若手エンジニアの転職が止まらない理由とは–35歳定年説にとらわれる若者の決断

中途若手エンジニアの転職が止まらない理由とは–35歳定年説にとらわれる若者の決断

「若手エンジニアは数年で転職してしまう」。IT業界ではそんな声がよく聞こえる。彼らは、なぜ転職するのだろうか。また、若手エンジニアを受け入れる企業は、彼らのことをどのように見ているのだろうか。

 前回に引き続き、レバテックキャリアでコンサルタントを務める山田諒氏に、若手エンジニアを取り巻く転職市場の“今”について話を聞いた。

IT企業IT技術者の転職回数【年代別】


転職経験があるエンジニアの割合は、20代では約25%だが、30代以降は約50%と、
20代のうちに転職を経験する方が多いことが伺える
(出典:独立行政法人情報処理推進機構発行「IT人材白書2015」P.233より)

若手エンジニアの持つ転職への価値観

——山田さんがコンサルティングする中で、若手エンジニアの転職率の高さを感じることはありますか?


キャリアコンサルタントとして、転職を希望する多くの若手エンジニアと接する山田諒氏

そうですね。他の一般的な職種と比べると、高い印象があります。これまで担当してきた方の中で、20代から30代にかけて転職経験のある方は、平均して1~2回。多い方は4回という方もいらっしゃいます。

——みなさん、どのような理由で転職を希望されているのでしょうか?

やはり若手の方は、“チャレンジ転職”が多いですよね。「新しいことにチャレンジしたい」だったり「より高度なレベルの仕事がしたい」だったりと。7~8割は“スキルアップ”を目的とした転職だと思います。

若いうちに経験を積んでおきたいけど、現実は上流工程やテスト工程がメインで、なかなか思うように開発経験が増やせないという方や、使っている技術が古くて、もっと新しい技術をキャッチアップしていきたいという方がたくさんいらっしゃいます。お客様の会社に常駐するようなSIerの方がWeb系のサービス会社に行きたいという要望も多いですね。

——若いうちに経験を積みたいと考える方が多いのは、どうしてなのでしょうか。

「エンジニアの35歳定年説」をどこかで意識しているからではないでしょうか。30代になると、プロジェクトリーダーやマネージャーという立ち位置で仕事をしないといけなくなるので、それまでに経験を積んでおかなければ、将来いい仕事ができないのではないか、という現実的な危機感は、みなさん常に持っているように思います。

あとは、周りの影響もあるでしょう。最近はエンジニアの勉強会が盛んに開催されているので、横のつながりが多いんです。勉強会で他社の最先端の技術を使った話などを聞いていると、「今のままではいけない」と感じて、転職を視野に入れる方もいらっしゃいます。


「賃金アップを目的とした転職は若手エンジニアにはあまり見られない」と山田氏は話す

——実際、転職したらスキルアップは実現するものなのでしょうか?

一概には言い切れませんが、例えば、SIerからウェブ系の企業に行けば、まったく視点が変わってきますよね。一口にエンジニアと言っても、新卒で大手のシステムインテグレーター(SIer)に入ると、いきなり管理側に回されて、まったく手を動かせないという人もいますので。そういう方にとっては、転職することで開発力のスキルアップは図れるとは思います。

——逆に、社内異動でスキルアップするという選択肢は?

異動も見据えて社内で色々動いた結果、あきらめてキャリアカウンセリングにいらっしゃる方が多いので、現実的にはなかなか難しいんでしょう。大手では特に、「“石の上にも3年”といったことを言われた」という話を耳にします。異動希望と並行して転職活動を進める方もいますが、異動が叶って転職活動をやめた方は、ほとんどいらっしゃいません。

——若手エンジニアの持つ転職への価値観はどのようなものでしょうか?

エンジニアは手に職がある職種なので、会社にずっと居座り続けるという思考は、あまりお持ちではない気がします。むしろ、将来的にはフリーランスになってもいいかなと考えている方も多いです。

ですので、自分が成長できそうな環境があれば、迷うことなく次に行く。結構フランクに転職されている印象はありますよ。

——フリーランスになる心理的なハードルが低いので、もし転職で失敗しても怖くないと。

そういう方ばかりではないとは思いますが、昨今フリーランスへの障壁は下がっているなというのは、実感しています。弊社ではフリーランスの支援もしておりますが、転職のキャリアカウンセリングにいらした方の半数くらいは、「今すぐにというわけではないけれど、将来的にフリーランスへの転向も考えているので、とりあえず話だけ聞かせて欲しい」というご要望を出されています。

——業界によって、転職の傾向に違いは見られますか?

母数としてSIerの人材が一番多いので、必然的に多くなりますよね。私が支援している方の大半は、SIerやシステムの受託会社からの転職です。


下流のSIerから自社サービスを手掛けるWeb系への転向を希望する声は多いという

業界的には、ソーシャルゲーム業界の人材は動きが活発ですね。圧倒的に他の業界よりも流動性が高いと思います。ソーシャルゲーム業界は新しい技術を学べる現場として、スキルアップを図りたい方に人気が高いんですよ。

また、ソーシャルゲームをやっていた人はスキルがありますし、負荷のかかるサービスを運用してきた経験をお持ちなので、ウェブサービスを展開しているエンタメ系の企業やアドテクの企業など、引き合いも多いです。

企業は若手エンジニアの転職をどう捉えているのか

——企業では人材獲得の手段として、「新卒採用・中途採用・外部委託」の3つをどのように使い分けていらっしゃいますか?

最近は新卒でも即戦力を求める風潮があると思います。大量に採用する大手企業ならば育成カリキュラムが整っているので、未経験でも採用するケースがあるにはあるのですが。IT系はまだまだ歴史が浅いので、名の通ったベンチャー企業でも、即戦力になる新卒の採用を希望されているケースは、散見されます。

中途はやはり即戦力であるかどうかです。自社にない経験やスキルを持ち込んでもらって、会社自体を底上げしたいというニーズもあります。前任者の異動や転職による穴を埋めたいときだけでなく、会社を大きくしていくフェーズで、伸びているサービスに人を投入してドライブをかけたいときにも使われます。

外部委託が使われるのは、スポットで開発ボリュームが大きくなる瞬間ですね。サービスのリリース前は人がたくさん必要だけど、運用フェーズになると、そこまでいらなくなるといった場合などがあてはまります。その代わり、外部委託すると社内にノウハウがたまらないので、長期的なことを考えれば中途採用の方が望ましいとおっしゃる企業は多いです。

——若手の転職回数に対して、企業側ではどんな印象をお持ちですか?

営業職に比べると、エンジニアは採りづらいという現状があるので、転職回数に対するハードルは低くなっているところもあるにはありますが、企業によりけりですね。長く存続している企業であれば「転職回数の多い人は離職率も高いから避けたい」と、かなり気にされます。

逆に、ベンチャーだとそんなことは言っていられないので、間口を広げるために、とりあえず会おうと言ってもらえたり。極端な話、転職回数を気にしないどころか、GitHubのソースコードだけで面接不要という企業まであったりします。

——転職回数が多くても評価されるエンジニアとは、どんな方ですか?

まだ市場に少ないアプリのエンジニアで、自分でサービスを作ったりしている意欲的な方は、人気がありますね。あとは、過去の転職にまっとうな理由のある方、例えば過去一緒にお仕事をしていた方に紹介を受けたり、業績不振の会社都合で転職せざるを得なかったりするケースなら、マイナスと映りにくいです。反対に、「上司とウマが合わない」「仕事がつまらない」といった安易な理由で転職してきた方は、なかなか難しいと思います。


最大で5回目の転職を成功させた方は、すべて会社都合による転職だったとのこと

——企業規模によって、中途採用のハードルは異なりますか?

ベンチャー企業だと1人のエンジニアを入れただけでも、会社への影響力はかなり大きくなりますので、採用には慎重です。採用の過程で、「一度、現場と会わせたい」とか「食事に行きませんか?」とか。すごく優秀な方でも、社長が「うちと合わない」と判断して、見送りになることもあったりするので、小さな会社ほど“社風マッチ度”は求められると思います。

——中途採用で成功している企業は、どんな特徴がありますか?

離職を抑える取り組みを積極的にしている企業です。中には採用にかける費用よりも、在職者を辞めさせない施策に費用を割いているところもあり、そういった企業はわれわれエージェントとしても紹介しやすいです。

また、これは同時に転職希望者の方が集う口コミサイトの評価も大きく左右します。エンジニアの方は、結構口コミサイトを見ているので、人を大事にしているかどうかといった企業の評判は、採用に大きな影響を与えていると思います。

フリーランスという選択肢を持つ若手エンジニアは、“チャレンジ転職”を通じて一個人としてのスキルアップを図っていることがわかった。35歳というリミットを突きつけられた若手エンジニアが、「10年余りしかない貴重な時間を、今の会社でムダにしたくない」と考えるのも無理はない。一方、エンジニア不足に頭を抱える企業が後を絶たないのも現実だ。

このミスマッチを解消するには、企業とエンジニア個人との相互理解によって、“35歳定年説”を覆せるようなエンジニアの理想的なキャリアパスを描くほかにないのかもしれない。