転職は「都会だけ」でいいのか? 『移住ナビ』は人材事業者ならではの視点が面白い

総合転職は「都会だけ」でいいのか? 『移住ナビ』は人材事業者ならではの視点が面白い

SBヒューマンキャピタルは、全国1700の市町村を網羅した移住情報サイト「移住ナビ」をオープンした。ソフトバンクグループの、それも人材事業を主軸とするSBヒューマンキャピタルと地方移住とを結ぶ線はどこにあるのか。どのような経緯で地方移住ビジネスに参入し、今後はどのような展開を考えているのか、SBヒューマンキャピタルの経営企画部 企画担当部長 三倉 信人氏に話を伺った。

(聞き手/構成:編集部 中島 正頼、執筆:重森 大)
photo地方移住と転職は絡み合った問題だ

市場が成熟し、人材事業者が新しい働き方を創造していくフェーズに

──まずはSBヒューマンキャピタルの紹介と、三倉さんの経歴などを伺ってよろしいですか?

三倉 信人氏(以下、三倉氏):SBヒューマンキャピタルはソフトバンクグループ唯一の人材事業会社です。ITを使って社会をハッピーにするというソフトバンクグループ全体のミッションに準じて、SBヒューマンキャピタルではITを使って「働く」を変えることを企業理念としています。より良い職を求める求職者と、より良い人材を求める求人企業の出会いをお手伝いするのがメインの事業ですね。

私自身は2005年にソフトバンクBBに新卒で入社して、最初は広域関東圏のルートセールスを担当していました。その後2011年から4年ほど社長室付きになり、孫会長が作った公益財団法人 東日本大震災復興支援財団に出向して復興支援の事業に携わったり、SBイノベンチャーに兼務出向したりしたのち、2015年にSBヒューマンキャピタルに転籍しました。1年ほど前から、現在の地方創生支援事業に携わっています。

photoSBヒューマンキャピタル
経営企画部 企画担当部長
三倉 信人氏

──人材事業会社であるSBヒューマンキャピタルが、なぜ地方支援事業を始めたのでしょうか。

三倉氏:SBヒューマンキャピタルではスポーツ選手のセカンドキャリア支援事業や、フルタイムで働けないママのキャリアを支援するMom’s Labなど、「働く」を変える取り組みを推進してきました。人材事業という軸から社会課題の解決に取り組んできた訳ですが、そろそろ次のフェーズ、人材事業者の方から新しい働き方や、新しい仕事との出会い方を積極的に創造していくことに取り組むべき段階に来ていると思っています。

──転職市場が成熟化して、次のステップに進んだということでしょうか。

三倉氏:そうですね。収入が少し下がってもいいから地方でのんびり生活したいと望む人にターゲットを絞ったサービスなど、同業他社でも多様な取り組みが見受けられます。都会の人材は地方の企業から見ると即戦力で、即経営幹部候補として活躍してもらえるケースも多く目にするようになってきました

そうしたものも含めて選択肢が増えるというのは、求職者にとっていいことだと思いますが、有象無象の情報が錯綜する状態では、自分にとってベターな選択肢がかえってわかりにくくなってしまうかもしれません。求職者、求人企業の目線に立って、いかにわかりやすく意味のある有機的な出会いを作っていけるのかというのは、人材事業として改善し続けなければならない課題のひとつです。

鳥取県八頭町におけるまちづくりの経験から『移住ナビ』の検討へ

──人材事業者が新しい働き方を創造していく意義はわかりましたが、なぜそこから地方支援事業が生まれたのでしょうか。

三倉氏:当社に限った話ではありませんが、人材事業の市場は都会がその大部分を占めており、ややもすると都会の中で人がぐるぐると動いているだけとも言えます。「働く」を変える、と言いながら、転職は都会だけでいいのか? という課題意識から着目したのが、地方への移住促進でした。都会で人が循環し続けるだけではなく、人材事業会社の方から積極的に魅力的なまちや企業という選択肢を提示できれば、新たな「働く」を変えるに繋がるのではないかと。

社会的な背景としても、移住指向は年々強まっています。移住関連のイベントは頻繁に開催され、書店には田舎暮らしに関する雑誌や書籍が並んでいます。都会に住んでいる20代から40代くらいの働き盛りの層も、中長期的な将来を見据えると、地方移住に対して前向きな考えを持っている方が過半数にのぼるというアンケート結果もあるくらいです。

──そうした層に対して新しい働き方を創造し、提示するのが「移住ナビ」なんですね。

三倉氏:移住と転職はある意味で近いものがあると思うんです。ネットや書籍、イベントを通じて多くの情報を得られますが、自分にとって最適な情報にたどり着くのが難しい。これを整理してより良い出会いを作るには、我々人材事業者の知見が活かせるのではないかと。それも、移住ナビを立ち上げた理由のひとつですね。

構想自体は1年以上前からありましたが、このサービスを立ち上げるのに至った大きなキッカケは、現在も支援を継続している鳥取県八頭町(やずちょう)のまちづくり支援事業です。

──実際に現場を知る中で、地方の抱える課題を正しく把握するに至ったということでしょうか。

三倉氏:まさにその通りです。我々は東京を中心とした転職のお手伝いを生業にしてきたので、地方の求人案件や人が移住するということに対する知見も人脈もないに等しい状態だったわけですが、幸いにも素晴らしい地域や人との出会いがあり、八頭町から企画コンサルや実行支援の業務委託を受けるご縁に恵まれました。日本の実に7割強が中山間地域と言われますが、八頭町も典型的な中山間地域の町で、景色がとてもきれいな場所です。10年前に3つの村が合併して生まれた町で、鳥取市街や鳥取空港から30分程度という好立地でもあります。

しかし、全国の田舎町の例に漏れず少子高齢過疎化に悩んでおり、小中学校の統廃合が深刻な課題になっていました。2017年3月で廃校になる小学校があるのですが、そこをリノベーションしてイノベーション戦略拠点にする構想を進めるに当たって民間の知見を得ようと決めたタイミングと、我々が地方自治体と正面から組んでいこうとしたタイミングがちょうど重なったのが幸運でした。

現在も取り組みの真っ最中ですが、この一年間の伴走を経て、町固有の課題はもちろん、他の地方自治体と共通するような課題も多く見えてきました。そこで、地方の多くが抱える本質的な課題を人材事業者ならではの視点で解決するためのツールとして、移住ナビを立ち上げるに至ったわけです。

移住に興味を持つ全ての人と、移住者を歓迎する地方との幸せな出会いを実現したい

──そうした経験を経て、満を持してオープンした移住ナビですが、その特色やターゲットとして考えているユーザー層についてお聞かせください。

三倉氏:移住ナビをひとことで説明するなら、移住を受け入れたい自治体と、移住希望者をつなぐ場です。1700の基礎自治体を網羅して、移住を検討している人たちに広くご覧頂き、情報交換もできる場を目指しています。特定のユーザー層を想定したものではなく、働き盛りの世代からリタイヤ後の住みかを探している人まで、移住に興味を持っているすべての人に活用していただきたいと思っています。

ターゲットについてあえて言うなら、将来移住するかもしれない潜在層にも気軽に使ってもらえるサイトを目指していますね。将来的には田舎暮らしもいいなと考えているような方が気軽に移住の情報を見て、イメージを膨らませたり、アクションを起こすきっかけにしてもらえるようなサイトにしていきたいですね。

photo運命の地域と出会える、移住情報サイト「移住ナビ」

──そういう方々に気軽に使ってもらうために、工夫しているポイントなどはありますか?

三倉氏:プロバイダ目線にならないこと、でしょうか。移住に関する情報はあふれていますが、そのほとんどが「ぜひ我が町に来てほしい」「ここにはこんな美味しいものがある」という、受け入れ側の目線で語られています。逆に、移住した人の目線や、移住を念頭に置いてショートトリップを経験した方などの目線で語られる情報が少ないんです。

移住ナビの大きな特徴として、現地ルポという読み物コンテンツや口コミ投稿がありますが、これらは移住する側の目線に立ったリアルな情報を得られるものにしたいと思っています。乱暴に例えるとしたら、移住に関するSNSのようなイメージです。これは既存の移住支援サービスとの大きな差別化ポイントでもあります。

──他にも競合サイトとの差別化ポイントがあれば教えてください。

三倉氏:やはり最大のポイントは、転職ノウハウを持つ人材事業者が取り組んでいるという点ですね。先ほども言いましたが、移住と転職は似ています。より良い職を求める求職者がいて、より良い人材を求める求人企業がある。この両者のより幸せなマッチングを実現するために、人材事業者が間にいるのです。

移住においては一方に移住検討者がいます。既に移住を決めて行き先を検討している人もいれば、もっとライトにお昼休みに移住ナビを見て新しい町を知り、興味を抱く段階の人もいるでしょう。そしてもう一方には、そんな人たちに来て欲しいと願っている自治体の移住担当者がいます。両サイドに求める人がいて、その間に立ってベターなマッチングを行なう移住ナビの役割は、転職における人材事業者の役割ととても似ています。そこで、ここ十数年かけて我々が培ってきたイーキャリアでのノウハウや、システムの作り方が活かせると思っています。

マネタイズに向けて、まずは多くの人と情報が集まる場づくりを優先

──転職サイトと似た構造ということですが、マネタイズについてはどのように考えているのでしょうか。移住ナビを使う移住希望者から会費のようなものを集めるのでしょうか。

三倉氏:現状はマネタイズよりもサイト訪問者や会員の増加を優先しています。移住希望者にとって価値ある情報やサービスを提供し、多くの移住希望者に支持されるサイトを作ることで、さまざまなマネタイズ手段が生まれてくると考えています。

──カスタマーとなる自治体の反応はいかがでしょうか。

三倉氏:自治体通信という基礎自治体向けのフリーペーパーでローンチ直前に広告を掲載したことや、サービスリリースがいくつかの新聞で取り上げられたこともあり、さっそくいくつかの自治体の移住担当者さんからお問い合わせをいただいています。

サイトだけでは完結しない移住支援はビジネスが大きく広がる可能性を秘めている

──移住ナビが発展していくためにも、人材の流動性を高めて日本の競争力を高めていくためにも、人がもっと活発に動くようになるべきだと思いますが、そのためには何が必要なのでしょうか。

三倉氏:サイト運営を始めたばかりの我々がこういうことを言うと矛盾に聞こえるかもしれませんが、移住は決してWebサイトだけで完結するものではないと考えています。移住ナビは興味喚起やきっかけづくり、人と人とをつなぐ場でしかありません。実際に移住するまでには、遊びに行ってその町を知り、ファンになり、友達ができ、そして移住を考えるようになるはずです。移住ナビはその橋渡しになればいいなと思っています。

では実際に何が必要なのかと言えば、移住に伴う職探しや住まい探し、引っ越しや子育て等を支援する体制が必要です。転職については我々が積極的に支援できると考えていますが、その他の面ではビジネスパートナーとともにサービスを提供するということも考えられます。

──Webサイトだけでは完結しないし、SBヒューマンキャピタルだけでも完結しないサービスにまで発展する可能性を秘めているんですね。

三倉氏:もちろん、SBヒューマンキャピタルが持つノウハウは存分に投入していきます。ソフトバンクグループのテクノロジーやグループ企業の力も使って、移住の次の展開として大きなチャレンジも検討していきたいですね。