総合働き方変わる? 都庁「残業ゼロ・午後8時退庁」へ挑む
東京都の職員は午後8時に残業をやめ、退庁する。小池百合子都知事がそんな原則を打ち出した。働き方は変わるのか。
9月末のある日、午後8時。都庁13階の人事部をのぞくと、多くの職員が残っていた。
「知事の方針は衝撃でした」と内田知子・職員支援課長。知事の「残業ゼロ」の公約を知り、「週1回、午後10時帰宅を目指そうか」と職員同士で話していた。「それすら挑戦的だと思っていた」という。
知事は9月14日の庁内放送で、仕事の仕方を見直す「一種のショック療法」として、午後8時での完全退庁を求めた。「ライフが先に来た『ライフ・ワーク・バランス』の実現のために、都庁が先頭に立って長時間労働を是正する必要がある。この際、改めて仕事の仕方そのものを考え直していただきたい」と語り、部署ごとに超過勤務削減率を競う「残業削減マラソン」を始めるとした。スタートは10月14日だ。
都庁職員約4万6千人の残業は、1人あたり月平均9・6時間(管理職除く)。本庁職員は月23・5時間で、多い人は年間千時間を超える。職員支援課でも、深夜の退庁は珍しくないという。
「前任者が作った資料は必ず作り、さらに追加する感じ。万全を期したいという思いからとはいえ、自分たちで仕事を増やしているところがあるかも。残業を減らす努力はしてきたつもりだけど、抜本的な見直しが必要です」と内田課長。
1時間あたりの残業代は、条件によって違うが、20代で2千円程度だという。最低ラインでも、月9億円近くになる計算だ。
民間企業では、すでに定着しているところもある。食品メーカーの「カゴメ」は2014年5月から午後8時以降の残業を禁止。働き方改革の一つとして、生産性を高めることが狙いだったという。「無駄を省くために仕事を見直す過程で、対話が増えた。今まで普通だと思ってやっていたことをやめても、意外と影響がないことも多い」と人事部の佐藤雅訓課長。最初の1年間で、残業は前年の10~15%減ったという。
北欧では、午後8時どころか、5時ごろには退社するのが一般的という。本当なのか。
フィンランド大使館を訪ねると、迎えてくれたのはマルクス・コッコ参事官(45)。「夜の行事があるので常には無理ですが、週の半分は午後6時台に帰宅します」
フィンランドは、男女平等の度合いを示す世界経済フォーラムの「男女格差報告」で世界3位(15年)。男女ともに「仕事も、家庭も」の意識が強い。保育施設は午後5時ごろまでのところが多く、子どものお迎えのために会合を中座することも珍しくない。むしろ、5時以降に会議を設定することが失礼ととらえられるという。
その分、効率には敏感だ。「メールを減らすためなるべく口頭で済ませる、『CC(カーボンコピー)』をやめるなどしています。会議を早く切り上げるため、立ったままという職場も。裁量が大きく、上司に一つ一つ了承を得る必要がないのも、日本との違いでしょうか」とコッコさん。
コンサルタント会社「ワーク・ライフバランス」の小室淑恵社長は、「仕事を抜本的に見直すために上限を決めるのは有効ですが、午後8時では家庭との両立という観点からはまだまだ。午後7時台には家に着かないと、家庭での戦力にはなりません」と辛口だ。
これまで、各地の自治体の働き方改革の相談に乗ってきた。例えばある保育課では、保育所の空き状況を書いた地図を張り出したところ、個別の相談が減り、業務時間も減ったという。「市民サービスを落とさず効率化することはできる。従来の業務を、多額の残業代を投じてまでやる必要があるのか、市民もチェックしてみては」
築地市場移転や待機児童問題など、何かと話題の都庁。「都庁と家の往復だけでは、市民感覚が失われてしまうのでは。これを機に外に出て、視野を広げてほしい」