総合ビズリーチ社長が明かす創業秘話
金融業界、プロ野球界、人材業界――と、さまざまな領域で活動をしてきた異色の経歴の持つ起業家、南壮一郎氏――。会員制転職サイトを運営するビズリーチを立ち上げるまでにどんな苦労があったのか。創業秘話と今後の展望を聞いた。
管理職や専門職の人材に特化した会員制転職サイトを運営するビズリーチ――。2009年に数人で事業をスタートさせて以来、約7年間で会員数78万人、利用企業5700社と急成長を遂げ、従業員数も750人を超えた。最近はテレビCMでの露出も多く、知名度も急速に高まっている。
この事業を立ち上げたのが、ビズリーチの南壮一郎社長である。金融業界、プロ野球界、人材業界――と異色の経歴の持つ彼だが、どのような経緯でいまの事業を作り上げていったのだろうか。また、事業が軌道に乗るまでにどんな苦労があったのか、今後はどんなサービスを立ち上げるのか。南社長に創業秘話と今後の展望を聞いた。
創業のきっかけは楽天野球団と転職活動
南: 私はもともと人材業界に関心があったわけではなく、それより先に「テクノロジーで世の中を変える仕事がしたい」という意識がありました。そのきっかけは、前職の楽天野球団にあります。
もともとは金融業界で働いていたのですが、ちょうどスポーツに関わる仕事がしたいと思っていたときに新球団ができるというニュースが飛び込んできました。私はすぐに転職を決断して、2004年に楽天野球団の立ち上げメンバーとして参加させていただくことになりました。
球団運営では、親会社がIT企業だったこともあり、ITを活用した集客を実践していました。例えば、設立当初の「東北楽天ゴールデンイーグルス」はなかなか試合に勝てなかったこともあり、シーズンの後半になると観客が入らず、とても集客に苦労していました。そこで、当時地元の新聞で告知していた「予告先発」を、球団会員に対してメルマガで告知するという新たな手法に挑戦したところ、動員客数を大幅に増やすことに成功し、消化試合でもほぼ満員にすることができたのです。
もちろん今では当たり前の手法ですが、当時の私からしてみれば「テクノロジーはすごい」という感動体験があったわけです(笑)。これから間違いなく、テクノロジーによる大変革が起こるのだと思いましたね。
また、三木谷社長をはじめ、多くの優秀な先輩たちが新しい事業を作って世の中を動かす姿を近くで見てきました。その影響が大きかったと思います。そして、いつか自分も「テクノロジーで世の中や業界の歴史にインパクトを与える仕事をやってみたい」と考えるようになったわけです。
ただ、起業するつもりはなく、3年後に楽天野球団を辞めてからはITの仕事を学ぶために転職活動していました。しかし、その転職活用を通じて感じたある疑問が、結果として起業を決意することにつながりました。その疑問とは……。
転職市場の見える化ができていない
南: 転職活動をしていた当時の私は32歳。特に勤務地や企業規模にもこだわっていませんでしたが、自分の希望に合った企業には1社も出会えませんでした。
新卒採用で企業は「やる気のある人」「主体性がある人」を探しますよね。その意味では私も全く同じはずだし、前職の楽天野球団では役職に就き、マネジメントも経験していました。しかし、年齢が上がると一気に選択肢と可能性が失われてしまっている現実があるわけです。
私の経験を必要としてくれる企業が必ずどこかにいるはずなのに、企業は私を見つけることができない。そして私もその企業(求人)を見つけることができない。全ての選択肢、全ての可能性からキャリアを選べない。テクノロジーの発展によって、効率的に情報を得られるようになったにも関わらず、なぜ「転職活動」はこんなにも最適化が遅れているのだろうと思いましたね。
いまは多くの人材会社がITを活用しており、効率化・最適化が進んでいます。しかし、10年前の人材業界はIT化が遅れており、求職者側と採用側のマッチングがうまくできていないという現実を私は身をもって体験したのです。
この体験から「その課題を解決する事業つくってしまおう」と考え、起業することになりました。また、当時はリーマンショックで不況だったので、新しいことを始めるライバルも少なかったので、「このタイミングで勝負するべきだ」と思いましたね。
もちろん、すぐに事業を立ち上げられたわけではありません。そこからは失敗や苦労の連続でした。
全ては「草ベンチャー」から始まった
南: 私の最初の大きな失敗は、サービス作りを外注したことです。サービスは生き物です。愛情や志も必要で、作り手側のビジョンが明確でなければいけません。また、常に改善することも重要。最初にでき上がったものが完成品ではありません。内製する必要性はそこにあります。
表面的な設計だけ話して任せれば、勝手に理想のサービスが生まれるものだと勘違いしていたわけです。結局、外注して作ったサービスは思うようにいかず、失敗に終わりました。
重要なのは志を共有でき、ITを活用したモノ作りができる仲間と議論を重ねながらサービスを育てること。それに気付いた私は仲間探しを始めました。あらゆる飲み会、交流会、勉強会に足を運び、紹介もしてもらい、とにかく新しい人に出会い続けて数を当たりましたね。しかし、それでも人は集まらない。リーマンショックで不況だったということもあり、いまの仕事を捨ててまでベンチャーをやる人はいなかったのです。
そこで私は、草野球のように「草ベンチャー」として土日の空き時間を使って事業を始めることにしました。メンバーにはボランティアとして事業を作りに携わってもらったのです。
そこで約束したのが「スタートして1年以内に、投資家から1億円を調達できたら一緒に会社としてやろう」ということです。そして、運よく無事に1億円の調達に成功し、ビズリーチがスタートしました。ですから、私のターニングポイントは、このときの仲間たちとの「草ベンチャー」の活動にあります。
今後、ビズリーチが目指すもの
南: 日本では今後、「労働生産性」がより重要視される社会になるでしょう。私たちは、個人が企業の収益に対してどのくらい貢献しているのかを見える化・数値化できるようなサービスを作っていきたいと考えています。
例を挙げるなら、プロ野球の世界が分かりやすいですね。野球チームの目的は試合に勝つこと。得点を取り、相手の得点を防ぎ、相手チームより多くの点を獲得できればいい。目的がはっきりしています。
つまり、守備であれば、防御率や飛んできた打球に対してアウトにできたのかどうか、攻撃であれば出塁率、長打率が貢献度として重要な(労働価値の)指標になります。そして、選手の給料やメンバー構成を勝利への貢献度から算出し、適切に設定していくわけです。
ちなみに、このような分析を最初に始めたのが『マネーボール』という映画にもなったメジャーリーグの名GM、ビリー・ビーン氏ですね。私は彼に会いに渡米したことがあり、そこで野球選手の労働価値が定量化されるというものを趣味的に学んでいました。
これからは企業も同じように、ビジネスパーソンの生産性(収益への貢献度)をきちんと見える化していかなければなりません。野球なら試合に勝つこと、企業なら収益を出すことがゴール。ここをベースにどう人材を評価し、人事配置を決めていくのか。また、どんな人材を採ることで収益にインパクトを与えることができるのか。最適化することで日本の労働生産性は向上するはずです。
もちろん、野球に比べて評価の指標が多いので、定量化することは困難かもしれません。ですが、私たちはそれをHRテック(Human Resource Technology)という領域で実現したいと考えています。新しい時代の働き方を支えるために。


