中途「腹割って話せる人」 森下仁丹「第四新卒」の条件 森下仁丹 経営企画室 磯部美季さん
「オッサンも変わる。ニッポンも変わる。」。印象的なキャッチフレーズで、森下仁丹が幹部候補を募集した「第四新卒」には2200人の応募がありました。同社はどのように採用者を選んだのか。上編の「森下仁丹の『第四新卒』 年齢経験不問で倍率220倍」に引き続き、経営企画室の磯部美季広報・マーケティング担当部長に伺いました。併せて、「第四新卒」で入社した人事部の永田愛子さんには応募した側の背景や心境をお聞きしました。
■広告を見て、最後のチャンスに賭けた
白河桃子さん(以下、敬称略) 永田さんは、今回の第四新卒採用で2017年9月に入社したそうですね。なぜ、応募しようと思われたのでしょうか。
永田愛子さん(以下、敬称略) 募集の話は、新聞の広告で知りました。当時は大学のキャリアセンターでキャリアコンサルタントの仕事をしていましたが、契約社員という立場に不安を抱えていたんです。息子と2人で暮らしているという事情があり、今後は経済力をつけるためにも正社員で働きたいと希望していました。
これまでにも正社員として働いた経験はありますが、出産や育児でかなりのブランクがあり、契約社員の職を見つけるのも一苦労でした。私は今49歳。当時は48歳で、人材紹介会社や派遣会社に登録したり、求人を探したり、転職活動はしていましたが、どうしても年齢で引っ掛かっていたんです。
ですから、新聞の募集広告を見たときは、是が非でも受けないと! と思いました。これがダメだったら、キャリアカウンセラーの職で独立する道を探ろうと。まさに、最後のチャンスに賭けた感じでした。

白河 情熱が伝わってきますね。本当に女性が一度、育児などで正社員を辞めると、その後の正社員での就職は難しいです。今回、第四新卒で採用された方は10名、そのうち女性は永田さんお一人。人事部に配属されたとのことですが、過去、人事での役職経験があったわけではないんですね。
永田 ありません。キャリアカウンセラーの資格は前職の時に取りましたし、管理職としてスタッフたちの教育や管理をしていたことはありましたが、人事部の経験に基づいてやっていたわけではありませんでした。その点も、面接で正直に話しまして、最終的にやる気を買っていただけたのかな、と。
白河 それは素晴らしい成功事例ですよね。今、40代後半の女性でも、役職経験さえあれば幹部候補としての転職はできます。もともと、女性の役職者がほとんどいないので、多くの企業で需要がありますから。しかし、人事の役職経験なしで転職できるチャンスをつかんだことは、本当に珍しいケースだと思います。

磯部美季さん(以下、敬称略) 過去、こんな失敗事例がありました。かつて他社の幹部経験者を中途採用した時、当社は人材不足が深刻だった上に、システムも整備されておらず、本当に何もない状態だったんですね。すると、中途入社した方々は「どうすることもできないですよね」と言うだけで、一緒に改革をやろうという意識を持ってくれなかった。
つまり、仮に他社で大きな成功事例を経験してきたとしても、当社は他社ほどシステムが整っているわけでもリソースがあるわけでもないですから、過去の成功経験が必ずしもプラスになるとは限らないのです。
それよりも、問題山積の状況に直面しても驚かず、チャレンジしながら取り組んでくれる人のほうが、なじんで活躍してくれるだろうと考えていました。今回入社した10人は、もともといた業界もキャリアもバラバラです。決して華々しいキャリアを持つ人が採用されたというわけではありません。
駒村(純一社長)も、会社説明会や面接では何度も「当社は本当に何もない」「大変な仕事です」と繰り返していました。
■下の世代をしっかりと育成してほしい
白河 例えば、倒産した大企業から流出した社員を採用しようと面接すると、「私はこういう役職に就いていました」ということしか言えず、何をやってきたかを語れる人はほとんどいないという話をよく聞くんです。たくさんの方を面接されて、そういう大企業病のような傾向は感じられましたか。
磯部 それはあります。今回の第四新卒採用でも、そういった方々には違和感がありました。
白河 今回入社された10人は、どのような人たちだったのでしょうか。
永田 私の印象では、たとえ「会社がすごく大変だ」と言われても、そう言われるほどやる気が出てくるような人たちばかりだったかなと思います。
白河 第四新卒について、他の会社からの反応はいかがでしたか。
磯部 「社内の中高年をもっと活用したい」とか、「マネジメントをしっかりできる人が欲しい」という課題はどの会社にもあるようです。当社に「どうすれば成功できるのですか?」ということを聞いてこられるケースが多々ありました。
白河 働き方改革で一番大きな問題になっているのは、実は、日本はマネジメントをしてこなかったということなんです。日本企業でマネジメント経験があるといっても、実際はマネジメントできているわけではないと思います。その点は、いかがですか。
磯部 本当におっしゃる通りです。当社も、マネジメントという意味では、これから本腰を入れていかなければならないと思っています。結局、働き方改革だとか、生産性の向上だとかと言われても、じゃあ、生産性をどのように評価すればいいのか。そこはよく分かっていないことが多いですね。
白河 評価自体も非常に曖昧なケースが多いですよね。
磯部 本当にそう思います。
白河 マネジメントというと、具体的にどのようなことを期待されていますか。
磯部 一言で言えば、下の世代をしっかりと育成していくことです。
白河 マネジャーはマネジメントに徹し、プレイングマネジャーでなくてもいいと。
磯部 プレーヤーとマネジャー、どちらもできれば最高ですが、それよりも、どのように技術や業務、企業文化などを部下にしっかり伝えていきながら、会社を永続できるような仕組みをつくっていくか、ということが大事だと思っています。その部分を強化するためにも、中高年世代にフォーカスしました。
白河 しかし、それに必要なのは、必ずしも年齢だけではありませんよね。採用の際、どんなところを決め手として見ていましたか。
磯部 今までの経験、人間的なところ。それから永田さんもそうですが、コミュニケーション能力です。面接は入念に行いました。最大で8回した方がいます。
どれだけ腹を割って周囲と話ができるか。メンバーたちと協業していけるのか。そこを非常に重要なポイントとして見ました。たとえ役職があっても、業績を伸ばしてきた経験があっても、どうやったら部下を育てていけるのか、社内をまとめていけるのかということを考えながらコミュニケーションを取っていける人はなかなかいません。
その点で、人と腹を割って話ができるかどうか。人の話を何でも聞いてあげられるかどうか。そういうことができる人は、育成にすごく向いていると思いました。
■決め手は腹を割って話せるか
白河 総合的な人間力でしょうか? それはおっしゃる通りだと思います。
磯部 ですから、今回入ってきた10人は、人間味があって、話しにくいことも話してくれたという点が共通しているかと思います。
白河 第四新卒採用というユニークな試みがどのような成果を出していくのか、10人の皆さんのこれからの活躍が楽しみです。

あとがき:働き方改革に関連し経営者と対話する機会が増え、隠れていた重要なテーマに気が付きました。それは時短でもテレワークでもなく、「中高年の活躍推進」です。大和証券グループが実施した調査によれば「年齢が45歳を超えるとサラリーマンはほとんど勉強しなくなる」そうです。しかし人生は100年、65歳への定年延長が当たり前の時代。あと20年ほど勉強しない、生産性が低い……そんな人材のままでは困る。そこで「働き方改革という大義名分のもと、どうしたらおじさんを活性化できるか」が課題となっているそうです。
大和証券は45歳以上を対象とした自己研さんへの補助金があり、自己研さんするほどポイントがたまり、再雇用時の給与に反映されます。こんな仕組みがあれば中高年も活性化します。
会社人口のボリュームゾーンを考えると、若手や女性だけでなく中高年も重要な資源です。今回は老舗企業が人材を求めた結果、眠っていた人材が揺り起こされました。人材とは若手だけのことではないのだと、森下仁丹の例が教えてくれています。意外なところにブルーオーシャン(競合相手がいない領域)があったということです。