人材不足のIT業界が抱える課題と、エンジニアが生き残るために必要な2つの武器とは?

総合人材不足のIT業界が抱える課題と、エンジニアが生き残るために必要な2つの武器とは?

本連載では、ITエンジニアが時代の波に飲み込まれず、ITの世界で生き残っていくための知識を解説していきます。IoTや人工知能といったトレンドも押さえながら、データベース、セキュリティ、数学などの不変の知識もカバーします。応用のためには基礎が必要とはよくいいますが、実際は応用できる知識と、そうでないものがあります。新技術が登場しても陳腐化しない、本当のベースとなるような知識を身につけましょう。第1回は、エンジニアが生き残るための道筋を把握するために、IT業界が抱える人材不足の状況や、求められているスキル、構造上の問題点などを分析します。

目次

エンジニアは将来に不安を抱きがち?

IT業界で働いていると、当然ながらいろいろなスキルが身につきます。日常の業務でおぼえたもの以外にも、個人的に書籍やセミナーなどで学んだスキルもあるでしょう。しかし、そのスキルが「世の中でどれくらいのレベルにあるのか」あるいは「転職した場合でも通用するのか」と聞かれると、なかなか答えにくいものです。社内では誰にも負けない技術力があると思っていても、社外に出てみるとまったく通用しないこともあります(逆のパターンもあります)。

情報処理推進機構(IPA)による「IT人材白書2016」に、「IT企業IT技術者の仕事や生活に対する考え方」の調査結果があります。その中では、「今後5年程度の間に自分の仕事で求められる技術・スキルは変化すると思う」に当てはまる人が58.8%、「将来のキャリアに対して強い不安を感じている」に当てはまる人が48.9%存在します(図1)。

図1 エンジニアは時代の変化に不安を感じている
(引用元:IT人材白書2016「IT企業IT技術者の仕事や生活に対する考え方」)

環境は変わることが当たり前

誰もが知っているように、IT業界は変化の激しい世界です。「自分のスキルが将来も通用するか」「常に新しい技術を勉強しなければ」という焦りは、業界の移り変わりを目の当たりにしているから感じるものでしょう。

かつて、「ユビキタス」や「Web2.0」が革新的だといわれた時代がありました。それから「クラウド」や「ビッグデータ」の時代がやってきました。そして今は「IoT」の時代だといわれています。

IPAの「IT人材白書2016」には、ズバリ、「IoT時代の人材に必要とされる能力とは?」という項目があり、「ビジネスアイデア構想力」と「技術力」が上位になっています。ここで必要とされている「技術力」の内容を見ると、「事業全体の技術を俯瞰し、全体を設計する能力」がトップになっています(図2)。スキルや知識の習得に焦るエンジニアに追い打ちをかけるように、ますます幅広い知識が求められるようになっているのです。

図2 IoT時代の人材に必要な能力は?
(引用元:IT人材白書2016「事業変革・新事業・新サービスの創出を実施する人材に必要な能力と技術力」)

広くて深いITの世界にある「柱」

しかし、ITの世界はあまりにも広くて奥深く、事業や業界全体を見通すのは困難であるのも事実です。当然ながら、すべてを一人の人が理解できるものではありません。しかも次々と新しい技術が登場するので、一つ一つを理解するだけでも大変です。

ではどうすればよいかというと、応用のきく基礎知識をしっかり理解しておくことが有効です。IT技術には、いくつかの「柱」があります。言い換えると、「時代や環境に左右されない知識」というようなものです。例えばプログラミングであれば、アルゴリズムや計算量の考え方は大きく変わることがありません。ネットワークならTCP/IPなどのプロトコル、データベースでは正規化などが該当します。

こういった知識は、時代が変わっても、ほかの部署や会社に移っても通用します。また、新しい技術であっても、これらの技術の上に成り立っていることがほとんどです。つまり、一定の分野の知識を身につけておけば、相違点だけを把握すればよいため、新技術をスムーズに理解できます。

さらに、これらをビジネスの視点につなげてイメージしておくことが重要です。会社の中で、もっと言えば社会の中で、どのように使われていて、どのように変化しているのか、全体としてイメージしておくだけでも身につけるべきスキルが見えてきます。

慢性的な人材不足

少し話は逸れますが、IT業界は慢性的に人材不足といわれています。経済産業省の「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、IT人材の不足数は17万人となっています。しかも、「IT人材白書2016」の調査結果を見ると、「不足している」という回答の割合は年々増えている状況です(図3)。

図3 IT人材の不足は拡大している
(引用元:IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果「日本のIT企業の人材の”量”の過不足【過去5年間の変化】」)

 そんな中、人材の獲得・確保方法についての調査を見ると、ユーザー企業やIT企業では「社内人材の活用」が占める割合が多くなっています。

図4 不足人材は自社で育てる傾向(引用元:IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果「実施または検討中の事業変革・新事業・新サービスに必要な人材の獲得・確保方法」)

 つまり日本のIT企業では、社内の人材不足を、社内の人間を育成することで解決しているのです。ではもう少し深堀りして、その育成される人とはどのような人か、見てみましょう。

IT業界は誰を育成しようとしている?

プログラマやSEは理系出身者だけではありません。実際、文系出身でも現場で活躍しているエンジニアはたくさんいます。ここでも「IT人材白書2016」を見ると、IT企業におけるIT技術者の最終学歴で情報系を専攻している人は、半分にも満たない状況です。これは、ユーザー企業ではさらに少なくなります。

図5 IT企業の「情報系」出身者は約4割にすぎない
(引用元:IT人材白書2016「IT企業IT技術者の最終学歴での専攻」)
図6 ユーザー企業の「情報系」出身者はもっと少ない
(引用元:IT人材白書2016「ユーザー企業IT技術者の最終学歴での専攻」)

 IT企業であっても、新卒の入社時に求められる技術知識のレベルは低く、未経験でも特に問題ないことが多いです。就職活動の段階ではそれほど知識や経験を気にする必要はなく、ITに関する技術を学ぶのはOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)が中心かもしれません。学生の頃にIT技術を学んでいない人の中には、業務で使ったことがない技術をまったく知らない人がいます。理系出身者でも、自分が日常業務で触れない分野は「知っているとは言えない」という人が多いのではないでしょうか。

例えば、データベースエンジニアとして働いていると、ネットワークの構築については意外と知らないものです。しかし、本来はネットワークのことを理解していないと、しっかり性能を発揮するデータベースは設計できないものです。

プログラミングは得意でも、社内システムばかり開発していてセキュリティに関する知識がほとんどない。コンピュータはソフトウェアとハードウェアが一体となっているにもかかわらず、片方しか分からない。組み込みソフトウェアの開発が中心でデータベースを使うことがなく、SQLを知らない。残念ながら、これらはよくあることです。

しかし、社会人として経験を積んでくると、「知らなかった」では済まされない仕事が増えてきます。「学校で習っていないから知らない」といった言い訳も、もちろん通用しません。

変わらないITの知識×ビジネス視点

人材不足のIT業界は、専門知識のない人でも採用し、場当たり的に育てる文化が根付いてしまっています。このような状況では、知識に偏りのあるエンジニアが増えるのは必然といえます。それにもかかわらず、これからのIoT時代には「事業全体を俯瞰できる能力」が欲しいなどと言います。

さて、ここで話を元に戻します。不公平な気はしますが、業界にこのような問題がある以上、自分がしっかりしないといけません。事業全体を俯瞰できるようになる前に、まず自分を俯瞰してみましょう。IT業界で生き残るには、「自分にはどのような知識があり、どのような分野が苦手なのか」といったことを理解するのが第一歩です。自分のレベルや立場が分からないと、何が足りないのか気がつきません。自己スキルの棚卸し、つまり再確認することが重要です。

ITに関する技術だけでなく、世の中のビジネスも変わっていきます。その中でも古びない知識を持っておくと、変化に対応できる可能性が高まります。さらには、社会全体を「ビジネス目線」で見て、あらゆる技術を組み合わせて「課題を解決できる力」があると理想的です。

本連載では、今後のIT社会で生きていく中で求められる、ITに関する基本的な知識や考え方を、ビジネスと関連づけて考えていきたいと思います。