未分類「グローバル人材」採用を多くの企業が失敗する理由
グローバル人材育成とは、
人事のプロセス総動員で人を育てること

「グローバル人材育成」は、語学研修や海外派遣研修などの研修をすることではありません。お金をかけてそうした研修を行っても、研修を受けている本人が「海外勤務のある会社とは思わなかった。絶対に海外勤務はしたくない」などと思っていたとしたら、本末転倒です。
人事の仕事として「グローバル人材育成」を行う場合は、単に研修を企画、実施するといったことではなく、“人事の全てのプロセスにおいて遂行する”ということが基本です。
人事の全てのプロセスで行う、ということは、例えば、採用時の見極め、新人育成など初期の育成、そして中堅、実務担当者時代の育成やモチベーション維持のためのフィードバック、海外赴任前の準備、そして渡航中、帰任した後のフォロー…といった一連のプロセス全てをグローバル人材育成の観点で計画し、実行するということです。
理想論のようにも感じられるかもしれませんが、少なくともアカデミックにはそのようにとらえます。グローバル人材育成とは、人事のプロセス総動員で人を育てることなのです。この「人事のプロセス総動員」というのが大切です。
もちろんこの「人事のプロセス」のうちの一つに「研修」というものも入るわけですが、それ以前に、よく分かっていない割に非常に重要な人事プロセスがあります。それは、「採用」です。
グローバル人材の採用
ポイントは「動機」
「グローバル人材」を採用するために、まず何を見なければならないのでしょうか?
これについては、様々な調査や研究がありますが、私たちは以前から東京大学中原淳研究室、京都大学溝上慎一研究室、電通育英会と共同調査研究をやっており、その調査の知見から、採用で見抜かなければならないポイントは「動機」ではないか、と考えました。海外で働きたいという気持ちは、当人の持つ「動機」がもっとも強い影響を与えるのです。
どのような仕事であれ、業務の質というものは「動機(Motivation)」と「能力(Ability)」と「機会(Opportunity)」の3つで決まります。これは「MAOモデル」と呼ばれていますが、要するに、やる気があって能力のある人に機会を与えれば業務の質は上がるというわけです。
このうち「グローバル人材」を採用する際に重要なのは、「動機」です。どれだけ語学力が高く、海外に行くチャンスに恵まれた人でも、「海外で働きたい、機会があれば海外に行ってみたい、海外でチャレンジしてみたい」といった「動機」がなければ、能力やチャンスを生かすことができないからです。しかも、それは教育機関にいるときから、長い間かけて形成されるものです。
また、「能力」は後から獲得できる、という考え方もできます。『トップグレーディング(Topgrading (How To Hire, Coach and Keep A Players))』という米国の採用研究の本によると、個人の能力や資質は「採用時で見極めるもの(後から変わりにくいもの)」と「育成で何とかなるもの(後から変わるもの)」という2つに分けることができるそうです。
例えばコミュニケーション能力を含めた語学力やビジネススキルのようなものは、育成可能だと言われています。一方、長い時間をかけて鍛えられていく知的能力や野心、情熱、動機といったものは、即席で鍛えることが難しい能力、資質ですので、採用時はそうした部分を、しっかりと見極めなければならないわけです。
「海外に行きたくない」
学生にはびこるウォシュレット依存症!?
では、今の大学生たちは海外で働くことについてどのように思っているのでしょうか?
先述した大学生調査によると、「機会があったら海外で働いてもいい」と答えたのは、わずか37%でした。私は「ウォシュレット依存症」と呼んでいますが、残念ながら、今の大学生たちは、やはり「内向き」というか、日本の便利な生活を捨てられない、というところがあるようです。
では、「海外で働いてもいい」と答えるのはどんな学生かと分析してみると、実は男女とか、大学偏差値とか、留学経験といったところには、それほど大きな差は出なかったのです。
留学経験があっても海外志向につながっていない、というのはどういうことでしょうか。新卒の採用面接を担当なさったことのある方ならば、察しがつくのではないかと思います。
以前、ある銀行で面接官をなさっていた方が私にこのようにこぼしておられました。「面接して出てくるエピソードが、猫もしゃくしも留学なのです。僕は朝から晩まで留学の話を聞いています」と。
そうなのです。最近の学生さんは、面接でみなさん口をそろえて留学経験があると語ります。「留学経験が全くないという人を探すほうが難しいくらいだ」と言う面接官の方もいました。
ですが、これにはカラクリがあって、大学がお膳立てしたプログラムに乗っかって、1週間程度ちょこっと海外に行っても「留学しました」と言っているというのが実情です。
私も大学側の人間なので、大声で言えないところがありますが、そんな裏事情もあって、「留学経験がある」というだけで、必ずしも「海外で働きたい」という動機につながるとは限らないのです。
海外勤務を希望する学生は
日常的に異文化体験をしている
では、「海外で働きたい」と答えた学生とそうでない学生との違いはどこにあるのでしょうか。
先ほどの大学生調査の結果によると、日常的に、留学生や外国人教員とのコンタクトがあるかどうかが、重要であることがわかりました。
たとえて言うのなら、「半径3メートルの日常的な異文化体験」が鍵となっている ということです。半径3メートル、というのは、要するに授業、サークル、研究室、バイト先など、大学生が過ごしている半径3メートル以内の身近な人、その中で外国人との接触があるかないか、ということのようなのです。
それを確認する手段の一つが、スマホです。スマホの中には、携帯電話の連絡先、LINEの連絡先、Facebookのお友達、などにその人が持つ「ソーシャルネットワーク」が可視化されています。
その中に、外国人の名前もある人、つまり、日常的に異文化体験ができそうな場に出かけていたりして、外国人の友人知人との交流がある人は、「海外で働きたい」という気持ちを持つ人が多い、ということになろうかと思います。
ですので、これからは大学側も、単に短期留学プログラムを提供するだけでなく、海外勤務への動機づけができるよう、大学生が異文化を身近に感じたり、日常的に外国人との交流が持てるような環境づくりに配慮することも必要だということになりそうです。
そして、「グローバル人材」を育成したい企業は、「海外で働きたい、機会があれば海外に行ってみたい、海外でチャレンジしてみたい」といった「動機」を持った人材をいかにして採用するか、というところが第一ステップになると言えそうです。