「弱くても勝てる」異彩放つ三幸製菓 独自の採用方法こうして生まれた

新卒「弱くても勝てる」異彩放つ三幸製菓 独自の採用方法こうして生まれた

わが社だけに合う人材を選び抜くピンポイント採用

今、採用市場が揺れている。景気回復に伴って、大手を中心に企業の採用意欲はますます高まり、2016年卒の大卒求人倍率は1.73倍と売り手市場化が進んでいる。一方、経団連の指針により、採用活動は例年より3カ月遅い3月スタートとなり、就活のピークは8月になる見込み。もはや、従来通り横並びの採用活動をしていては期待する人材が採用できない、と各社の採用担当者は危機感を募らせている。

そうした中、地方にありながらも独自の採用を打ち出すことで、リクナビなどのいわゆる“就活ナビ”を使わず、国内外から優秀な人材を集めることに成功している地方企業がある。

「雪の宿」「チーズアーモンド」などで知られる新潟の米菓メーカー三幸製菓だ。おせんべいに対する愛を語る「おせんべい採用」、新潟出身者以外が新潟好きをアピールする「ニイガタ採用」。勉強一筋の学生向けの「ガリ勉採用」、最終面接まで一度も会わず、スカイプで面接をする「遠距離就活」。三幸製菓が打ち出したのは、これらのユニークな選考方法から自分に合った方法を選び応募してもらう、その名も「カフェテリア採用」だ。

三幸製菓 2016年新卒採用プロセス

現在進行中の16年卒の採用では、独自の採用スタイルがさらに進化している。メールアドレス入力だけの「日本一短いES(エントリーシート)」でエントリーすると、「35の質問」という独自の適性検査へのリンクが送られてくる。これに回答すると、「おとまり採用」「考えな採用」「わんこ採用」など、17種類もの選考方法から、応募者に合った数種の選考方法を会社側からお勧めされる、というものだ。

厳しさを増す新卒採用市場において異彩を放つ三幸製菓の「採用イノベーション」はどのようにして生まれたのか。そこには、採用難時代を生き残るヒントが隠されていた。

優秀人材確保に向け、会社知名度を25%→60%へ

三幸製菓で、採用をはじめ従業員1100人の人事業務全般を手がけているのが、システムマネジメント部次長の杉浦二郎氏だ。杉浦氏が人事担当となった06年は、総務部内で人事関連業務をこなすのはほぼ1人きり。採用に関しても「地元でいい人がいたら採用する」といったスタンスで、予算も微々たるもの。「パンフレットすら作れませんでした」。

一方その頃、三幸製菓は佐藤裕紀現社長が佐藤富一郎現会長から攻めの経営を引き継ぎ、売上高300億円を突破するなど急成長を遂げていた。

今後、さらなる成長を続けるためには、地元からだけでなく、全国から多様な人材を受け入れるべきと考えていた杉浦氏は、経営陣に採用の重要性を粘り強く説き、自ら優秀な人材獲得に動くことで、信頼を獲得。09年から本格的な採用活動を始めた。

最初に杉浦氏が直面した課題は知名度の低さ。学生向けのアンケート調査では認知度25%と食品メーカーにしては低かった。そこで、まずは認知度を高めようと、イメージカラーを赤に統一。会社説明会では、三幸製菓の成長力とアグレッシブさを前面に出すプレゼンを心がけ、パンフレットを“巻物”にして配布し印象付ける工夫なども行った。10年には多額の予算をつけ、ちょうど始まったテレビCMも後押しし、3年間で認知度を60%まで上昇させたという。

知名度が高まり、多くの母集団を集められるようになったものの、杉浦氏は「大量に集めて大量に落とす」採用のやり方に疑問を感じるようになった。

「大手ナビサイトに登録してもなかなか弊社を見つけてもらえませんし、採用規模は10~15人程度なのに、何万人も母集団を集めて落とすなんて、とても効率が悪い。極論ですが応募数=採用数となれば一番効率がいい」

ちょうどその頃、SNSが普及し始めるなど採用環境が変化してきていたこともあり、杉浦氏は、13年度採用から、思い切って就活ナビの利用をやめ、「ソーシャル採用」を打ち出した。

社内から大反対に遭ったが、Facebookを通じて毎日情報提供し、「働くこと」をテーマにしたパネルディスカッションのイベントを行うなど、新しい試みは功を奏し、全国の優秀な大学卒の学生を採用することができた。しかし、「一つのチャネルからの採用では、やはりどうしても同質的な人が集まってしまいがち」だという課題が残った。

多様な人材を採る17種類のカフェテリア採用

会社に新たな風をもたらす多様な人材を効率よく採用するには、どうすればいいか? 杉浦氏は、一つの採用フローで多様な人材を採用することは難しいと考え、求める人材像によって選考方法を分けることを考えた。

まずは、求める人材像を明確にすることから始めた。杉浦氏は、社内で活躍している社員へインタビュー調査を行った。すると彼らには、入社後に学生時代の理想と勤務後の現実との差異にショックを受ける「リアリティショック」を経験しつつも、それを前向きに乗り越える「固執しないしなやかさ」があるという共通点が見つかった。

こうして生み出されたのが冒頭のカフェテリア採用だった。15年度採用は、五種類。杉浦氏にはこんな意図があった。「例えば『ニイガタ採用』では、新潟が大好きという“貴重な人材”だけを集めることができます。『出前全員面接会』では、採用担当と連絡を取り、5人集めて会場を準備する必要があり、主体性や人を巻き込む力、調整能力のある人からの応募が期待できます」。

逆に、多くの企業が重視するコミュニケーション能力や志望動機といったものは不必要だと感じた。「コミュニケーション能力は入社後でも身につけられる能力だと考えていますし、志望動機も、会社のことをよく知らない段階で聞いても参考にならないのです」。

さらに、社内の優秀な社員の分析や求める人材像の具体的な割り出しの調査を、採用学を専門とする横浜国立大学の服部泰宏准教授やコンサルティング会社などと共同で開始。その結果を、16年度採用に反映した。

調査によって見つかった求める人材像を6つの行動特性((1)外交性、(2)開発性、(3)認知欲求、(4)水平的集団主義、(5)あいまいさの享受と統制、(6)達成性)に分け、応募時にWeb上で「35の質問」に答えさせることで、あらかじめ応募者にこれらの特性があるかを見極める仕組みをつくった。「1人で過ごすよりも、大勢で過ごすほうが好きだ」「長い時間集中して考えることは苦手だ」「やることの明確に決まった課題のほうがやりやすい」などといった質問は10分もあれば答えられる。しかし、その段階で2割近くが不合格となる。「どんなにバランスのとれた優秀な人でも、弊社が欲しい人材ではないかもしれない。求める特性に合致する人だけをスクリーニングしていきます」。

その後は、前述の通り回答結果を基に、その人に合いそうな採用方法が17種類の中から3~7種類ほど画面に映し出され、自分で選んで応募する。

地方企業のため、スカイプ面接も多用するが、選んだ採用方法によっては最終面接まで本人に対面しないこともある。「人事は極力、応募者と会わないほうがいいとすら思っています。入社後、一緒に働くのは採用担当ではないですし、やる気や情熱といった曖昧な熱量に気をとられ、その人の特性が見えなくなることもあるからです」と話す。

ただし、役員による最終面接は別だ。「最終面接だけは経営者の好き嫌いで決めてもらっていい、と考えています」。最終面接こそ、会社との相性、フィーリングを見る場として最適であり、その判断を下せるのは会社を動かす経営者だけだと考えているからだ。

海外トップの学生が大手企業を蹴って地方企業にキタ!

進行中の16年度のカフェテリア採用には、合わせて約1000人強が応募しているが、「不思議と上位校の応募者が集まっている」という。ナビ採用を行っていた頃は、1万人を超すエントリーがあったが、杉浦氏は「10~15人の採用であれば、1000人程度はまだ多いくらい」と話す。

実際に15年度のカフェテリア採用を突破し、入社したばかりの新入社員に話を聞いた。驚いたのは東北大や九州大、関西学院大など、全国の有名大学から集まっているだけでなく、台湾、韓国など海外からも優秀な人材が入社していることだ。台湾でもトップクラスの大学を卒業したAさんは、「三幸製菓に可能性を感じ」日本の大手電機メーカーの内定を蹴ってきた。「両親は反対しましたが、僕がこれから活躍できる企業だと思い、振り切って来た」と意気込みを感じさせる。

国内からも、理系、文系、大卒、院卒とバラエティに富んだ人材が集まっているのも特徴的。お互いに「あまりにバラバラな人が集まっていて、内定式では驚いた。それでいてどこか真面目、という共通点も感じる」と話す。

彼らが選んだ選考方式は、「交通費がかからないから」という理由で「遠距離就活」の人が一番多かったが、「出前全員面接会」で一緒に面接を受けた友人同士や、自分でおせんべいを作り応募した「おせんべい採用」の人も。

全員が、採用方式について「おもしろそうだと思った」「お互いに話をしっかりできた満足感があった」と語り、自社らしい選考方法を打ち出したことが、応募者を引きつけるうえで奏功した様子。

こうした三幸製菓の採用について、服部准教授は、「採用活動では、基準が曖昧なまま、多くの能力を見ようとしがちです。三幸製菓の採用のすごさは、求める人材像と会社の置かれたポジションについて事前に戦略的な分析がきちんとできていること。また、『何を見て何を見ないのか』を決め、採用段階で求めない能力を『見ない勇気』もある。だからこそ、独自の採用スタイルで、多様な人材を集めることに成功しています。今の採用のあり方を見直し、現状を変えるきっかけとなるのではないでしょうか」と語る。

労働力人口が減少し、人材採用がますます厳しくなっていく中、地方発、三幸製菓の「採用イノベーション」は、採用を戦略的に考えることで、「弱くても勝てる」採用が可能だということを証明する好例といえるだろう。