「ロボットは仕事を奪う」の誤解

AI「ロボットは仕事を奪う」の誤解

多くの企業は、日々の業務の中で「定期的に頻発する業務」「時間のかかる膨大なデータ処理業務」を抱えている。昨今の残業規制やワークライフバランスを重視する働き方改革の徹底に向けて、「効率化の限界」を感じている企業やビジネスパーソンも多いのではないだろうか。

RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の浸透は、我々がこれまで自ら行ってきた膨大な作業と時間、それに伴う疲弊した心を解放してくれる救世主になるかもしれない。

RPAやロボット化という言葉は、近年急速に広まってきたこともあり、その言葉から連想するイメージが先行する傾向にある。それぞれの人の立場によってイメージは異なるが、「何でも出来る夢のような道具」「すべてを代行してくれる存在」といったポジティブなものから、「ロボットに世の中をのっとられてしまう」「自分の仕事がなくなる」といったネガティブなものまで様々だ。

ロボット化していくと、私たちは本当に要らなくなるのだろうか。今回は、皆さんがロボット化に抱く「5つの誤解」を、実際の導入事例と合わせて解消していくことにしよう。

その壱 「仕事がなくなる」の誤解

世間一般が抱きやすいのは「ロボットに仕事を奪われる」という懸念だ。「ロボット化することで若手が下積みする経験が奪われる、若手が育たない」という不安を口にする人もいる。RPAを導入する際には、現行の業務をロボットに覚えさせ、ロボットがその業務を実行する仕組みを作る。だから、人の仕事を奪うとも捉えられる。しかし、人が行っている業務の全てをロボットが覚え、実行できるわけではない。

現段階のロボットは、あくまで人間の指示に従って作業を正確に実施できるアシスタントに過ぎない。ロボットは、「ある一定のルールが確立されている」定型的な業務や「大量のデータを扱う」長時間かかる業務において、ロボットの正確性や処理速度を発揮することができ、大いに活躍が期待できる。一方、ロボットが人間と同じような判断や意思決定が出来るようになるには、もう少し時間がかかりそうだ。

ここで、実際の導入事例を紹介したい。日本生命保険では2016年4月、「日生ロボ美」ちゃんが社員として入社した。ロボ美ちゃんの担当業務は、「請求書データのシステム入力作業」である。

ロボ美ちゃんが入社する前は、社員が郵送してくる保険金の請求書を見て人が手入力していた。今では、ロボ美ちゃんがその入力作業を一手に引き受けているそうだ。たしかに手入力という仕事はなくなった。では、担当していた従業員が仕事を失ったかと言えば、そうではない。

彼ら彼女らは、イレギュラーな契約パターンに対する対応など、人間にしか判断出来ないような仕事に専念できるようになったという。ロボット化は仕事を奪う存在ではなく、むしろ仕事の質を高めるきっかけとなっているのだ。

私たちは、ロボットに作業を任せたことによって生まれた時間を利用し、ロボットにはできないより高度で生産性の高い仕事にシフトすることができる。今まで手がつけられていなかった領域や、人間の発想力・ひらめきを活かした仕事(商品企画やプロモーションの立案等)に取り組む時間の確保につながる。創造的で付加価値の高い作業に集中できることは、仕事へのチャレンジ意欲を導き出してくれるだろう。

その弐 「ロボットは何でも出来る」の誤解

次によく耳にする誤解は、「ロボットさえ導入すれば何でも出来る」という夢物語である。前項でも述べたが、現段階のRPAツールでは、定期的な一定のルール則って業務を代行することは可能だが、複雑な判断・条件下で実施する業務は未だ人間の介入が必要となる。

例えば、ある製造業で実際に稼動しているロボットは、「毎朝決まった時刻に、あるWEBページより複数の外貨換算レートを取得する」という業務を担当している。ロボットにはあらかじめ人間が「何時に」「どのアドレスにアクセスし」「どのボタンを押して」「どの情報を取得し」「どのExcelファイルのどの列に」出力するのかを指示しておいた。

ロボットは、毎日決められた時刻にきちんとデータを出力し続けてきたが、ある日、データが出力されず、担当者にデータが出力できなかった旨のメール通知があった。担当者が原因を探ってみると、データ取得元のWEBページのレイアウトに大幅な改定があり、ロボットが指示されたとおりに動けなくなっていたことが分かった。

人間が作業していれば、WEBページのレイアウトが改定されたとしても、目で見て判断すれば変更後のレイアウトから取得できるだろう。しかし、現在のロボットでは、WEBページのレイアウトの変更を自動的に認識するレベルではなかった。人間が自然と判断していることをロボットは自ら判断できないため、人間が再度、新しい指示をする必要がある。

近い将来、AI等との融合が進み、検知技術や認知技術が取り込まれ、徐々に例外処理や非定型な作業にも対応できるようになるかもしれない。ただ、現在の技術レベルでは、出来ることが限られている点をご理解いただけただろう。

その参 「新しい技術」という誤解

初めて「RPA」という言葉を聞いたとき、「また新しい言葉が出てきた」「新しい技術についていけない」と感じた人も多いのではないだろうか。

「RPA」は全く新しい技術であると思われがちだ。そのため、導入にあたっては「検証が必要」「導入のリスクを背負いたくない」「他社での導入実績が増えるまで様子を見る」と考える企業が多く、日本企業における導入実績はまだ少ない。

確かに「RPA」という言葉や概念自体は新しいが、使われている技術自体は新しいものではない。RPAツールの技術は、以前よりシステム開発のテスト段階で、自動的にデータを投入するツールとして利用されている。

今までは、ある特定の分野に限って、こうした技術を利用しているケースが多かったが、働き方改革の機運や慢性的な労働者不足もあり、今後はRPAを導入する業界の領域が広がると予測する。

その四 「多額の投資が必要」の誤解

「RPAを導入して業務改革を」と聞くと、導入するには膨大な金額の投資、長期間に渡る開発、新技術に対応可能な人員の確保などが必要ではないかいうネガティブなイメージを持つ人が多い。だがそれも誤解だ。

多くの企業はこれまで、システム化を検討する際には投資対効果を最優先に考え、担当するシステム部が主導して対象業務の選定から設計・開発・保守運用まで実施してきた。だが、RPAはユーザー部門が短期間で自らロボットを作成し導入していく、いわゆる「EUC(End User Computing)」である。RPAは、「ノンプログラミング」での構築が可能で、ロボット作成技術も短期間で習得可能であることから、膨大な投資も新たな開発要員の確保も不要だ。

また、従来のシステム導入は、導入後も業務の変更(業務プロセスやインプット・アウトプットの変更)に伴い、システムの改修・定期的な保守が必要であり、継続して保守費用と人員を確保していく必要がある。一方、RPAは業務に変更が発生してもユーザー部門が手軽にロボットを変更することができ、保守のための費用や人員の確保は不要だ。

RPAは、投資対効果(費用・期間・人員)を鑑みるとこれまでのシステム導入の対象にしなかった、出来なかった領域・業務に取り組むことが出来る。大企業の基幹システム導入であれば、数千万~数億円、ものによっては数十億かかるのが一般的だ。一方でRPAは数百万程度で導入が可能となっている。今後は、ユーザー部門主導でのRPAを導入する業務改革が広がっていくと考えられる。

その伍 「ロボットに任せれば大丈夫」の誤解

先ほどRPAはユーザー部門主導で簡単に作成・変更が出来ることが1つの利点であると述べたが、この利点が思わぬ事態を招くことになるケースがある。

各ユーザー部門がそれぞれの業務に合ったロボットを自由に作成し、動かすことができる。一方で、各ユーザー部門が思い思いに好きなロボットを作り、動かし始めると、互換性の欠如によるロボット同士の「ケンカ」が発生したり、まったく関係のないロボット同士がいつの間にか連動して、別の結果を生み出したりするリスクがある。また、誰が何のために作成したのか分からないといった「野良ロボット」が出現する可能性も否定できない。

特に大きな企業において、複数部門にまたがってRPAを活用する場合には、ロボット同士のケンカや野良ロボットの出現を防ぐために、人間社会と同様に秩序やルールが必要になってくる。

例えば、企業において社員が人事部で管理されているように、作成したロボットは、どんな目的で、何を行うためにどこの部署に所属しているのか、どのくらい稼動しているのかといった情報を全社一括で管理し、共有しておく必要がある。

また、新しい社員を採用する場合に採用面談があるように、新しいロボットを作成する際には、本当に役にたつロボットなのか、既存のロボットで代替できるものはないのかなど、一定のルールを設定し、検討するプロセスを整備しておく。このように人間の社員同様に、ロボットを一定の規則・ルールで管理することにより、無秩序なロボット社会の出現を防がなければならない。

ロボットは正しい指示をすれば正しく動くが、間違った指示をすれば間違ったまま実行してしまう。ロボットに指示を出すのはあくまでも私たち人間であり、ロボットが実行する業務・結果に対する責任も、指示を出した我々にあることを忘れてはならない。

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RPAは、日々進化を続けており、現在の一定のルールに則った定期的な業務から、一部かなり高度な判断が必要な業務まで対応領域を広めつつある。ロボットは、過去の処理実績や保持している大量データから統計学に基づき、結果を導き出すことが可能だ。今後は、これまで以上に間違いの少ない、正確な処理結果を我々に提供してくれることだろう。

ただ、私たち人間は、ロボットが導き出した処理結果を鵜呑みにするのではなく、今置かれている立場や状況、人々のニーズを敏感に捉え、ロボットの導き出した結果を”どう調理するかを考える”ことが求められる。

RPAを導入する際には、ロボットが「出来ること」「任せるべきこと」と私たちが「担うべきこと」を検討した上で、地に足のついた導入を実施していくことが重要だ。あなたもロボットと分業し、共に働く未来がすぐそこまで来ている。