企業の採用、脱ネットも 求める人材オフラインで接触

新卒企業の採用、脱ネットも 求める人材オフラインで接触

就職活動と言えば、学生がインターネットを使って会社説明会や採用試験に応募できる「就活ナビサイト」が中心だ。手軽なだけに、「とりあえず」と大量に応募する学生も多い。処理作業が膨大になる企業には、求める人材に出会えないという悩みも。直接、学生に接触する「脱ナビ」の動きが出ている。

カフェで学生と交流

木目の床と白い壁に囲まれたカフェ。40人ほどがくつろぐ店内の一角で、生命保険会社の採用担当者が就活中の学生にアドバイスしていた。

「いくつも内定をとる人がいるけど、どんな内定なら納得できるのかを分析しておかないと」

別のテーブルでは国際協力機構JICA)の人事担当者が、学生数人に事業内容を説明していく。

東京都新宿区の「知るカフェ早稲田大学前店」。早稲田大から徒歩5分ほどのビルにある。毎日のように就活関連の講座があり、仕事内容や会社について知りたい大学生らと企業の採用担当者が出会える場となっている。

運営するのは京都市の会社「エンリッション」だ。代表取締役の柿本優祐さん(27)は、ナビサイトを通じた就活に疑問を持つ。「なんとなく応募する『オンライン就活』が、企業と学生のミスマッチにつながっている」。膨大な企業と学生の出会いは生まれないが、知るカフェは実際に会って互いを知る「オフライン就活」の場になりつつある。

新宿の「知るカフェ」は昨年12月にオープン。無料のコーヒーや紅茶などの飲み物代やスタッフの人件費は、JICAのほか、リンナイやナリス化粧品など約30社の企業などからのスポンサー料でまかなわれる。

年90万円のスポンサー料を支払うと、会社説明会やエントリーシートの書き方講座などを店内で開いたり、会社パンフレットを置いたりできる。「会社説明会の解禁は大学3年の3月以降」とした経団連の指針に従うかどうかは、各企業の判断に任せている。

スポンサーになったライフネット生命保険は、2016年の採用からナビサイトの利用をやめる。「サイト上で登録してくれた学生に大量のメールを送っても見てもらえない」(採用担当者)などの理由だ。少人数に直接会うやり方を繰り返した方が、良い人材に出会えると考えた。

知るカフェは現在、京都市内の同志社大と京都大の近くの店を含めて計3店舗ある。

来店できるのは会員になった大学生と大学院生。口コミで増え、会員は計約9300人に上る。氏名や大学名などを登録し、来店時に学生証を提示する。勉強や休憩でも店を利用でき、あるコンテストへの出場準備で友人と訪れた早稲田大3年の男子学生(21)は「飲み物も公衆無線LAN(WiFi)もあって便利だから」と言う。1、2年生が会員の半数を占める。

柿本さんは就活以外の来店も歓迎する。「学生が来れば、企業も集まる。その中から少しでも就活や社会を考える学生が出てくれば」。知るカフェは今春以降、名古屋大や神戸大、近畿大など計7大学周辺でもオープンする予定だ。

■出会う場づくりに労力

「落とす作業に労力を使う選考だった」。東京都渋谷区のITソフトウェア会社「HDE」の高橋実人事部長は、ナビサイトに頼っていた採用をそう振り返る。志望動機がはっきりしない学生も多かったという。「どんな仕事をやりたいのか」「何にやりがいを感じるのか」。そういった考えが自社に近い学生の応募に絞ろうと、今春入社する学生から採用方法を変更したという。

まず導入したのは、選考も兼ねるインターンシップだ。IT系企業7社と合同で説明会を開催。社外に司会を頼み、各社の採用担当者から本音を聞き出す形にした。学生に他社との違いを理解した上で、自社を選んでもらおうと考えた。

ナビサイトの利用も続けるが、依存度は小さくなった。「応募手段」ではなく、「広告塔」のような位置づけ。会社紹介の内容も、以前は働きやすさをPRしたが、専門用語も交えながら事業や必要な技術の紹介に変えた。ナビサイトからの応募は以前の約2千人から約300人に減った。従来の採用で「落とす作業」に費やしてきた労力を、「少数精鋭の学生と出会う場づくり」に回しているという。

■サイト利用やめ、応募者急減も

ナビサイトに頼らない難しさもある。

名古屋市の水処理施設維持管理会社「エステム」も2年間、ナビサイトの利用をやめた。やはり、「多くの人を落とす選考となり、学生も企業も疲弊してしまう」(採用担当者)と感じたからだ。

小規模な就活イベントなどで学生と出会うやり方に変えたが、応募者は予想以上に減少。採用実績のない大学の学生への接触も難しく、16年の採用からナビサイトの活用を復活させることにした。

ただ、以前とは違う使い方だ。会社紹介を熟読せずに応募することを防ぐため、「応募時の作業を増やして『ハードル』を上げる」と担当者。会社紹介をすべて読み終えた人のみが応募できる仕組みや、サイト上の「応募」の欄をクリックするのではなく、メールを送ってもらう応募方法も検討する。メールの書き方や内容で人物像が浮かび上がることも期待する。

採用担当者は「ナビサイトの利用を一度やめたことで、『人間同士のつながりがベース』という採用の原点に戻れた」と話す。(佐藤恵子)

■訴えたい層、意識を

就活に詳しい人材コンサルタントの常見陽平さんの話 ナビサイトは約20年前に登場したが、10年ほど前から企業の脱ナビの意識が生まれてきた。理由は①欲しい学生に会えない②選考で落とす作業への負担感③大手企業はナビサイトを使わなくても学生に出会える――などだ。ナビ以外の方法で欲しい人材に出会いつつ、ナビサイトという「網」も広げておく使い方が増えている。当たり障りない内容ではなく、企業の実態が伝わる厳しいメッセージを送るなど、訴えたい層を意識した作戦を立ててナビを使う方が有効だ。

〈就活ナビサイト〉 学生が氏名や大学名などを登録した上で、企業が掲載した求人広告を閲覧でき、説明会や採用試験に応募できるインターネット上のサイトの総称。企業はサイト運営会社に料金を支払い、メールなどで登録した学生にPRする。学生は登録無料で、就活生のほぼ全員が登録しているとみられる。