終身雇用の「崩壊」は、こうして売り込まれる 人事コンサルの資料から見えた「逃げ道」は?

総合終身雇用の「崩壊」は、こうして売り込まれる 人事コンサルの資料から見えた「逃げ道」は?

「終身雇用の崩壊」というワードは、これまでも、繰り返しメディアで取り上げられてきた。昨今では人材不足や採用難が叫ばれているが、一方で40代以降の社員に対する「リストラ」の話は、まだまだ目にすることが多い。

日本では法律や判例上、企業が労働者を解雇する要件は厳しい。一度雇用してしまえば簡単に関係を解消できないことが原則だ。仕事の成果が出ないローパフォーマー(いわゆるローパー)の扱いに苦慮した企業の中には、「追い出し部屋」などを使った嫌がらせや、執拗な退職勧奨など、違法と評価されかねない手段を使ってきたところもある。しかし、そうした行動は裁判に持ち込まれ、マスコミでも批判されるなど、会社の社会的評価を貶めるリスクがあった。

人材管理の「出口」を戦略的に考えている

この状況を企業も座視しているわけではない。実は、人事の世界では「イグジットマネジメント」という考え方が広がっている。「リストラ」という言葉は広く馴染みがあるが、この言葉を聞いたことがある人は、多くないかもしれない。これは、業績が悪化したり、ローパーを放置しておいて急に辞めさせるのではなく、人事システムの運用に、あらかじめ一定数が定年前に会社を去る仕組みを作るものだ。いわば、戦略的に人材の出口(イグジット)管理を行うことである。

今回入手したのは、大手人事コンサルティング会社のクライアント向け資料。この資料の内容から、サラリーマンが無防備に「出口」に追いやられないためのヒントが見えてきた。

この資料は2010年に作成されたもので少し古いが、現在の状況でも通用する中身となっており、大いに参考になるものだ。

まず、資料は「みずみずしい組織をいつまでも保つために組織と個人の関係解消のマネジメントは不可欠です」という一文から始まる。続いて、「雇用の保障は社会の課題としてとらえ、個人のキャリアはすでに転職を前提とする中での設計になっています」と述べられている。

これは、雇用問題は本来国が政策として対応するべきものであり、個々の企業が責任を負うものではないということだろう。そして、経営環境の不確実性が高まっている中で、会社が価値を生み出す従業員に提供するのは、長期安定雇用ではなく、「個人の『雇用される能力』を開発する機会」だという。「流動性の高い社会で企業が行う努力は、社内人材を育むとともに、それはイコール社外価値の高い人材を育むことでもあります」とされている。

現状でも、日本において雇用の流動性が高いと言えるのかは見解が分かれるところだが、資料では流動性が高いという前提で話が進んでいく。

そして、こうした方針を実現するためには、企業は採用段階から思考を改める必要があるという。次のページでは組織の入り口である「エントリーマネジメント」についての考え方が提示されている。

まず、採用とは「入りたい人材を選ぶ」という受け身のスタイルではなく、「採りたい人を口説く」営業活動であるとする。また「会社に人材を入れる」という考えを否定し、「人材の中に会社を入れ続ける」という発想を持つべきとされる。

社内でも「自立」する意識がない人はアウト

一見すると、どういうことなのか分かりにくいが、これは「会社」という入れ物はそもそも存在せず、組織は「人ありき」という考え方をとるものといえるだろう。さらに資料では、「採用とは単なる人員の確保ではなく、『共感者の創造』。共感してもらいたい会社の理念や価値観を応募者の頭の中に入れること」と続く。これは、自立意識の高い価値観に「共感」した人だけを残すべき、という発想につながる。確かに、こうした考えを持った人だけの集団であれば、組織としては理想だろう。

さらに次は、いよいよ本題である「組織の出口管理」=「イグジットマネジメント」の必要性に話は進む。資料は、エントリーマネジメントさえ行っていれば、「個人と組織の相思相愛」が永続するわけではないと指摘する。なぜなら、「個人も組織も社会的ニーズも全て変化しているから」だ。

変化によって「以前は輝いていた人材が最近はぱっとしない」「パフォーマンスの低い人材が滞留し、中には抵抗勢力を形成する」という事態が起こるという。前者はよくある話だが、後者は「抵抗勢力」と穏便な表現ではない。組合活動などを想定しているのだろうか。

そして、最後に紹介するのは、「イグジットマネジメントの思想」。辞めにくい状況の中で、成果の乏しい人に転身してもらうアクションを起こす組織ではなく、社内外の流動性を高め(垣根を低くし)、成果の高い人材に動機付けするアクションを取る組織を目指すべきとされている。なぜ後者を薦めるかといえば、「関係性の解消」の方が「関係の構築」より、はるかにモチベーションを使うから。解雇規制の問題があることが念頭に置かれていることがうかがえる。

そして、辞めやすい環境を作り、辞めてほしくない成果の高い人との関係構築強化(モチベーション強化)をする方が効果的であることを指摘。そのための人事施策側面として、4つの重要なポイントを提示する。

まずは、「即時清算型」報酬体系の強化。

年功序列型給与や、多額な退職金制度などに代表される「後払い要素」を縮小させるべきだという。「途中で辞めたら損をする」という風土を改革し、個人と組織が互いに貸し借りを作らない関係を作ることで、いわゆる「不適切人材」が組織にぶら下がることが防止されるというわけだ。確かに、リストラの対象とされた人から出る不満として、「若い時、安い給料に見合わない仕事量をこなすのも、将来までの安定的な雇用保障への期待があったから」というものが多い。若い段階から、仕事に見合った納得できる報酬を受け取っていれば、会社にしがみつこうとする考えも起きにくいだろう。

フィードバックと研修を重視

次に、人事評価の多頻度化。

評価する側と評価される側の納得感を高め、変化に対応した「求められること」を明確にし、その上でコミュニケーションを多くとることが大事だとされている。不意打ち型のリストラは、トラブルの元凶で、退職させることを目的化するあまり、違法行為をして裁判にもなることも多い。こうしたことを考慮したものと思われる。

そして、三つ目は自己選択型及び会社選抜型の研修制度の確立。

自己の能力開発機会となる研修の機会を、社員に選ばせることが前提とされている。これは、冒頭にも出てきた、従業員が「雇用される能力」を、納得感を持って高めるためのものだろう。逆に、会社が主導する研修は、「投資価値の意ある人材を組織が任意に選ぶ」としている。社内の戦力として投資する人間は、会社が選別した一部の人間に絞っていくということで、これは平等に昇進していく「年功序列」の排除につながる発想だ。「社員が選ぶ機会」と「会社に選ばれる機会」の両輪を整えることで、個人と組織はイコール・フッティング、すなわち「同等の条件」で関係が築かれるとされており、会社が社員を一方的に保護する姿勢は後退している。

最後に、社内労働市場の構築。

FA(フリーエージェント)制度を導入し、個々人に「自分という商品価値」を強く意識してもらい、社内労働市場での価値を体感することで、自立意識を高めるという。会社の指示に従っていれば仕事を与えられ、育成し、将来的な給与も保障してくれるという時代は終わった、ということだろう。

この資料に対して、あるメーカーの組合関係者は「こうした提案が、日本企業に広く売り込まれ、気に食わない人を辞めさせるためのツールになっている。きちんとした雇用が維持されることで、家族も守れるし、家も建てられる。労働者をモノとみないで、人として扱って欲しい」という。

報酬の後払い要素が強く、他社でも通用する能力を社内で育成する仕組みもなく、人事評価制度が恣意的で、社内でも自主的なキャリア形成など望むべくもなかった人が突然リストラされたら、それを自己責任をするのはあまりに酷だろう。年功序列、終身雇用を前提として尽くしてきた人が、不意打ちにこうしたことを突きつけられるのは、理不尽であり、悪質な「使い捨て」企業と言われても仕方ない。

「イグジットマネジメント」は常識になる

しかし、これから長く働く必要がある若い世代は、こうした主張は成り立たなくなるだろう。もはや一度入社すれば、右肩上がりで待遇が保障される会社は絶滅しつつあることが明らかだからだ。資料の中でも指摘されているが、ポジティブな新陳代謝のない組織は、社員の思考と行動の硬直化を招き、競合企業に遅れをとる恐れがあることは、現実的な懸念だろう。昨今における経営戦略上、最も重要と考えられているのは「組織の新陳代謝」であるということは、避けて通れない現実なのかもしれない。

結果として企業として立ちいかなくなってしまえば、そもそも終身雇用など幻想にすぎないことは、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収され、リストラが噂されるシャープを見ていても明らかといえる。ある上場IT企業の人事責任者は、「退職率をある程度維持することが、一定の目標になっている」と公言する。もはや、終身雇用の「終わり」を象徴する「イグジットマネジメント」は、人事業界では常識というレベルの話だ。

労働者は、こうした考え方が常識的なものになっていく時代で働いていくにあたり、自分を防衛する必要がある。まず、若い時に将来につながる仕事ができているかどうかを、常に考えることだ。これから先は、定年を迎えたあとは悠々自適、といったライフスタイルは、特権的なものになる可能性が高い。自分が40代から60代、さらにはその先も見据えて、安定して報酬を受け取ることができる価値を作る意識を持つことが、重要になってくる。

そうした意味では、今回紹介した人事コンサル会社の資料で示された4つの人事施策ポイントは、方向性としては筋が通っている。逆に、こうした施策がないのに、将来につながる仕事をさせず、雇用保障もしないような会社ならば、無条件に尽くすことをすぐにやめ、次につながる行動を一刻も早く取る必要があるといえるだろう。