総合介護の現場、働きやすく 人材不足解消へ、待遇改善の試み
慢性的な人材不足に悩む介護現場で、介護職員の負担を減らしたり業務を評価したりする取り組みが広がっています。職員の待遇を改善して、職場から離れていくことを防ごうという試みです。
津市の介護老人保健施設「いこいの森」。流し台の前で、中村久美子さん(68)がタオルの上に利用者の歯ブラシを並べていた
。誰のものかすぐに分かるよう、柄の部分に書かれた名前を上にして置いていく。「こうしておくと、介護職員さんがすぐに口腔(こうくう)ケアに入れるんです」
利用者の歯ブラシを並べる介護助手の中村久美子さん=津市(画像の一部を加工しています)
元看護師の中村さんは「介護助手」として働いている。介護職員に代わり、利用者の水分補給やシーツ交換などを担う。時給870円で、週3回3時間程度ずつ働く。
「体力的に本格的な介護はきついけど、助手なら看護師の経験も生かせると思った」
この仕組みは、施設長で三重県老人保健施設協会長の東憲太郎さん(63)が発案した。介護職員の仕事ぶりを観察したら、残飯処理や換気といった専門性がなくてもできる仕事にも追われていることに気付いた。一方、施設近くにある団地には「定年退職後、何か社会貢献がしたい」という人が多くいた。
そこで、昨秋に未経験者でも働けるよう難易度別に分けた三つの業務を県内のほかの施設と同時募集したところ、251人から応募があり、57人を採用した。いこいの森にも7人が採用された。
効果はすぐに表れた。
午前6~9時の早朝勤務では、介護職員が1人で約30人の利用者を起こして回り、着替えや整髪、義歯の装着を手伝い、朝食のため食堂に誘導する。これまでは毎回1時間ほど残業していたが、介護助手を3人加えたところ、定時で終わるようになった。
介護長の間渕洋文さん(41)は「介護職員たちが利用者に余裕をもって接することができるようになった」という。
神奈川県は今年度、県内の約20施設でモデル事業として介護助手の制度を導入する。山形県も入所者の話し相手や食事の片付けを担う「介護アシスタント」の養成研修を実施している。
介護職員のやりがいを高めるため、技能を評価する仕組みもある。
東京都世田谷区の有料老人ホーム「アライブ世田谷下馬」では、2年前から「介護プロフェッショナルキャリア段位」を導入。厚生労働省が所管している制度で、介護の知識とスキルを認定し、職員の資質を向上させるための仕組みだ。一定の講習を受けた先輩職員や上司らが、全国共通のチェック項目で職員の介助の技能レベルを4段階で評価し、段位を認定する。
このホームでは、段位取得者に数万円の一時金を支給している。今後、資格手当として毎月の給料に反映することも検討していくという。
段位を取得した鈴木萌子さん(27)は「良いケアをしているつもりでも、これまで具体的な根拠がなかった。今は胸を張ってケアができる。全国共通の制度なので、万が一、ほかの職場に転職した場合も評価してもらえる」と歓迎している。
■人件費・業務のあり方…課題も
ただ、課題もある。
東さんによると、介護助手の応募者は介護や看護の経験者も多い。だが、業務内容に身体介助は含まれないため、厚労省令に基づく「介護職員」とはみなされず、報酬の加算もない。介護助手の人件費を考えると、経営に余裕がない施設では公的補助がなければ導入が難しい。
介護助手の導入が進めば介護職員が担う業務の見直し議論につながりかねない、という懸念も上がる。
京都ヘルパー連絡会代表世話人の櫻庭葉子さん(41)は、介護職員の業務について「利用者とコミュニケーションをとり、生活を立て直すところから関わらないといけないケースも多い」と指摘。身体介助を伴わない業務も専門知識を持った介護職員が担うことの重要性を強調する。
また、キャリア段位制度は職場の上司らが介護職員を評価する仕組みのため、人手不足が続く介護現場では評価する時間の確保が難しい。制度の実施機関によると、評価を始めてから実際に段位を認定するまでに、平均7カ月ほどかかっている。認定期間を短縮するため、評価の仕組みを効率化することも検討しているという。(水戸部六美)
■難易度別に分けた「介護助手」の業務
【Aクラス】一定の専門知識、経験がある人
認知症の利用者の見守り、話し相手など
【Bクラス】数時間の研修で専門知識・技術を学んだ人
利用者の日常生活活動度(ADL)に応じたベッドメイキングや水分補給など
【Cクラス】未経験者
部屋の清掃、備品の準備など
(介護老人保健施設「いこいの森」の例)
