「合同説明会」という採用戦術のムダ

新卒「合同説明会」という採用戦術のムダ

学生にとって就職環境は相変わらず売り手市場です。企業にとって、なかなかよい人財を採用できない苦難の時代が続いています。

人事課の責任者である鳥山課長と鷲沢社長のバトルをお読みください。

●鳥山人事課長:「来年の新卒採用、目標は7名ですが、現在のところ4名しか内定を出せていません」

○鷲沢社長:「その4名だって来てくれるかどうか不確定だろう」

●鳥山人事課長:「はい」

○鷲沢社長:「毎年どれぐらいのコンバージョン率だ」

●鳥山人事課長:「コンバージョン?」

○鷲沢社長:「内定を出した学生のうち、来てくれるのは何人だ。その率を知りたい」

●鳥山人事課長:「それは、その……ケースバイケースだと思います」

○鷲沢社長:「君はまだ私の思考パターンを知らないようだな。私に『ケースバイケース』などという曖昧表現を使うな」

●鳥山人事課長:「曖昧……」

○鷲沢社長:「はっきり明確に、ぼやかすことなく言いたまえ。『ケースバイケース』だの『そのとき次第』だの、曖昧な言い方は普段から何も考えていない証拠だ」

●鳥山人事課長:「す、すみません」

○鷲沢社長:「まあいい。実はここにデータがある。まず3年前。4名の新卒採用を目指し、5名に内定を出した。しかし入社したのは2名。その2名とも2年以内に辞めている」

●鳥山人事課長:「そうなのです。採用に関わった私としては忸怩たる思いです」

○鷲沢社長:「次、2年前。同じく4名の採用目標のところ、5名に内定を出して1名だけ入社。彼は今も勤務している」

●鳥山人事課長:「はい。ほっとしています」

○鷲沢社長:「去年。これはひどい。5名の採用目標、5名に内定を出して入社が1名、入って4カ月で辞めた」

●鳥山人事課長:「本当にひどいです。内定者のうち4名も入社してこないだなんて、ひどいじゃないですか」

○鷲沢社長:「感情的になるな。論理思考力が低い証拠だぞ。私が言っている『ひどい』はそう意味じゃない。話を戻すと、3年分のデータがあるのだから、だいたいのコンバージョン率がわかるはずだ」

●鳥山人事課長:「言われてみればそうです」

○鷲沢社長:「今年の採用目標は7名だな。どれぐらいの内定者が必要かね」

●鳥山人事課長:「ええっと……」

「これまで通りなら100名の内定が必要」

○鷲沢社長:「これまでのコンバージョン率を考えると100名は必要だな」

●鳥山人事課長:「えええ! ひ、ひゃくですって……」

○鷲沢社長:「そうだろう。計算できないのか」

●鳥山人事課長:「5名の内定者のうち、1名か2名は入社していたわけですから、20名くらい、どれほど多くても30人くらいでは」

○鷲沢社長:「君は何を目標にしているのかね。入社して2年や3年で辞められたら、君たちの苦労も水の泡だ」

●鳥山人事課長:「まったくそうです。入社してすぐに辞められると、精神的にかなり凹みます。どうせ辞めるのだったら、最初から他の会社に行ってもらったほうがよかった。みんなそう言っています」

○鷲沢社長:「なんてことを! 人事がそんな考えでは新入社員が定着しないのは無理ない。ネガティブな発想は今すぐ止めろ。若くて将来性のある人財が入ってこない限り、企業の発展はない。もっと前向きにやってくれ」

●鳥山人事課長:「もちろんわかっています。私は若い人たちと接するのが好きですから。彼ら彼女らと一緒に仕事ができると思うと、ちょっとウキウキします。入社してほしいし、辞めてもらいたくないです」

○鷲沢社長:「そうだ。その熱い気持ちが大事だ。コンバージョン率の話だったな。3年間合計で内定数が15名、残っているのはたった1名。7名残そうと思ったら100名以上の内定が必要だ。やり方を変えなければ内定も採用も目標を達成できん」

●鳥山人事課長:「100名ですか。考えたこともありませんでした。合同企業説明会にもっとお金をかけて、宣伝してはどうかと思ってはいましたが」

○鷲沢社長:「合同企業説明会……。“ゴーセツ”か」

●鳥山人事課長:「はい。この時期になると毎年、“ゴーセツ”を頼っています。掘り出し物の学生がまだ残っていますから勝負を賭けたいと。社長が仰った通りです。若くて将来性のある人財を採用しないと企業の発展はありません。ここでしっかりコストをかけないといけませんよね」

○鷲沢社長:「かけるべきところにしっかりコストをかけるべきだ。だが“ゴーセツ”なんかにこれ以上、金はかけるな」

●鳥山人事課長:「ええ!」

「そんなこと当社に無理ですよ。有名大企業じゃあるまいし」

○鷲沢社長:「もっと頭を使え。いったい何年、君は人事課長をやっている」

●鳥山人事課長:「ネットで募集することも考えましたが、その場でリアルに面接できますから“ゴーセツ”は合理的です。これまでも使ってきましたし」

○鷲沢社長:「あのコンバージョン率でどこが合理的なのか。ゴーセツを止めてネットで募集しろ、などとは言っていない」

●鳥山人事課長:「諦めろと言うのですか。コストをかけないと、うちのような中小広告代理店に誰も来てくれませんよ」

○鷲沢社長:「いい加減にしないか! 発想がネガティブすぎる。私が言いたいのはコストのかけ方だ。これまでゴーセツやら、ネット募集やら、相当の金を使ってきた。しかし他のコストをかけていない」

●鳥山人事課長:「他のコストと申しますと」

○鷲沢社長:「なぜ大学へ行って学内説明会をさせてもらわない」

●鳥山人事課長:「大学に行ってですか。そんなこと当社に無理ですよ。有名大企業じゃあるまいし」

○鷲沢社長:「大学のキャリアセンターへ通っているのか」

●鳥山人事課長:「どこの大学ですか。大学なんて星の数あります。繰り返しますが、有名な大学が当社のような小さな広告代理店を……」

○鷲沢社長:「私の話を聴けっ! どこの大学って、そんな戦略もないのか。少しは営業を見習え」

●鳥山人事課長:「……営業ですか」

○鷲沢社長:「採用も営業も基本は同じだ。待っていて仕事がくるものか。待っていて人財が入ってくるものか。採用戦略を立て、どの大学となら良好な関係を持てるか、考えたまえ。私が銀行員だったころ、大学をまわって学生たちと交流したことがある」

●鳥山人事課長:「メガバンクにいらしたわけですから……」

「そういうことを考えるのは苦手で……」

○鷲沢社長:「そういう先入観は捨てろ。銀行員の名刺で行ったわけじゃない。取引先の中小企業の採用を手伝うために、取引先と一緒に大学をまわった。いきなり採用の話を持ち出さなくても、学生と仲良くなれる手段はいくらでもある。クラブのOB人脈を使うとか、学生が興味を持ちそうな勉強会を開かせてもらうとか」

●鳥山人事課長:「そ、それにしても内定100名ですよね」

○鷲沢社長:「今までのやり方を変えないのだったらそうなるという話だ。ゴールは7名だぞ。狙える大学の、しかも特定の学生にだけ好感をもってもらえたらいい」

●鳥山人事課長:「学生と仲良くなる方法と言われましても、そういうことを考えるのは苦手で……」

○鷲沢社長:「苦手なこともやるのが仕事だ。人事の全員で作戦を考えてくれ。外の力を借りるために金を使うだけではなく、自分の頭と足を使え。そしてじっくり時間をかけて相手との関係を構築しろ」

●鳥山人事課長:「ははあ、労力のコストと時間的コストもかけろ、ということですね」

○鷲沢社長:「そうだ。金を惜しんでいるわけではないが、金に頼っていると副作用が出る。営業でも採用でも同じだ。労力と時間をかけてこそ、信頼関係ができる」

●鳥山人事課長:「それができれば入社した後も辞めなくなるかもしれませんね」

○鷲沢社長:「入社した後も時間をかけ、労力をかけて育ててくれ。将来を担う大切な人財だ。労力をかけず、効率よく獲得しよう、入ってくれたらなんとかなるだろう、という姿勢ではいかん」

採用でもギャンブルはいけない

大金を投じ、マス広告やネット、説明会などを使って人を集めてくることと、実際に採用し、定着させ、戦力に育てあげることは別です。そうやって集めた中に、よい人財がいるかもしれませんが、いないかもしれません。一種の賭けのようなものです。

採用活動は営業活動と同じだと私は考えています。営業で賭けはすべきでないように、採用でもギャンブルはいけません。

何度も接触し、場合によっては人生相談に乗り、自社の売込みなどせず、親身になって相手に寄り添う誠意を見せる。そうすれば「ああ、この人がいる会社で働きたい」と相手は思うものです。

学生にとっても大事なことは「誰」と仕事をするのかです。どのような会社で仕事をするのか、どんな仕事が自分に合っているか、それよりも「誰」のほうが重要です。どんな会社だろうが、どんな仕事だろうが、よほどのことがない限り、一所懸命やっていればいずれ好きになるものです。

そのことを就活生に知ってもらうためには、しっかり話を、しかも何度もすることです。企業にしてみても、時間をかけ、定期接触をしなければ相手の良さなど理解しようがありません。金をかけて短期間で効率よく採用しようという戦術を毎年毎年やるのではなく、じっくりと腰を据えた採用活動を続けるべきです。

そうした人間的な付き合いをしても、最後の最後に知名度の高い企業や条件のよい仕事を選ぶような学生であれば、それこそ入社してもらわなくて結構でしょう。

採用活動は営業活動と本当によく似ています。プロモーション費用を投下し、短期決戦をして成果を出したとしても、それはその時だけです。繰り返し訪問し、「君がいる会社から買おう」と思ってもらうことです。営業担当者は商談テクニックに目を向けがちですが、それだけで信頼関係は築けません。人事担当者は面談のテクニックだけ磨いても駄目でしょう。