採用担当者が「他社への就職」を支援? 第7回:「なんとなく」入社はもういらない

新卒採用担当者が「他社への就職」を支援? 第7回:「なんとなく」入社はもういらない

荒れ模様の採用戦線のなかで、独自のリクルーティングで健闘しているベンチャー企業、ネクスト。自社の選考過程にある学生の就活を、人事担当者が全力で支援する。最終的に他社を選んでもOK、自分の本当にやりたいことを見つけてくれたのなら、祝福して送り出したい――。そんな鷹揚(おうよう)過ぎるほどのスタンスが、逆に内定辞退を減らしているという。とことん手間をかける採用活動の中身と、その背後にある井上高志社長の考えとは。

2015年夏、新卒採用戦線は荒れ模様でした。

その理由は皆さん、ご存知の通り。経団連が選考解禁を8月からとし、前年より4カ月後ろ倒しになったからです。しかも、売り手市場。他社に先駆けて優秀な学生を押さえたいと焦った企業は、早めに内定を出し始めました。こうして多数の内定を獲得する学生が現れ、内定辞退者が続出。多くの経営者や人事担当者が頭を抱えました。内定辞退率が約7割に上った企業もあると聞きます。

では、私たちネクストはどうだったでしょうか。

内定辞退者は例年と変わらず、数人留まり。目標通り25人を採用できそうです。なかなかの健闘ではないでしょうか。

波乱の採用戦線を、私たちが乗り切れたのはなぜか。

かなり手の込んだ採用の仕組みがあったからです。

 

2015年の入社式。前列左から4人目が井上社長

この連載で以前に紹介した通り、私は会社設立から8年後の05年、「人財重視の経営」をすると決めて、会社の軸に据えました。

「人財重視の経営」では、そもそも誰を仲間として迎え入れるかがキモです。「誰をバスに乗せるか」が最も重要な問題になります。

だから、採用の基本方針は、ずばりこれです。

「妥協のない、最高の採用」

採用に近道なし。手間をかけるしかない

採用戦線では、「なんとなく」入社する会社を決めてしまう学生を多く見かけます。
「たまたま内定を得られたから」「上場企業ならば安心」「他の会社は全部落ちてしまった」……といった具合です。それでは、入社後のモチベーションを上げるのは難しい。

もちろん、そんな事情は、どこの会社の採用担当者も百も承知です。だから、選考の過程で「なぜ我が社を志望するのか」「入社して何をしたいか」を、質問します。
明確な理由を持って自社を選んでくれる学生が欲しい気持ちは、どこの会社も同じでしょう。しかし、実際には「この学生の志望動機は、ちょっと弱いな」と思いながらも、表面だけうまく繕って選考をくぐり抜けてくる学生を採用してしまうことが多くあります。

やはり、どこかで「妥協」しているのです。

私たちはもともと、採用に力を入れていました。それでも、かつては方針に曖昧な部分があったと思います。
けれど、「日本一働きたい会社をつくる」と心に決めて、役員や人事の責任者ともども、あらためて覚悟を固めました。

これからは、本当に「同志」と呼べる人財だけを採用する。
この1点において、絶対に妥協しない。
だから、明確な採用方針を打ち出し、貫き通す。

では、どうすれば、そんな「妥協のない、最高の採用」ができるか。

画期的な方法などありません。手間ひまかけて、お互いを深く理解してから内定を出し、内定を受けてもらう。私たちが実践しているのは、そんな、ある意味、泥臭い方法です。

ネクストの新卒採用は、以下の手順で進みます。

1)説明会の開催
2)グループディスカッション形式による選考(2~4回)
3)アドバイザー面談(並行してリクルーター面談を実施)
4)役員による最終選考(内定を出す)

一見、ありきたりに見えるかもしれませんが、他社ではあまり見かけない、特徴的な仕組みが1つあります。

それが、私たちの採用活動のキモ。3番目のアドバイザー面談です。

「面談」という名の通り、このステップでは「選考」はしません。
この段階では、グループディスカッションまで「選考官」の立場にあった人事担当者が、自分が選考を通過させた学生の「アドバイザー」に、その役割を変えます。学生の一人ひとりに、人事部の担当者がアドバイザーとしてつき、就活のゴールを切るまで、責任を持ってしっかり寄り添い、支援します。

アドバイザーが行う「就活の支援」とは何か。

対話の繰り返しです。

まずアドバイザーは、学生に「なぜこの会社を志望するのか」「この会社で何がしたいのか」「本当のところ、きみは何がしたいのか」という、基本的な問いを投げかけます。
それに対する学生の答えに、アドバイザーは真摯に耳を傾け、さらに突っ込んだ質問を返す。
これを何度も何度も繰り返す過程で、学生のなかで「やりたいこと」が明確になっていきます。
そこで次に、その「やりたいこと」が、ネクストで実現可能なテーマなのかを掘り下げます。この段階では、人事部門のアドバイザーだけでなく、必要に応じて、事業部門の社員との「リクルーター面談」を設定。入社後の仕事を具体的にイメージしやすいようにサポートします。

学生に、社会に出て働きたい動機、志を明確にしてもらうために、これだけのステップを踏むのです。

役員面談まで半年付き合う

採用戦線まっただ中には、アドバイザーの社員たちは、毎晩のように学生たちと会って話したり、携帯電話で話し込んだりしています。

「僕、ネクストでやりたいことが分かりました!」

学生からこんな連絡が入り、詳しく話を聞いてみると、ネクストに入社すること自体が自己目的化しているようなケースもよくあります。

こんな場合、学生に宿題を出します。

「それでは本当に『やりたいことが分かった』とは言えないよ。だって『ネクストありき』の話になっているじゃない。だから、次に会うときまでにこういうことを整理してみてくれないかな」

こんな対話を繰り返すのがアドバイザー面談です。

対話を繰り返した末に、「この学生のやりたいことは、ネクストで実現可能。ネクストの理念、ベクトルと、学生のベクトルが一致している」とアドバイザーが判断すれば、最終選考の役員面談に進みます。

半年近くも面談を続けた末にようやく目標が定まり、役員面接に至る学生もいます。
なかにはアドバイザー面談を繰り返し、自分がやりたいことを掘り下げて考えるうちに、ネクストとは違う会社を志望するに至る学生もいます。それはそれで構いません。祝福して送り出します。

「それでは、選考や面談にかけた手間や時間がムダではないか」

そう思う人もいるかもしれません。

けれど、ミスマッチを絶対に許さない「妥協のない、最高の採用」とは、本質的に手間がかかるものだと思います。その手間は、コストではなく投資です。すぐにリターンが得られないからと、手間を惜しんではなりません。

この話をすると、「学生のうちに『本当にやりたいこと』が分かるはずがない」と、指摘を受けることがあります。確かにそうです。
社会人になって経験を積むうち、就職活動のときに考えた「やりたいこと」が変わっていくことはあるでしょうし、それは構いません。

ただ、私たちは、社員のモチベーションの源泉として「内発的動機付け」を、最重要視しています。何かが与えられるから頑張るという「外発的動機」でなく、自分にとって興味があって面白いから頑張る。そういうモチベーションで働いてほしいと思っています。その方が、より大きな力を発揮できると確信しているからです。
だから、例え「やりたいこと」の中身が変わっていくとしても、学生のときから、きちんと掘り下げて考えてほしい。内発的動機付けをもって、就職活動に臨んでほしい。それゆえ、アドバイザー面談にこれだけの手間をかけ、重視しているのです。

実際、これだけのステップを踏んで内定を出せば、ほかの会社に目移りする学生はあまりいません。混乱を極めた昨年の採用戦線でも例年通り、内定辞退者が少なかったという事実は、私たちの方針が間違っていないことを示してくれた気がします。

「夢」と「現実」の関係は?

採用では、内定を出した後のフォローも欠かせません。

まず、8月には1泊2日の「内定者合宿」を実施。ネクストの社是や経営理念を再確認します。就職活動中から何度も伝えていますが、ここであらためて復習し、会社の目指す世界観を共有します。そして10月には「内定式」。

内定式の後には宿題を出します。

学生たちに1カ月かけて、ネクストの中核事業である不動産情報サイト「HOME’S」を紹介する動画を作成してもらいます。
数人ずつのチームに分かれ、先輩社員のフォローの下、関連部署の社員や役員、ときにはクライアントにも取材して撮影。BGMやテロップをつけながら、この事業を通じて私たちが社会に発信したいメッセージが伝わるように編集します。
11月には、動画の「発表会」を開催。社長の私や役員が評価し、優れた作品をつくったチームを表彰します。素人の手作りとはいえ、目頭が熱くなるような思いのこもった映像もあり、毎年、大いに盛り上がります。

なぜ、こんな宿題を出すのか。

具体的な事業に対する理解を深めるため。引いては、内定者の「夢」と「現実の仕事」を連結させるためです。

ネクストの内定を得た学生たちが考えている「この会社でやりたいこと」は、概ね壮大です。「過疎地の活性化に貢献したい」「教育分野で新規事業をつくりたい」「医療業界に変革を起こしたい」といった具合です。いずれの夢も、会社のビジョンとマッチするから内定を出したわけで、経営トップとしては大いに歓迎します。

一方で、新卒社員の多くが最初に配属されるのは、HOME’S事業本部をはじめとした既存の事業部門です。そこで任された仕事と、壮大な夢との間に、何のつながりもないように感じ、戸惑うこともあるでしょう。

けれど、入社する前に思い描いた「自分の夢」や「やりたいこと」と、目の前にある現場での仕事は、決して無関係ではありません。新入社員の「夢」や「やりたいこと」は、私たちが掲げる経営理念と合致しています。そのことは、長い採用のプロセスで確認済みです。そして、そのような経営理念の実現のために、それぞれの事業があり、その事業を推進する各部門があり、その中で仕事をする個人がいる。すべてはしっかりつながっています。動画制作を通じて、今ある事業の成り立ちや意義、そこに関わる人の思いを深く知ることで、内定者にそのことを理解してほしいのです。

ここまで説明してきた、私たちの採用活動の背後にある考え方を整理すれば、こういうことです。

内定を出すまでのプロセスで、何より重視するのは「ビジョンフィット」と「カルチャーフィット」です。つまり、会社の理念に共感し、組織文化に馴染めるかどうかです。
この2つに加えて「ポテンシャル」と「スキルフィット」を考慮します。こちらは、これから伸びる潜在能力があるかどうかと、会社が求めるスキルを持っているかどうか。そして、ポテンシャルの後にスキル、という順番も重要です。
ビジョンとカルチャーに合い、ポテンシャルのある人財なら、スキルが多少不足していても、入社後にいくらでもフォローできる。そういう考え方に、私たちは立っています。

そして、内定を出した後は、合宿などで、経営理念をはじめとするビジョンを復習。次に、動画制作をはじめ、具体的な事業への理解を深める教育プログラムに移っていく。抽象度が高いレベルから始めて、徐々に具体性を増し、入社への準備を進めるというわけです。

メンターは「同じ職種の他部署」がいい

内定後のフォローでは、内定者同士や社員とのコミュニケーションの機会を増やすことも意識しています。

ベタではありますが、内定者同士が会って話したり、先輩社員や役員、そして社長の私と直接、接触したりする回数を増やす。そんな個人的な接触を通じて、会社への関わりを深めてもらう。これまでの経験から、こうしたフォローが、学生の内定辞退や新入社員の離職を減らし、モチベーションを高めるカギのひとつだと分かっているからです。

入社後も、先輩社員との個人的なコミュニケーションの機会を多くつくるようにしています。

例えば、「START」と名付けた、メンター制度。新卒採用でも中途採用でも、新入社員には、同じ職種で別の部署にいる先輩社員が、マンツーマンでメンターに付きます。同じ職種同士でないと通じない話がある一方、同じ部署の先輩では話しにくいこともあるでしょう。そこで、利害関係のない「他部署」で「同じ職種」という基準にしています。メンターには会食などに使うための予算を毎月数千円ほど支給し、定期的に新入社員と話してもらいます。

ちなみにネクストでは、入社式を、年に5~6回はやっています。

なぜなら、中途採用の社員はもちろん、派遣社員向けにも入社式を開くからです。同時期に入社した中途社員と派遣社員を集めて開催します。全員に入社後の抱負を語ってもらい、最後に記念撮影。合わせて、価値観の共有を目的とする「ビジョンシェアリング」の研修もするので、合計3時間ほどかかります。

派遣社員にも入社式

特に派遣社員の皆さんは、入社式の案内を受け取るとびっくりされます。

たとえ雇用元は派遣会社だとしても、ネクストで一緒に働く仲間であることに変わりありません。新卒社員と同様、私たちのビジョンとカルチャーを共有してほしい。そして、社内に仲間をつくってほしい。そんな思いがあります。

 

中途採用や派遣の社員向けにも入社式を開き、井上社長が会社のビジョンを説く

 

この入社式には毎回、だいたい20~30人が参加します。年齢も職歴も雇用形態もバラバラです。

そんな20~30人の集団に、私は必ず、こう声をかけます。

「あなたたちは今日から同期です。たまには同期同士で飲みにでも行ってください」

中途採用や派遣で働く人たちには、通常、社内に「同期」と呼べる仲間がいません。仕事を通じて親しくなる人はいるでしょうが、あくまで仕事での付き合いですから、何らかの利害関係が伴います。同じ会社の中に、損得勘定なく、ちょっとした悩みを相談したり、一緒に遊びに行って楽しんだりする仲間がいないというのは、中途入社や派遣勤務の大きなデメリットだと思います。

だから私は、中途社員や派遣社員を集めた入社式を開き、「今日から同期だよ」と一声をかけるのです。ささいなことですが、実際、それがきっかけで半年や1年に1回、「同期会」を開く社員は多いようです。

年5~6回、約3時間かかる入社式に欠かさず出席するのは、今の私にとって、決して楽なことではありません。けれど、とても大事な仕事だと思って続けています。

採用では、ほかにも多くの施策を打っています。成果が大きかったものとしては、例えば、「仲間を増やしま賞」と「仲間を増やしま奨励金」。友人にネクストへの応募を薦めて入社に至ったとき、社員を表彰するのが「仲間を増やしま賞」。そして、応募を薦める友人に、ネクストの仕事について語る際、会食の費用を負担するのが「仲間を増やしま奨励金」です。社員の紹介ですから、私たちのビジョンやカルチャーに合った人が応募するケースが多く、このルートでの選考通過率は、非常に高くなっています。

採用とは「優秀な人材を選び、獲得すること」ではありません。ビジョンを共有できる仲間を募り、お互いの理解を深め、良好な関係を築いていく一連のプロセスです。だから、「誰をバスに乗せるか」を熟考する。「どういうステップを踏んで乗せるか」にこだわる。その重要性は、いくら強調しても、強調し過ぎることはありません。