「採用後ろ倒し」の茶番を今すぐやめろ!

新卒「採用後ろ倒し」の茶番を今すぐやめろ!

面接解禁日である8月1日から1カ月以上経ち、大学4年生の就職活動もようやく終盤を迎えています。売り手市場と言われる状況のなか、複数の内定を獲得する人も増えている一方で、制度の変更に振り回される“被害者”が学生・企業とも続出しています。果たして、幸せな新卒採用は実現するのか。

内定童貞』の著者であるウェブ編集者の中川淳一郎さんと、『面接で泣いていた落ちこぼれ就活生が半年でテレビの女子アナに内定した理由』の著者である就活アドバイザーの霜田明寛さんに語ってもらいました。

9月に入り、内定を獲得した学生もかなり増えているようです。「採用後ろ倒し」の影響はどう見ていますか?

霜田:僕が指導している学生は、みんな「就活が長くて疲れた」と言っていますね。面接の解禁が4カ月後ろ倒しになっても、早めに動く学生は、結局例年通り3年生の9月ごろから準備を始めるので、下手すると1年ですよね。

中川:ムダに長くした感じだよね。学業のために後ろ倒しにするって言っているけど、日本の大学生が勉強しないっていうのは昔から当たり前じゃないだっつーの。こんなバカなことを決めた経団連のジジイどもも、30年前に自分が勉強したのかどうか思い出して欲しい。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
ライター、編集者、PRプランナー。1973年生まれ。東京都立川市出身。一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々なネットニュースサイトの編集者となる。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『夢、死ね!』『縁の切り方』など。(写真:大槻純一、以下同)

霜田:後ろ倒しした結果、より学業に割く時間がなくなってしまった人もいます。夏になるとリクルートスーツも暑いですから、みんなグッタリしていますよ。

中川:5月ごろに中小企業が内定を出しても、その学生が経団連の協定を守った電通とかの大手に受かっちゃったら電通に行っちゃうでしょ。そしたらまたその中小企業は採用のやり直しで、無駄金使うわけです。小さいところは、大手企業が終わってから採用するほうがいいかもしれない。そうすると、卒業まで時間がないわけだけれども。

霜田明寛(しもだ・あきひろ)
文筆家。就活アドバイザー。1985年生まれ。東京都出身。早稲田大学商学部卒業。アナウンサーになるべく3年間にわたり就職活動をするも挫折。テレビ局の新卒採用の現場に詳しくなり、その経験をもとに『テレビ局就活の極意 パンチラ見せれば通るわよっ!』『マスコミ就活革命~普通の僕らの負けない就活術~』を出版。早稲田大学などで就職支援を担当し、マスコミ就活サークル「就活エッジ」を主宰。アナウンサー志望者の指導には定評があり、4年間で30人以上のテレビ局アナウンサー内定者を輩出している。

霜田:経団連の規則を守る企業よりも前に内定を出すと、「オワハラ(就活終われハラスメント)」が起きやすくなります。「今、受けている企業を全部辞退すれば、この場で内定を出す」と言って人事担当者が脅したり。内定を出した後も、怖い顔で「よそに行くなよ、わかってるな!」って詰め寄る“DV彼氏”みたいな感じになっちゃうんです。

中川:でも、学生を焼肉に連れて行ったりもするんでしょう?

霜田:そうですね(笑)。おごった後に「わかってるよね」って言う人もいるから、学生は余計に怖がる。

中川:霜田さんは、どこの大学で就活指導しているんですか?

霜田:主に早稲田大学ですね。それと、自主的に学生を集めて「就活エッジ」という団体を作って指導しています。

中川:みんな8月に入ってすんなり内定が出たんですか?

霜田:事前に内定が匂わされている人は、8月に入ってすぐの面接で内定が出たみたいですね。

2回もホテルに連れ込もうとした商社マン

どんなふうに内定を匂わされるんですか?

霜田:僕が指導した学生の例では、7月に面接があって、「大学の試験と日程がかぶっているんですが」と言ったら、「では、特別に別の日に面接を設けるので、ぜひ来てください」と配慮してもらえたり。あと、テレビ局などの人気企業では、人事部の特別な電話番号とメールアドレスを教えてもらえたら、もう間違いないと言われたり。

そういうサインを見逃さないようにしないといけないのですね。

霜田:まあ、匂わされたのに、最終面接で落ちてしまった人もいるんですよ。その学生は、第一志望のテレビ局で匂わされたので、ほかの企業は断ってしまったので、行くところがなくなっちゃったんです。自分の大学の院試も終わっていたので、留年するしかないと言ってますね……。

中川:惜しかったですね。キー局だったら将来年収1500万もらえたかもしれないのに。

ほかにも後ろ倒しでどんな影響があったのでしょうか?

霜田:「リクルーター制」を復活させた企業が多かったと言われています。若手社員をリクルーターにして、主に母校の学生に会わせて、いい人がいたら人事に推薦する。売り手市場かつ長期戦なので、人手をかけて新卒を確保するわけです。

中川:オレも1997年に新卒で博報堂に入ったときは、OBのリクルーターにお世話になりました。

霜田:僕が指導している女子大生で、商社のリクルーターにホテルに連れ込まれそうになった人がいるんですよ。それも、同じ人に2回も……。

中川:よっぽど好きなんだな。

霜田:リクルーターがらみのトラブルは、今年増えたんじゃないかと思います。学生と企業の非公式の接触が増えただけに。連れ込まれそうになった女子大生は、「自分にもどこか問題があったんじゃないか……」って落ち込んでて気の毒だったんですけど。

霜田明寛氏

中川:でも、ひどいな。立場が上のヤツが下の人にヒドいことするパワハラじゃねぇかよ。ただ、リクルーター制にももちろんいいところがあって、その会社の社風に合った人をとれる、ということです。オレが会社に入って自分がリクルーターをやることになったとき、人事に集められて指示されたのが、「お前たちがピンときたやつをとれ」だった。「英語ができるやつをとれ」とか「コミュニケーション能力が高いやつをとれ」とかじゃなかった。

霜田:それが一番確実ですよね。若手社員が「一緒に働く姿がイメージできる」学生は、やっぱりその会社と相性がいい。

中川:採用面接なんて相性がいいかどうかを確認するためのもの。『内定童貞』という本にも書きましたけど、オレなんてプロレスの話をしただけですよ。「場外乱闘になったときに、鉄柱攻撃でなぜ流血するのか知ってますか? あれは実はですねぇ……」って(笑)。そうやって、自分が得意な土俵で話をしておけば受かると思う。

霜田:中川さんは、一橋大学のプロレス研究会だったんですよね。

中川:学園祭のときは、実際にプロレスをやってました。人材コンサルタントの常見陽平も同じサークルで、リングにあがって闘いましたよ。

 

電通とは相性が悪すぎる

霜田:電通の採用面接ではプロレスの話は受けなかったんですか?

中川:面接に呼ばれてないからさ。電通は書類で落ちたんだよ。相性っていうのは本当にあって、フリーになってから電通と仕事したら、「ここの社員とは合わないな」と思ってばっかりだった。博報堂とは仲良く仕事できるんだけど。

霜田:相性ってありますよね。僕も高校や大学のクラスメイトで「苦手だな」と思っていた人は、なぜかみんな自分と相性が悪そうな企業に入社してます。

中川:オレ、ビール大好きなんだけど、サントリーの人とは仲良くて、アサヒの人は苦手なんだよなぁ。あ、そうか、業界1位の企業の人が嫌いなんだオレは! 三菱商事とかトヨタの人も嫌いだ!

霜田:(笑)。僕が苦手な人は、そういえば学生時代モテてたやつらばかりでした。自分はモテなかったから、そいつらが入った会社が嫌いなのかな……。

中川:そういうのもあるかもね。今でも思い出すのは、三菱商事にOB訪問に行ったら、いきなり「オレ、忙しいんだよね」とか言われて。「お前、片岡ゼミ? オレ、名門の○○ゼミ出身」って偉そうな人でさ。確かにそのゼミは1番人気のところだけど。そして「ふーん、そんなんじゃウチに入るのは無理だよ」とかずっと言ってるのよ。入社2、3年目の若手なんて、そんな大きい会社ではたいした仕事してないのに、なんで偉そうにすんのかね。さらに、三菱商事に行った同期も在学中から「こいつイケすかないやつだな」と思っていたやつらばっかり。絶対にあそこの「社風」とオレは合わない。

そうやって企業との相性がわかるのも就職活動の成果なんですね。

霜田:僕は大学の先生に、「君はリクルートが合っている。もしくはリクルート出身者がつくったベンチャーに入るといいんじゃないかな」って言われたんです。新卒採用のとき、リクルートは最終で落ちてしまったんですけど、27歳で入社した会社はたしかにリクルート出身者が創業した会社でしたね。

中川:霜田さんは、学生のときどういう就活をしたんですか?

霜田:僕はアナウンサー志望で、ほぼテレビ局ばかり受けて、ぜんぶ落ちました。3年間就職活動をしてダメで、フリーライターになったんです。

中川淳一郎氏

中川:そういうふうに「この業界じゃなきゃ嫌だ」っていう頑固な学生っていますよね(笑)。

霜田:その典型例でしたね(笑)。アナウンサーの就活にものすごく詳しくなったんで、本を書いたんですよ。そうしたら、早稲田とかから頼まれて、就活アドバイザーをやることに。教え子はなぜか優秀で、どんどんアナウンサーの内定をとっていって、この4年間で30人以上が合格しています。

中川:ちゃんと教えているんですね。

霜田:最近の学生は、「面接ではこんなことを言ってはいけないだろう」って過剰に空気を読んでしまう。ルールから逸脱することをものすごく恐れている。本当はそんなルールなんてないんですよ。思い込んでいるだけで。

新入社員の指導でも、萎縮しちゃう彼らにどう教えるかというのが課題のようです。

霜田:最新刊でも書きましたが、僕は「面接でネガティブなことを話してもいいんだよ」と教えています。前向きなことしか話しちゃダメと思い込んでいる人はけっこういるんです。でも、そんな自慢話ばかりするのって、やなヤツじゃないですか(笑)。

中川:面接になるとなぜか美辞麗句ばかり並べようとするよなぁ。まあ、企業も自分たちの採用ウェブページは美辞麗句ばかりだけどね。でも、テレビ局の面接なら、変なことを言う学生も多そうだな。

霜田:毎年、ジャージ姿で面接に来たり、いきなりモノマネやったりする人はいますね(笑)。でも、落とされる人は多いです。常識がある人が面白いことをやれば、もっとうまくできる気がするんですけど。

中川:そんな極端な行動に出なくても、ほかの人とかぶらない、ちょっと面白い話をすれば面接って通ると思うけど。

霜田:そうなんですよ。アナウンサー志望の女子大生で、「私は自分に自信がありません」っていう自己PRをして内定をもらった人がいました。彼女は本当に自信がなくて、面接もとにかく苦手で、このままだとどこも受からない感じだったんですけど、大逆転でキー局に入れたんです。

「ダサいぐらい」がちょうどいい

何が勝因だったんですか?

霜田:アナウンサーの面接で「自信がありません」なんていう人、いないですよ。ほかの人とかぶらないから目立つ。それに、彼女は学園祭のミスキャンパス・コンテストで優勝していたんです。ミスキャンなのに自信がないというギャップがよかったわけです。

でも、当の本人は、「面接ではポジティブなことを言わなきゃ」って思ってたから、うまくいかなかった。「いっそ、自信がありませんって面接で言ったら?」ってアドバイスしたら、最初は戸惑っていましたけれども、結果として、インパクトがあってよかったです。

中川:オレが広告代理店に新卒で入って配属されたPR局というところで、「適性試験」っていうのがあって、その課題が、「自分の住んでいる街のキャッチコピーを考えてください」だった。みんなキレイなコピーばかり考えるんだ。「海と都会の出会う街 横浜」とか「今日も機織りの音がバッタンバン 西陣」とか。でもオレは、「うど生産高日本一 立川」って書いたら、「意外なところを突いてきた」「情報性がある」「『うど』という音感がいい」ってことで1位になっちゃって、結局そこに配属された。

霜田:それはインパクトありますね(笑)。

中川:ほかの人とかぶらないような、ダサいことを言っておけば、受けるんだよ。面接で、「立川に住んでいるくせに『お住いは?』って聞かれたときに『国立です』って答えるヤツがいるのを、わしは許せんのですよ。なんたって立川はうど生産高日本一ですよ!」って言っても内定もらえるんじゃないかな(笑)。

霜田:それぐらい構えないような話がいいですよね。人間性が出て。

中川:「立川市民は、正直、何が東京大学だって思ってますよ。あのですね、立川市民にとって最高の学校といえば、立川高校ですよ!」とかね。

(笑)

中川:この場合、立川のことを愛している反骨心のあるヤツ、みたいに認識してもらうことが重要なんです。まあ、あとづけですけどね(笑)。