中途転職の「勝敗を決める」基準は、人手不足でこう変化している
終身雇用が過去のものとなった昨今、転職経験があるという方は少なくないだろう。キャリアアップ等のポジティブな転職から、スキルが足りない、人間関係が合わない、リストラに遭った、ブラックな労働環境だったといった止むを得ない事情による転職まで様々だ。
「転職」というと、昔は年齢が若いほど有利で、とりわけ有名な大手企業にいる人ほど持て囃される傾向だった。大手で営業、人事、総務など複数の部署を経験し、「会社のキーパーソン」だった人は次の仕事も見つかりやすかったし、転職先で提示される給料についても、元職の給料が評価基準の一つとされたこともあった。
ところが今の雇用状況を見ると、人手不足から状況は良くなっているものの、
・一つの会社に長く勤め、評価されていた人ほど、自分の考えややり方が正しいと思い込む人が多いことから、転職では敬遠される
・若い人材の確保が困難なため、採用対象の年齢層を35歳以上(ミドル層)に引き上げている企業が増えている
といった傾向のようだ。
そこで、今回は45歳で異業種に転職した宇田川摂(うだがわ・おさむ)さん(現在50歳)と、49歳でミドル世代対象の転職エージェント会社を興した黒田真行さん(現在52歳)に、それぞれお話を伺った。
会社で学べないことがあれば、
スクールで勉強し、実行しよう
宇田川さんは、1967年生まれの50歳。音響機器の会社で20年以上にわたってスピーカー設計者としてのキャリアを積み上げてきた。実績も申し分なく職位も高かった彼は45歳のある日、完全な異業種となる組織人事に関わるコンサルティング会社に転職した。なぜ「転職」を決意したのだろうか。
宇田川さんは「音響機器の会社では、体系立てた人材育成プランが機能しておらず、勘と経験で仕事をしていました。このまま新人が仕事を覚えていき、やがて教える立場になった時にはどうなるのか」と仕事のやり方、人材育成プランに悶々とする日々を送っていたという。
音響機器という特殊な業界では、技術者が一人前になるまでに時間がかかる。その間、危機の技術も日進月歩で発展していき、いざ教える立場になった時、昔のやり方を踏襲しても、対応できないものも出てきてしまい、技術者が育たなくなってしまう。
そこで、この流れを何とか打破しようと危機感を抱いた宇田川さんは、ビジネススクールに通い、ロジカルシンキング(論理的思考力)、マネジメント、マーケティングなどを勉強した。そして、アフター5に社内の有志を募り、年に数回スクールで学んだことを伝えながら、人材育成をしていったのである。

「当時、私は労働組合の代表をしていたこともあり、この立場の人が率先して動くと、会社側も黙っていられないようでした。会社が急成長していた時期ということもあって、人材育成に力を入れるようになったのです」と宇田川さんは振り返る。
とはいえ、年齢が上がるにつれ、スピーカー設計の仕事を続けていくことが、体力的にもキツいと感じていた宇田川さんは、「世の中にはまだまだ人材育成をまともにしていない会社が存在する。この会社で経験できた人材育成の仕事を活かしたい」と考えるようになり、転職を決断した。
「転職に対する不安よりも、今の仕事を60歳まで続けて体を壊す不安のほうが大きかったですね」
転職を知った同僚や部下たちは、「45歳で未経験の分野にいきなり転職するなんて……」と大変驚いたという。しかし宇田川さんにとっては何も驚くことではなかったようだ。なぜなら環境を変えてもう一度スタートすることよりも、この会社に居続けることを考えた時に、自身の健康上のリスクが高いことを感じ取っていたからである。
安易な転職は
失敗する人が多い

ミドル世代対象の転職エージェント、ルーセントドアーズ株式会社(東京都港区)を経営する黒田さんは、昨今の有効求人倍率(*)の上昇や、転職の賞味期限年齢が高まっているといった情報に警鐘を鳴らす。
「求人数が増え、いくら売り手市場になったとはいえ、採用する企業は応募者の質を重視しています。転職で失敗する人に見られるのが、無計画に会社を辞めて転職活動を始めてしまうことです」
その後、採用が決まらなかったために、低賃金のアルバイト生活をすることになってしまった40代以上の方も少なくない。数多くの転職失敗者の事例を見聞きしてきた黒田さんは、こうアドバイスする。
「生活のために前職の年収を下げたくない気持ちはわかりますが、転職市場における自身の価値を理解していないと、活動は想像以上にとても厳しいものになります。過去の栄光やプライドを捨てられるかですね」
(*)有効求人倍率については、例えば、年俸1000万円のエグゼクティブでも時給900円のアルバイトでも、同じ1つの求人としてカウントされる。
今の転職で
成功できる人は…
では、転職に成功できるのはどんな人なのだろうか?
「激動の世の中で、先見性のある行動ができ、リスクを取れる人です。もしご自身の今の職場環境が沈みかけた船だと思ったら、勲章(企業ブランドや過去の成功体験)だらけの服を脱ぎ捨てて、大海原(ベンチャー企業などの激動の転職市場)に飛び込める人のほうが成功しやすい」と黒田さんは言う。
近年の転職市場では、学歴や性別、勤め先企業の知名度は以前ほど価値を持たなくなっている。そんな中で、これまで転職活動が上手くいかなかった人にとって、今後、転職に成功するケースも増えていくだろう。