、地元労働者を数多く雇用していた。ところが2012年にパナソニックによって完全子会社化され、以降、事業再編とともに県内の雇用がなくなり、鳥取市は大きな打撃を受けた。こうした状況を受けて鳥取県は2013年、CMXに着手した。
CMXは、厚生労働省が主導する「地方を中心とした雇用創出事業」の1つに採択された。第1期となる2013年からの3年間では「超モノづくりプロジェクト」を掲げて、地元企業の経営基盤強化と人材育成に取り組んだ。2016年からは、2018年までの3カ年計画で第2期(CMX-II)に入っている。
CMX-IIは、産業特化型の教育プログラムで、県内に事務所、工場、事業所などを構える事業者を対象に、専門家、プロジェクト型人材などの育成を推進する。対象は医療機器、自動車、航空機の成長3分野か、ICT、IoT分野に関する事業構想を持つ企業で、期間中に正規雇用する企業に対し、新規雇用者1人につき250万円以内の補助対象経費を支給する。これにより、新規事業分野の正規雇用を促そうという考えである。CMX-IIの3カ年の概算経費総額は11億円で、期間中440人の雇用創出と県産業の成長を目指している。
成長3分野を選んだのは、歯科医療機器のモリタ製作所(京都)、自動車部品のイナテック(愛知)、航空機部品の今井航空機器工業(岐阜)といった県外の有力企業の誘致に成功したことがきっかけ。これらの新規産業に対応できる人材を育てようと考えて、CMX-IIの内容を練った。
CMX-IIでは、IoT講座も実施している。今後のモノづくりにはIoTが欠かせないとの考えから、全4回の内容からなるプログラムを設けた。初回に総論を学び、2回目以降は希望する企業にIoT用デバイスを貸し出して、それぞれの工場で実証実験を行う。講師に富士通のIoTエキスパートを迎えるなどして、内容を充実させている。窓口を務める鳥取県商工労働部の和田淳秀氏は「地方ではなかなかIoT講座はないので助かると言われる。先端的な講座を無料で提供できるのもこの事業の魅力だ」と胸を張る。
eラーニングで全国から優秀なIT人材を発掘
雇用創出に取り組む一方、鳥取県には「IT企業の深刻な人手不足」という悩みもある。IT分野に限ると有効求人倍率は3.5倍(2016年11月時点)にも上る。「高卒の段階で県外に流出してしまい、なかなか人材が採れない」(和田氏)状況が続いているのだという。そこで2017年1月、県内在住者はもとより、鳥取県で就職を希望する全国の求職者を対象に「データ活用人材育成事業」(愛称はTORIoT<トリオット>)を立ち上げた。
TORIoT ではeラーニングの講座/プログラムを通じて高度なICTスキルを身につけてもらい、最終的に鳥取県内IT企業への就職を促す。企画・運営を地元IT企業のLASSIC(ラシック)が担当する官民共同のプロジェクトである。ERP(統合期間業務パッケージ)大手のSAPジャパンの協力を仰ぎ、IoT/ビッグデータを活用できる人材育成に向け、基礎技術講座と先端技術講座の2段階を用意した。講座の最終段階ではIoT検定の模擬問題を提供。検定試験合格の支援を行う。
TORIoTの中核プログラムは、その後のアイデアソンとプロジェクト演習にある。アイデアソンはメンバーが鳥取まで足を運んで対面しながら実施。グループ・ディスカッションや課題解決策の立案を実地で体験する。プロジェクト演習は、アイデアソンでまとめた解決策の実装を試みる。これを通じて、プロジェクトワークで必要となるマネジメント、PDCAサイクル、プロトタイプ開発手法、チーム内の円滑なコミュニケーションを学ぶ。
全てのプログラムにかかる時間は約150時間、そのうちアイデアソンとプロジェクト演習には約100時間を費やす。LASSICの橋本芳昭氏は「修了すればかなりのスキルを身につけられる。弊社のユーザーサポートチームも脱落しないように支援する」と意気込みを語る。
実践に沿った研修で即戦力人材を育て上げる
ITに特化した求職者向けのプログラムは、実はTORIoTよりも前から取り組んでいる。CMXの第1期から取り組んでいる「課題解決型高度ICT人材育成事業」である。県内IT企業から要望をヒアリングした上であらかじめ“ほしい人材”を把握。実践形式の講座で育成する内容となっている。TORIoTと同様、地元民間企業のアクシスが企画・運営を担当する官民プロジェクトで、内容は「Javaプログラマ育成」と「ネットワーク技術者育成」の2つを設けた。
実践型にこだわるのは、「鳥取のIT企業では最初から最後まで全てをこなす必要があるため」(藤原氏)。全国で同様のIT研修を経験してきた阿部氏は、「自治体主導の講座は、3日間程度で終了することがほとんど。これだけ長期間にわたり取り組む意気込みが素晴らしく、企画内容を聞いただけですぐに賛同した」と率直な感想を漏らす。
担当するアクシスの藤原和彦氏が「本当に人手が足りない」と嘆くように、企業の切実なニーズから始まった育成講座だけに、内容は実践的なものになっている。例えばJavaプログラマ育成は、15日間の前半と20日間の後半に分かれ、順を追って開発手法をみっちりと学ぶカリキュラムとなっている。後半の開発演習は、実際の会議室予約システムを想定したプログラムを課題とした。講師を務めた阿部晋也氏は「仕様書を読み、業務に沿って決められたことをきちんとこなすことを目標としている」と話す。
若い求職者の数自体が少ないこともあって、人材育成事業は、まだ必ずしも大きな成果に結びついているとはいえない。ただ、少しずつ形にはなり始めている。これまでの2年間で、講座を経てアクシスに7人、他社に2人が入社した。このうちアクシスの正社員の4人と他社入社の正社員1人は、オラクルのJava認定資格「OCJ-P Silver」を取得している。




