総合人事データベースを活用した、最先端の人事施策〈後編〉
新規事業にも積極的に取り組み事業拡大を図っている株式会社セプテーニ・ホールディングス。独自の方法で人事データを収集・分析し、科学(数的根拠)に基づく人事施策を実践してきた。前編では、同社が開発した『人材育成エンジン』のベースとなった方程式や独自コンセプトに関して詳しく伺った。後編では、『人材育成エンジン』を企画した専務取締役の上野勇さんと現場で開発に関わった人的資産研究所の進藤竜也さんに「このエンジンの活用事例」や「社員や会社における変化」についてお聞きした。
『採用』から『育成』まで、
シーンに合わせて活用できる

「社内では『人材育成エンジン』を様々なシーンで活用していて、大別すると、『採用』『適応(入社1年目)』、『育成』という3つのフェーズに分かれます。
まず『採用』フェーズでは、当社に入社しやすい人材か、しにくい人材かがわかる入社の難易度、3年後の業績・定着率、など、応募者の未来が予測できます。こうした業績・定着予測や応募者の特長をアセスメントシートにまとめて、面接の際に役員に渡し、採用の合否に活用。入社の難易度によっては、学生との相性が良い人事スタッフを担当者につけるなど、応募者への対応にも活かしています」(上野氏)
現場で新卒採用も担当していた進藤さんによると、「『人材育成エンジン』が行った業績予測でのデータ判定が『高業績』と判定された学生の役員面接合格率が95%という非常に高い精度をあげるなど、『人材育成エンジン』の確かさが証明されはじめています。また学生と採用担当者の相性を合わせることで20%程度採用率が向上するケースも確認できています」
この『人材育成エンジン』を導入したことで、当初課題となっていた戦力となる学生の見極めの問題も見事に解消しているようだ。
「続いて『適応(入社1年目)』のフェーズです。実は、私たちの研究結果でもあきらかになっているのですが、会社への定着化においては、入社1年目で職場環境に適応できるかどうかが最も重要なポイントです。そのため、この時期を『適応』期間としてサポートに力を入れています。たとえば、通常では半年に1回のペースで行っている360度評価を3ヶ月ごとに実施し、適応が想定通りに進んでいない人材は入社直後であってもすぐに別のセクションへの異動を検討する等適応を促進することを念頭においた施策をとっています」(上野氏)
「2年目以降の『育成』フェーズでは、一人ひとりが最大限のパフォーマンスを発揮できるように、ジョブローテーションや戦力化に苦労している人材に向けたアドバイザリー機能などに活用しています。また、新たなセクションに配属される前には、本人と配属先の上司に相互理解を図る取り組みも行っています。実は当社の傾向として入社して7、8年経つと離職のリスクが著しく低下するので、いかにしてこの期間中やりがいを持って、仕事に取り組ませるかということに力を注いでいます」(上野氏)
客観的な評価にも活かせる
採用や新人の育成促進、人材育成などに活用している『人材育成エンジン』だが、その他でも活用シーンはあるのだろうか?
「『人材育成エンジン』を活用することでさまざまな傾向をつかむことができます。いうならば組織階層におけるそれぞれが期待されている役割(人間性や仕事、それを遂行するに必要となる能力)をどの程度うまく演じることができているかという定性的な能力が定量的なスコアで表現されます。
その他には、査定評価する際の客観的なツールとして、また新事業の立ち上げなどの際の人材選考にも頻繁に活用しています」(上野氏)
離職率0%を達成しても、
業績向上につながるとは限らない
最後に、上野さんに『人材育成エンジン』を導入したことでの社員や会社での変化について伺ってみた。
「5年間続けてきた『人材育成エンジン』の人事施策によって、情報(データ)が判断すべきことは情報に任せるようになり、効率的になりました。その一例が役員による面接です。面接が簡略化でき、以前ほど時間がかからなくなりました。役員の面接の工数は導入以前の半分以下に。売上においても1人あたりの売上高も伸びており、業績面でも生産性は向上しています。
また、社員の意識にも変化が見られているのではないかと考えています。Great Place to Work(R) Institute Japanが実施する「働きがいのある会社ランキング調査」において、『人材育成エンジン』導入後は着実に順位を上げています。ただ、この領域の評価は難しいので、この取り組みを継続して精度を向上させていくことに集中していきたいです。」(上野氏)
同調査のランキングは、従業員への意識調査の結果をもとに発表しており、まさに従業員の声といえるだろう。ただし退職率に関しては大きな変化はないという。
「退職率ゼロを目指すこともできますが、それが必ずしも組織を強化することには繋がらないと考えています。たとえば、攻め型(価値創造型)の人材は外に対して興味があるので、その要素が高い人材ほど辞める傾向が高くなります。しかしながら、会社を継続的に成長させるためには攻め型の人材を採用しないという訳にはいきません。だから、必要な人材のポートフォリオは、退職率のみを意識して考えないようにしています。まずはその人に合った最適な環境の提供と最適な組織編成に注力しています」(上野氏)
自分が何に向いているのかは、本人にも意外とわからないもの。好きな仕事が必ずしも自分に向いているとは限らない。自分に合った仕事や環境が客観的な数字(データ)で示されることで、人の成長に貢献できるだけでなく、馴染まない仕事や環境に合わせる必要もなくなってくる。まさに適材適所。企業と人材とのミスマッチも解消できそうだ。人事データベースを活用したこの人事施策の取り組みは、新たな人材育成の指針となるだろう。