日本の不毛な就活、採活を撲滅できるか?

新卒日本の不毛な就活、採活を撲滅できるか?

これまで多くの就活批判本が発行されてきたが・・・

現在の新卒採用・就職の仕組みは1970年初めにできたが、1990年代半ばまで採用・就職メディアは情報誌(紙メディア)だった。採用支援会社は、たくさんの資料請求はがきが付いた分厚い企業情報本を発行して全国の学生に郵送し、学生は企業情報を読んでから資料請求のはがきを出した。

そして企業から送られてきた入社案内、会社案内などを読んでから、次の就職活動のステップへ進んだ。一人ひとりの学生は資料に書かれた記事を読み込み、それぞれの就職活動を行った。「こうしなければならない」というルールはなかった。

しかし、1990年代半ばからインターネットが普及し始め、2000年からブロードバンド環境が広まっていくと、新卒採用・就職に大きな変化が起き、個性は失われ一律化していく。

紙メディアは姿を消し、就職ナビが普及した。就職ナビのオープン日が就活の解禁日になった。そして就活のマニュアルが、自己分析、志望動機、エントリーシートの書き方、業界研究、企業研究と体系化された。このマニュアルを身に付けていなければ就活は成功しないかのように、学生をがんじがらめにしていく。内定をもらえず、自分の努力が不足していると自己分析した学生はどんどん疲弊していく。

このような新卒採用・就職の仕組みが出来上がったのは2000年代からだ。そしてこのような仕組みを批判する本はこれまでに多数発行された。ただし、リーマンショック(2008年)より前にはほとんどなかった。リーマンショック以後に景気が低迷し、内定切りが報じられた2009年以降に増え始め、たくさんの就活批判本が発行された。

ただ内容を見ると、「学生がかわいそう」「こういう新卒採用の仕組みがけしからん」「いやいや学生の学力に問題がある」「そもそもゆとり教育を始めたのは文部省(当時の名称)ではないか」と大上段だ。しかし、これらの主張には価値判断が含まれている。

良いか悪いかの価値判断をしてしまうと、そこから先に進めない。問題があることはよくわかるが、「なすべきこと」が見えなかった。就活を論じる本にそんな不満を抱いてきたが、ようやくまともに新卒採用・就職の仕組みを腑分けし、当為を論じる本が出版された。

本書は5章で構成されている。1章では「日本の就職」の実態をえぐり、2章では政府の要請を受け入れた経団連の指針(3月1日採用広報開始、8月1日選考開始)が与える2016年卒採用への影響を予測し、3章では新卒一括採用にまつわる誤解を論じ、4章では実行すべき解決策を示している。

そして5章では著者の長女と長男の就職活動を記して、自己分析などのマニュアルを実行しなくても志望企業に就職できる事例を報告している。全体を読んでの印象だが、文章が平易で納得しやすい。

就活をゆがめる「平等主義」

新卒採用・就職でおかしなことはたくさんある。たとえば自己分析を過度に強調するマニュアルは、「あなたは別の自分になりたくないですか」と問う自己啓発本のような色を帯びている。そして人気企業には10万件を超えるプレエントリーが集まる。10万と言えば、かなり大きめの地方都市の人口である。

そういう現象を引き起こす原因はひとつであると本書は論じている。原因は「平等主義」である。学生は自分の学力、大学レベルを省みず、著名企業に入社する機会があると考えて就職ナビからプレエントリーする。そして企業も、大学による差別をせず、学生一人ひとりからの応募を大事にすると就職ナビに宣言している。この建前を学生は信じて高望みする。つまり新卒採用・就職の現実は虚妄の上に成立しているのだ。

大人がこんな虚妄を許容していいはずはない。著者の処方箋を紹介しよう。まず虚妄を成立させているあやしい数字を排し、正しい情報を公開する必要がある。たとえば大学が公開している「就職率」は軒並み「90%台」だが、母数は就職希望学生だ。心折れて就職をあきらめた学生ははじかれている。

身の丈に合った就活をしよう

大学のキャリアセンターは「就職実績企業」を掲示しているが、10年以上も前の実績であることがある。同じようなことは企業の採用広報にも言える。情報を操作して誤った判断に導き、大学は受験生を増やそうとし、企業は学生へのイメージアップを狙っている。そんな日本の新卒採用を正常化するために、著者は「情報公開」が必要と主張しているのだ。

『みんなで変える日本の新卒採用・就職』 寺澤康介著(HRプロ刊 1100円+税)

また著者は、インターンシップなどの産学連携、身の丈に合った就活を提案している。現在の新卒採用・就職では、企業は架空の抽象的な人物像を語って「あなたを待っている」とあおり、学生は「ぼくにもできるかも」と夢を見る。そんな無益なことをやめて生産的になろうということだ。著者の主張は、学生と企業の最適化と言っていいかもしれない。

本書を読んで「そのとおり」「わが意を得たり」とうなずく大学関係者、人事関係者は多いと思う。しかし本書を首肯した人間が、直ちに解決策を実行するとは思えない。「総論賛成、各論反対」という言葉があるが、日本では建前と本音が乖離したまま、なかなか変わらないことが多い。

たぶん著者はそんな日本社会の特性を知ったうえで、書名を付けたのだと思う。『みんなで変える日本の新卒採用・就職』というタイトルだが、「みんな」とは志を持つ仲間を指しているのだと思う。志は理念に終わるものではなく、行動を伴う。著者の変革への意思を感じるネーミングである。