新卒後ろ倒しの就活、影響は? 大手3社採用担当者が座談会
今年の就職活動は、昨年より遅く始まりました。企業はどのような採用活動をしたのか。大手企業3社の採用担当者の座談会を開き、振り返ってもらいました。就活を控えた大学3年生へのアドバイスももらいました。出席者は、アサヒビール人事部担当課長の西郷直樹さん、損保ジャパン日本興亜人事部採用グループリーダーの佐野淳さん、富士通人事本部人材採用センター(現在はビジネスマネジメント本部セールス&マーケティング人事部に所属)の梅津未央さんです。
■学生との接点、いかに作り続けるか
――開始時期が後ろ倒しになったことで、採用活動に変化はありましたか。
梅津 今年は採用広報期間が5カ月間で、昨年より1カ月長かった。(広報解禁の)3月以降お会いできた学生をいかに8月の面接につなげるか。学生との接点を作り続けていく工夫が、例年以上に必要でした。お会いした学生の名前を覚えて次に会ったときに名前で声をかけたり、エントリーシート(ES)の締め切りが近づいたら電話をかけて提出を促したり、地道な活動を続けました。1対1で直接相談に乗る学生の数も増やしました。
佐野 学生の動きが昨年より早かった。3月に開いたセミナーは、予約開始直後に定員がいっぱいになりました。開始時期が変わったことで、不安に思った学生が多かったためかもしれません。人材会社主催の合同説明会は、3月上旬は相当な数の学生が参加しましたが、3月後半以降は急激に少なくなったと聞いています。学生は個別企業の説明会にシフトしていました。その後の6、7月は何をしたら良いかわからず逆に大変そうでした。
――今年は売り手市場でもありました。実感はありましたか。
西郷 8月1日時点で内定を持っている学生が多かった。1日の午前7時ごろから電話があり、1次選考辞退の連絡が相次ぎました。それを予測し、ESの合格者数を若干多めにしました。面接の期間も昨年より1週間短くして、2週間にしました。8月の選考開始までに時間があったせいか、業界についてよく勉強をしている学生が比較的多かったです。
梅津 学生から「内々定がすでに1社あるので、それより行きたい会社だけを受けています」と言われたり、「他社の内々定受諾の回答期限が○日なので、その日までに結果がほしい」と言われたりすることがありました。また、売り手市場との関連はわかりませんが、最後に企業を決めるときのポイントとして、ワーク・ライフ・バランスや福利厚生、勤務地などを挙げる学生が増えたように感じました。
――どのような学生を採用していますか。
梅津 求める人材像は、好奇心を持って行動ができる、継続して社会人基礎力を伸ばすことができる、富士通に共感できる、の3点です。面接では自己PRや学生時代頑張ったこと、志望動機などをお聞きします。さまざまなことに挑戦して成功や失敗を経験し、さらに新たなことに挑戦していけるか。それがフィールドが変わっても再現できるかをご本人の実際の行動事実から探りたいと考えています。
佐野 お聞きすることは同じですね。実際に取り組んでこられたことを行動ベースでお聞きし、今後の伸びや同じ行動を再現できそうかということをみています。
西郷 最低限の基準はありますが、私たちと合うか合わないかが一番大事です。それは我々から一方的ではなく、学生からも合うという評価をもらって、会社に入ってもらえることが一番良いことだと考えています。
■話の主語が「私」かどうかをみる
――たとえば、面接ではどのように質問するのでしょうか。
佐野 「アルバイトで売り上げを上げた」、というエピソードの場合、結果論として上がったのか、それとも目標を立てたのか。どのぐらいの期間でやろうと思ったのか、その人ならではの工夫した取り組みはあるのか。そういったことを少しずつ深掘りしてお聞きします。
――どこの企業でも通用する人は、どんな人でしょうか。
西郷 自分が経験してきたことを振り返り、取り組みを始めた理由や思いを語ることができ、成長したいという意欲がある人だと思います。そのサイクルを回せる人は何をやってもうまくいくのではないでしょうか。
梅津 やりたくない仕事でも、任されたことに対して高いアウトプットを出せる人だと思います。言われたからやる、ということではなく、なぜこの仕事が必要なのか、誰のために必要なのかを自分なりに考えた上で取り組むことが、特に新卒で入って仕事をしていく上で大切です。
佐野 自分の頭で考えて、つたなくても良いから自分で判断をしていく、そんな人であふれる会社にしていきたいです。採用面接では、話の主語が「私」かどうかをみています。たとえば、サークルで頑張ったことは「私」が主語だとしても、イベントの出席率が低下したことは「私」ではなく、別の要因を挙げる方が時々います。うまくいかないことを会社や他人のせいにすると、自ら壁を乗り越えていくことを避けてしまうことになり、その人の成長を阻害してしまう可能性がありますので。
――みなさんの就活のご経験を教えてもらえますか。
西郷 そんなにビールが好きならビール会社で働いたらどうか、と友人に言われて受けてみようと思ったのが第一歩です。正直恥ずかしながら、やりたいことがあまりなかった。何をしたいかと考えたときに、好きなものに囲まれたいと思いました。就活はいろんな会社を知り、自分に何が向いているのかを考える機会でもあります。そういったチャンスを逃してしまった後悔があるので、学生のみなさんにはそういったことに取り組んでもらいたいです。
梅津 はじめは好きなことを仕事にしたいと考えて、好きな会社ばかり受けていましたが、うまくいかなかった。あこがれやイメージではダメだと気付き、どんなことがしたいかについてあらためて考え直しました。ICTは、形が決まっていないものなので、顧客のニーズに合わせて解決策を提案できる。決められた商品を売ることよりも、自分で解決策を創っていけることに魅力を感じました。
佐野 損害保険業界は、いろんな業界と接点があり、入社後も多くの職場を経験できることに魅力を感じました。ただ、自分の就活では大学の先輩の話しか聞かずに決めてしまった。自分は当社でのびのびと働かせてもらい本当に良かったのですが、同じような就活をし、早々に辞めた大学の同期もいる。できれば世代の異なる3人ぐらいの社員に会い、ネットの情報だけではなく、自分の目で判断してほしい。それが会社に入ってからの覚悟にもなります。
■自分の意志が大切
――社会人として「働く」とは、どういうことでしょうか。
佐野 自分の付加価値を周りに与え続けること。どんなことでも良い。あの人が来たら職場が明るくなったといったことでも。別の視点で言うと、一見やりたくないことでもポジティブに受け止め、楽しくやれることではないでしょうか。満員電車の通勤は大変かもしれないが、しっかり働くことで休みも充実する。働くということは自分の生活すべてに充実感を与えることだと思います。
西郷 働くと必ず責任が生じます。その大小に関係なく、自分で決断し、行動を起こしたことに対して責任を取るということだと思います。それは結果的に人のためになり、自分の成長にもつながります。よく社内に挑戦しやすい雰囲気はあるかと学生に聞かれますが、その雰囲気があるかどうかが大切なのではなく、挑戦するかしないかという自分の意志が大切だと考えています。
――女性が働くことについてはどうでしょうか。
梅津 最近感じているのは、多くの女子学生は無意識にレールを敷いてしまっているのではないか、ということ。仕事を頑張るなら子どもを産まない、結婚して子どもを産んだら仕事はそんなにできない、といったようなことです。実は私自身が、ある女性社員との出会いで「自分の可能性を狭めているのは自分自身だ」と気づき、そう考えるようになりました。制度があるかどうか、それが利用されているかどうかということよりも、まずは自分が仕事、家庭、子育てをどうしたいのかが大切で、それを一緒に考えてくれる会社を選べば良いと思います。入社前から必要以上に心配をすることはありません。
■学生の立場生かし、チャレンジを
――変化が大きかった今年の就活をみて、不安に思っている3年生もいると思います。いまの時期にできることは何でしょうか。
佐野 三つあります。一つ目は自己分析です。そこでわかった自分の課題に対して、いろいろとチャレンジしてください。内定をゴールにせずに自己分析をすると、自分自身の成長につながります。二つ目は企業の人に会うことです。企業で働く人の価値観をより多く得ると、会社選びに役立ちます。三つ目は、サークルでもアルバイトでも良いので、自分を高める行動をすることです。
梅津 社会に出ると未体験のことや、自分にとって難しいことを任されます。学生の立場をうまく使い、いろんなところに飛び込んでチャレンジしてください。企業の情報をたくさん持っていても、最終的に決断ができないという学生をたくさん見てきました。仕事で実現したいことや私生活とのバランスなど、大事にしたいことを整理をすることも大切です。そうすると企業選びでも迷いません。
西郷 就活を始めるにはまだ早い時期です。こんな仕事につきたい、こんな役に立ちたいということが芽生えてくるようなことに取り組むと良いと思います。周りに流されてただ動く、ということではなく、自分の意志を持って行動してください。仕事においても、自分の意志を持つことがとても大切です。
――今年の就活の結果を受け、開始時期の前倒しが議論されています。どのようにお考えになられますか(※座談会後に追加質問しました)
西郷 学生にとっては、前倒しによって就活の期間が短くなるのであれば学業に専念することができ、メリットがあると思います。
梅津 就活の長期化で学業へ集中できないことが問題になっていたので、選考の開始時期が早まることで、就活を終えて学業に集中できる時期が早まることはポジティブに捉えています。一方で、6月は前期の講義を実施している時期です。その期間に選考のピークがくるスケジュールは、学業に影響がない、とは言い切れないと考えます。
佐野 前倒しとなると7月は期末試験と重なるため、学業への影響があると考えます。6月という選択が最大公約数になるのかもしれません。