売り手市場の就活、「優秀な人材が採れない」は言い訳

新卒売り手市場の就活、「優秀な人材が採れない」は言い訳

人手不足で売り手市場となった今年の就職活動。リクルートワークス研究所(東京都中央区)によれば、2018年春卒業予定の大学生の求人倍率は1・78倍であり、09年卒採用以来の高水準だ。それに伴い、18年春卒業予定の大学生の6月1日時点の就職内定率(速報値)は61%で前年同期より9・7ポイント高く(リクルートキャリア調べ)、企業による学生の早期の囲い込みが顕著になっている。


早く優秀な学生を囲みたいという企業の焦りが伺えるが、優秀な学生を本気で採ろうとする企業は、採用時期を早めるだけではない別の手を打っている。

新卒社員に年収1000万円以上払う決意はあるか

急速なITやAI(人工知能)の進化で需要が高まるソフトウェア人材の奪い合いが激しさを増す。彼らを求める代表的な事業が「自動運転」の開発だ。AIの深層学習(ディープラーニング)を用いた走行アルゴリズムの開発などには米シリコンバレーでも通用するような高度人材、学生の獲得が不可欠となる。

自動運転開発ベンチャーのティアフォー(愛知県名古屋市)では、能力が突出して高い人材に対しては、新卒であっても1000万円以上の給与体系になっているという。「アップルやグーグルに代表されるような米シリコンバレー企業では、新卒社員に1500万円を超える給与を支払うのが当然だ。採用したい人材が会社に求める価値は金銭のみに限らないが、最低ラインを出すことは必要だ」(同社役員)。

人材をそろえなければ日本企業が海外企業と伍して戦うことは難しい。ソニーで人事部門長を勤め、現在は人材育成を手がけるインディゴブルー(東京都港区)の寺川尚人社長は、「優秀で高い志を持った人材は、尊敬できる人物とともに仕事をすることで大きな化学反応や融合が生じることを経験で理解している。誰と働きたいかという魅力が非常に重要」と、給与以外の「会社の価値」について語る。「トヨタ自動車がAI研究開発子会社のTRIにCEOとしてAI研究の第一人者であるギル・プラット氏を招いたが、そこには、彼と一緒に働けるという魅力で優秀な技術者を集める目的もあるだろう」。

(写真・iStock.com/TAGSTOCK1

もったいない 見逃される優秀人材

こうした超高度人材にとどまらず、優秀な学生を採用するチャンスを企業がみすみす逃しているケースもある。採用のデータベース管理などを行うイグナイトアイ(東京都港区)の吉田崇社長は「理系ニーズが年々高まる中で、機械、電機系の学生の数が少なく採用が難しいという声を聞くが、就職先が幅広いのにそれを学生が知らないというケースが多い。企業側からそういった学生にアプローチすれば採用できる人材は多くいるだろう」と指摘する。

最近では、就活ナビを利用した「エントリー型」の採用に加え、人材紹介会社が学生と企業を仲介する「新卒紹介」サービスや、企業から学生に直接オファーを送り接触する「ダイレクトリクルーティング」など、採用手法が多岐に渡っている。採用コンサルタントの谷出正直氏は、「就活ナビの自社ページにエントリーした大量の学生の中から一定数の優秀人材を採用するという確率論的な採用をやめ、求める人材へ直接アプローチする手法に変える企業が増えてきている」と最近の動向を分析する。

そんな中、社員50人を抱える東京都のあるIT企業の社長は「当社は今年からリクナビ、マイナビなどの就活ナビを使って学生のエントリーを募ることをやめた」という。同社はBtoBでビジネスを展開しており、学生の認知度が低く、ここ数年は採用計画数を達成するのに四苦八苦する状態が続いていたという。

「待ちの姿勢では優秀な学生は採れない。今年からは学生に直接アプローチできるサービスを使って、少ない労力で効率的に採用し、5月末の時点で既に目標数を採用できた」

外国人が働きやすい部署をつくるのも一手

外国人まで採用対象の幅を広げるのも、優秀人材を比較的容易に獲得するための有効な方法だ。トーマツベンチャーサポート(東京都千代田区)の斎藤祐馬事業統括本部長は「日本の大学に通う留学生のうち、日本で就職する学生は3割程度しかいないといわれている。日本語が話せなければ採用しないなど、日本企業の風土が大きな原因となっているが、バイリンガルな部署をつくるなど、少し社内環境を整えれば、優秀な外国人は多く採用できる。外国人採用は、日本人社員の語学力が上がる、はじめから世界に目が向く、グローバルなネットワークが築けるなどのメリットも生む。実際に弊社では、北欧やインドにおけるベンチャー開拓において、現地出身の社員の情報網やコネクションを活用している」と、優秀な外国人採用の可能性とメリットを話す。「同じレベルの日本人を採用するより、はるかに簡単ですよ(笑)」。

大学生からのエントリーを待ち、そこから選抜していくという採用手法だけで優秀な人材を獲得することは、もはや困難になっている。「重要なのは、そもそも自社にとってどんな人材が必要かを明確にし、そうした人材が入社するための価値をつくることだ」(前出の谷出氏)。

漠然と採用するのではなく、自社にとって優秀な人材とは何か、という点について突き詰めて考え、旧来の採用手法とは違った選択肢も活用していくことが必要だ。