総合人事部を襲う「悪夢のような変化」とは何か? 「自由な働き方」を求める声はますます高まる
発売1カ月で11万部のベストセラーとなっている書籍『ライフ・シフト』では、長寿化は人類にとってさまざまな恩恵と可能性をもたらすとされている。一方、実は本書では、この「長寿化」が企業経営、特に人事領域において「悪夢」をもたらすとも説明されている。
ドラッカーも注目した、現代最大の変化とは
「現代の職業生活に起きた最も重要な変化はなにか?」
この問いに対して、「マネジメントの父」とも呼ばれる経営学の第一人者である故ピーター・ドラッカー氏が選んだ答えは、テクノロジーの進化でもなく、グローバル化の進展や産業革命などでもなく、「平均余命の目覚ましい上昇」でした。
本書にもあるとおり、たとえば2014年に生まれた子どもたちは「平均で」109歳(2123年!)まで生きるそうです。しかも重要なのは、100歳を「病気がちで弱々しく」迎えるのではなく、「健康で、生き生きと」迎えるということです。
そうなると、問題になるのは「おカネ」です。これまで通り60歳で引退するとなると、残り40年間を「貯蓄」と「社会保障」で賄わなければなりません。これは、あまりにも非現実的でしょう。
本書ではこの問題への対策として、今までの「教育→仕事→引退」という3ステージの生き方から「マルチステージ」の生き方に変革すべき、としています。70歳でも80歳でも、90歳でも働くために、若いうちからさまざまな経験をし、自身を高める必要があるのです。たとえば30歳で海外を見に旅立ったり、40歳で大学に入り直したり。そういったことが「当たり前」となる時代が予見されています。
なぜこのような変化が起こるかというと、長寿化時代を過ごすため、個々人には3つの「無形資産」を貯めるインセンティブが高まるからです。無形資産は、大きく次の3つに分けられます。
仕事の生産性を高め、所得を増やすのに役立つ資産。スキル(技能)や知識など。
肉体的・精神的な健康と幸福のこと。心身の健康や良好な友人・家族関係など。
100年時代を生きるために、自分を大きく変身させるのに必要な資産のこと。自分自身についての深い知識や、多様性に富んだネットワーク、オープンな態度を持っていることなど。
実際、私自身も、2012年末に『ライフ・シフト』著者、リンダ・グラットン教授の前著『ワーク・シフト』と出会い、それまで10年近く住んでいた会社の徒歩圏内の住居から、湘南茅ケ崎に引っ越しました。この判断は、私に非常に多くの恩恵をもたらしました。
往復3時間の通勤中の読書で「生産性資産」を高めることができました。徒歩3分の海で行うサーフィンや釣りは非常に効率的なリフレッシュとなり、私の重要な「活力資産」になっています。結果的に、都内在住の時よりもハードワークが可能となりました。
画一的な管理型人事をやめよう
私のような「自由な働き方」を求める機運は、今後ますます高まっていくはずです。ここに、企業人事の「悪夢」があります。
従来の企業人事は、運用が簡単で単純な、予測可能性の高いシステムをベースに人事制度を作り上げてきました。日本の年功序列型の組織や新卒一括採用、終身雇用などは当然のこととして、アメリカの(実際は日本の1.5倍にもなる4.6%の失業率を生み出している)短期的な実力・成果主義や過度な高額報酬などもそのひとつです。
これから訪れるマルチステージ化された時代においては、これらの予測可能性を前提とした画一的な人事システムは機能しなくなり、より柔軟な選択肢を求める個人の欲求に対応せざるをえなくなるのです。
すでに感度の高い一部の企業では、従来の画一的な雇用形態、労動環境、雇用条件などを、より優秀な人材を獲得すべく、試行錯誤しながら進化させています。それは単なる「兼業可能」や「フレックス勤務可能」というレベルではありません。たとえば本書で言う、さまざまな仕事や活動に同時並行で携わる「ポートフォリオ・ワーカー」や、選択肢を狭めず幅広い進路を検討する「エクスプローラー」に対応するための採用手法や労働環境の整備も、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら進めています。
ただし、このように迅速に適応できる企業は、まだまだ限られています。戦後の一定期間は成果を出していたであろう人事システムが確立している企業において、これらのムーヴメントへの適合は、既存ルールとの兼ね合いもあるので、非常に困難を極める作業になります。
新しい仕事が次々生まれていく
グラットン氏も指摘するように、これからの時代、消えていく仕事もたくさんあるでしょうが、新しく生まれる仕事もたくさんあります。
たとえば、いま、既存の分類で言うデザイナーの年収はすごく下がってきています。しかし、コードを書けるデザイナー(アメリカでは、ユニコーンデザイナーと呼ばれます)となると、逆に年収が上がるのです。
僕らのような人材サービスは、いまは、従来からある仕事のマッチングが多いのですが、このように、新しい仕事、新しい職種が生まれてきているということを、どんどん明らかにしていきたいと思っています。
そうなっていくと、既存の就業規則や慣習・慣例にとらわれないワークスタイルを求める優秀なビジネスパーソンが確実に増えてきます。顕著な例でいうと、有能なエンジニアにとって「(雇用条件や環境、待遇に関する)要求が受け入れられなければ会社を辞める」という選択は、空前絶後の売り手市場も相まって当然の権利となり始めています。まさに、柔軟性と選択肢を求める個人の欲求に、企業が凌駕される時代となりました。
こういった「例外扱い」が増えていくことは、この「変わりたいが、変われない」という古い仕組みに確実にヒビを入れる、非常に良いきっかけとなっています。すでにベンチャー企業のように若く柔軟な企業においては、これらの要望に対応するための変更や改善が、結果的に就業者と企業双方にとって素晴らしいメリットをもたらしています。
今後、人事は従来の画一的で予測可能性を求められたシステムから、新しい時代に合った柔軟なシステムへの変更を余儀なくされていきます。就業者と共にトライ・アンド・エラーを繰り返しながら、模索し続けることが求められるのです。
それを「悪夢」ととるか、「チャンス」ととるか。もしかしたら、それこそが企業の未来を決定づける、もっとも重要な要素かもしれません。
