首相、雇用拡大に重点 衆院代表質問「賃上げを検証し公表」

総合首相、雇用拡大に重点 衆院代表質問「賃上げを検証し公表」

16日の衆院本会議で、安倍晋三首相の所信表明演説への各党代表質問が始まった。首相は経済政策「アベノミクス」の成果を強調し、雇用拡大や賃上げに力を入れると訴えた。民主党の海江田万里代表らは東京電力福島第1原子力発電所の汚染水問題などの対応を追及した。首相は慎重な答弁で批判の矛先をかわしたが、抱えている課題の大きさも浮き彫りになった。

 「復興特別法人税の前倒し廃止で、賃上げの実効性をどう担保するのか」

 「賃金上昇、雇用拡大を実現するための未来への投資だ。効果を検証し結果を公表する」

 首相は復興特別法人税を2013年度末に1年前倒しで廃止することが、民間企業の賃上げにつながるのかとただす海江田氏にこう反論した。

 首相は来年4月からの消費税率の8%への引き上げを決断。同時に企業の活力をそがないよう復興特別法人税の廃止を検討し、法人実効税率の下げを「真剣に検討」する考えも示している。

 海江田氏は「『消費税増税と法人税減税との一体改革』に変質しつつあるのではないか」と主張。首相はこうした批判を封じるためには、減税による企業の収益拡大を賃金上昇につなげることがカギになるとみているようだ。

 ただ政府が民間企業に賃上げを確約させることはできない。茂木敏充経済産業相が10日に経団連に要請をしたのを皮切りに、各省庁は所管業界の企業に賃上げを求める働きかけを開始した。経団連は米倉弘昌会長が「デフレ脱却には賃上げが必要という認識は政府と一致している」と前向きな姿勢をみせた。

 来春に向けて労使交渉が本格化するのはこれからだ。政府は企業の春闘の結果や決算発表などをもとに賃上げ動向を調査して公表する方針だ。

 業績が改善したのに賃上げしていないからといって、特定の企業を名指しするのは「事実上不可能だ」(経産省関係者)との声もある。業績改善を賃金に反映させるべきか、設備投資を増やすべきかといった経営判断は自由であり、どこまで実効性がある仕組みにできるかは不透明だ。

 海江田氏は「現実には賃金はほとんど上がっていない」と追及。首相は民主党の最大の支持団体、連合の調査と前置きして「今年の春闘で(賃金水準を上げる)ベースアップする企業の割合が5年ぶりに2ケタになった」と答えた。

 地域を限って大胆に規制を緩める「国家戦略特区」については、海江田氏が「働くものを使い捨てにする企業を大量生産する『解雇特区』だ」と批判。首相は「レッテル貼りは事実誤認であり、不適切だ」と強く反論した。首相は「特区で検討中の雇用改革は雇用拡大を目指すものだ」とも強調した。

 海江田氏が最も厳しく追及したのが、東京電力福島第1原発の汚染水漏れへの対応だ。首相が「状況はコントロールされている」「健康問題はないと保証する」と断言していることを「言葉が極めて軽い」と問題視し、根拠を明確にするよう求めた。

 首相は汚染水漏れについて「福島近海での放射性物質の影響は、発電所の港湾内の0.3平方キロメートルにブロックされている。全体として状況はコントロールされている」と答えた。首相はこれまで「完全にブロック」などと言明していた。

 今回の答弁では「全体として」という表現を追加。「予防的かつ重層的な対策を講じていくことで、汚染水問題の解決に向けた取り組みをしっかり進めていく」と答えたものの、具体的な対策は明示しなかった。

 汚染水対策では足元で綻びが目立つ。東電は9月下旬、福島第1原発の敷地内にたまりつづける汚染水から放射性物質を除去するための装置を稼働させたが、トラブルによる運転停止は数回に及ぶ。政府は問題の根っこにある原子炉建屋への地下水の流入を防ぐため、約320億円の国費を投じ「凍土遮水壁」の設置を決めたが、専門家からは有効性に疑問の声も上がっている。

 政府は海外からも対策についての知見を集めた上で、11月中をメドに汚染水問題の追加対策をまとめる方針だ。現行の対策がうまくいかなかった場合の対処法を中心にとりまとめる方向。結果次第では追加の国費投入を迫られる恐れもある。

 「世界の船舶の安全を確保するために灯台を設置すべきだ」

 「実際にどのような方策をとるかについては戦略的な観点から考えていくべきだ。戦略的に対処していく」

 日本維新の会の石原慎太郎共同代表は首相に沖縄県・尖閣諸島の実効支配強化に関して、灯台設置の検討を求めたが、首相は言葉を選んだ。

 中国の領海侵犯について尋ねた自民党の高村正彦副総裁には「日中は隣国だから問題が生じることもある。両国の間で首脳レベルを含めて率直に話し合うべきだ」と答えた。

 外交・安全保障政策では抑えのきいた答弁が目立った。一つは中国との関係。米国も改善を促すシグナルを送っているが、糸口は見えないのが実情で、発言もおのずと慎重になる。

 集団的自衛権の行使容認を巡っては「政府の有識者懇談会での議論を待ちたい」と発言。石原氏から現行憲法の正当性を聞かれると「帝国議会での議決から六十有余年が経過したものであり有効だ」と述べた。自身が意欲を見せる憲法改正への発言はなかった。

 首相の考えを支持してきた勢力には不満がくすぶる。「役人の書いた答弁だ。あれが限界なんでしょう」。石原氏は記者団に感想を語った。