新卒就活で企業の「オワハラ」がなくならない理由 なお続く駆け引きと学生の受け止め方に原因
「学生が学業に専念できる時間を確保するために」を謳い文句に、安倍政権の要請で「8月1日 面接選考解禁」へと採用スケジュールが大きく変更されたのが、昨年の2016年入社採用。それまでの「4月1日 面接選考解禁」では、解禁と同時に大手企業の選考・内定出しが行われ、続いて準大手企業、中堅企業、中小企業の順に選考が行われるケースが多かったが、スケジュール変更によってその流れが変わった。
大手企業の選考、内定出しが8月以降となり、その結果が出るまで待てない中堅企業、中小企業など多くの企業が、大手企業の選考が始まる前に面接をし、内定出しを行うようになった。早期に内定出しを行った企業からすれば、何カ月も後に大手企業に内定者を奪われてしまうのはたまったものではない。
オワハラは今に始まったことではない
オワハラは、2016年新卒採用のトレンドワードと呼ばれることが多いが、昨年の採用活動から突然生まれたものではない。行為自体はずっと以前から存在していたが、「オワハラ」という行為を象徴する言葉が存在していなかっただけである。「オワハラ」というネーミングの妙や、就職関係者や大学教授らがメンバーに名を連ねるNPO法人DSSがユーチューブにアップした解説動画が話題になり一気に一般化した。
内定辞退やオワハラにあたる例として、いくつかの「都市伝説」が昔から語られている。
「人事担当者に面会し内意辞退を申し出たところ、頭からコーヒー(「カツ丼」というパターンもある)をぶっかけられ、クリーニング代を渡された」という話はよく耳にしたことがあるだろう。「この場で他の内定先企業に電話して、内定を辞退しろ」と言われた学生が、内定先企業に電話をするふりをして、別の宛先に電話をしていたとか、さらには事前に内定先の他社に「内定辞退の連絡を入れさせられるかもしれませんが、本心ではありません。辞退するつもりはありません」と伝えておいた……。
現代のように本人がネットによる情報発信を行うのではなく、すべてが人づての噂話として流通しており、発信源が誰なのか誰も把握せずに広まっていった。しかし、バブル期の内定者拘束の逸話は都市伝説ではなく、実際にあった話ばかりだ。当時、就職情報会社で勤務していた私が、モニター学生と採用担当者の両方から直接話を聞いた例を紹介しよう。
実際にあった内定者拘束の数々
他社への就職活動をさせないために、社員寮に軟禁(1日中マンガの本を読ませていた)したり、ボウリング場を借り切って1日中ずっとボウリングをさせていたりする内定拘束の例があった。さらには内定者旅行と称してクルーズ船に乗って出かけるケースもあった。クルーズ船というのがミソで、海の上にいってしまっては抜け出すことはできない。
テレホンカードの没収というのもあった。当時、携帯電話やメールなどはまだなく、企業への連絡はもっぱら公衆電話からだったため、就活生にとってテレホンカードは必需品だった。そこで企業の拘束時に最初に行われたことは、内定者からテレホンカードを預かる(帰りには返却される)ことだった。小銭でも公衆電話は掛けられるのだが、都外に連れ出されているので10円や20円ではほとんど通話にならない。あらゆる手で学生に電話連絡をさせないようにしていたのだ。
バブル期は超売り手市場で、こうした笑い話のような内定拘束が横行していた。しかし、今でも企業側はいろんな手を講じて学生の「確保」に躍起になっている。
今年、経団連の指針が改定され、大手企業の選考開始が8月から6月へと2カ月早まった。中小企業などの間には選考時期を大手企業の選考後に戻した企業も少なくないし、先行して内定を出した企業にしても、大手企業の内定出しとの間隔は短くなった。そうした日程の変更でオワハラは一気に減少するのではないかと言われていた。さらに昨年、オワハラを受けた学生が心証を悪くし、その会社の内定辞退を決断するなど、逆効果になっているとの報道もオワハラ沈静化予想の根拠になっていた。
しかし結果は当初の予測通りにはならなかった。HR総研は6月末に就活生を対象に実施した就職活動動向調査の中で、「オワハラと感じた出来事があったか」「あったとしたらどんな内容か」を聞いている。「オワハラと感じた出来事があったか」は、昨年の調査でも聞いており、その数字を比較すると、2016年卒文系:28%→2017年卒文系:23%、2016年卒理系:19%→2017年卒理系:17%という結果となった。減少はしているが、減少幅は微減にとどまる。オワハラと感じる行為は今年も一定程度あった。
理由は簡単だ。オワハラ、あるいはオワハラと感じるような行為は、中堅・中小企業が6月からの大手企業の選考を受けさせないために実施しているだけではなく、大手企業同士、あるいは中堅・中小企業同士の間でも横行しているためである。昨年のような選考時期のタイムラグの問題ではなかったのだ。オワハラには、今後の他社の選考を受けさせないというものだけでなく、先に出ている他社の内定を辞退させるというものも存在する。
学生が証言する「オワハラ」の数々
実際に学生が「オワハラと感じた出来事」にはどんなものがあるか、就活動向調査の学生のアンケートから見てみよう。
・今すぐここで辞退電話をしてほしいといわれた。
・内定承諾書を提出する際、大学または教授からの推薦書を持ってくるように言われた。
・ゴールデンウィークまでしか待てないと言われた。
・今日中にすべての企業を断れますかと聞かれた。
・選考中に「次のステップに行くならば、うちに入る覚悟を持ってこい。その覚悟がないならやめてほしい。親御さんにもうちに入ることを伝えてから来てね」とやんわり圧をかけられた。
・いつなら返事もらえる?と頻繁に連絡があった。
・他の会社で選考中の場合は、内定を出せないと言われた。
・その場で承諾しない限り、内々定は取り消す、と言われた。
・わざと内定者懇親会を公務員試験の日にかぶせ、公務員試験を受けさせないようにした。
オワハラ以外のなにものでもないものもあるが、オワハラとまでは言えないだろうというものもあるようだ。また、中にはこんな例もある。
・断ったら怖い顔するからねと言われた。
幼稚園児に言い聞かせているような発言だが、実際にあった回答だ。さらに、
・他の会社を考えていることを話したら、その会社の良くないことを長々と話された。
という回答もあった。営業の現場では、競合企業やサービスのマイナス点ばかりあげつらう行為は禁じ手だといわれている。これはどんな場合にもあてはまる。少なくとも自分が関心をもって接触してきたものを完全否定されたとしたら、相手は決して気分がいいものではない。そこにはマイナス効果しか生まれない。
オワハラはその名のとおり「ハラスメント」の一種であり、あくまでも受け手である学生がハラスメントと感じるかどうかが問題になる。第一志望の企業からの依頼であれば、オワハラだと感じたとしてもそれは決してネガティブなものとして受け取られないだろう。現にこんなコメントもある。
・その他残っている企業への辞退を求められた。ハラスメントというほどではなく、お願いというニュアンスだったが、第一志望だったため応じた。
オワハラはもちろん褒められた行為ではない。ただし、学生の方々には、オワハラをネガティブにとらえるのではなく、ポジティブに考えるようにしてほしい。
期待しているからオワハラをする?
自社の採用計画を達成すべく、オワハラに走らざるを得ない採用担当者の立場も少しは考えてあげられる余裕が持てたら、就活生はきっと強くなれるはずだ。