新卒知名度の低い地方企業が採用に勝つためにすべき3つのこと
自社の「位置付け」を徹底的に考える
第1回では、筆者が採用担当として着任した新潟県に本社を置く三幸製菓での状況をお話しました。着任当初、採用業務含めほぼ“ひとり人事部”、予算は雀の涙、学生エントリー数は、競合が数万単位だというところ、2ケタが違う300名程度、といった状態。いわば、カネなしヒトなし認知度なし、からのスタートです。
当時の三幸製菓は「菓子メーカー」であるということ以外は何も学生に印象がない状況でした。企業規模はおろか、新潟に本社があること、どんなお菓子を販売しているかすらも知られていない、いわば“無色透明”の状態でした。
こうした、知名度の低い企業にとって大事なことは「いかに自社を学生に無色透明の状態から強烈に印象づけるか」。このときに私が行なったのが「ポジショニング発想」です。
どうにかして、無色透明の自社イメージに強烈な印象を刻みたい。そう考えた私は人事部でありながら、ブランディングを専門に考える部署であるマーケティング担当者に相談してみました。すると次のようなアドバイスが返ってきました。
「杉浦さん、ブランディングに関連する概念で大事なことはポジショニングです。ポジショニングとはつまり『自社をどのように位置づけるか』。それによって、どのように顧客に認知してもらうか、ということが大事です。競合他社と違って、三幸製菓をどのように学生に認知してもらいたいか、そこをまず考えてみたらどうでしょう?」
このアドバイスをもとに、私はさっそくマーケティング戦略における「ポジショニング」の本を数冊買い込んで読み込んでみました。
「我々はどういうポジションにあるのだろうか、ポジショニングを認識したうえで、どういう伝え方をしていったら学生が惹きつけられるのだろうか」。そうした考え方を軸に、採用活動を考えてみたのです。
ほかでもない。「三幸製菓ならではという価値はなにがあるのか」。それを軸に様々な検討をした結果、いくつか見つかったポイントの中から「成長」という点にフォーカスしようと思い至りました。
三幸製菓は、私が入社した2001年ごろから急成長を果たし、2001年に年商168億円だったものが、12年には年商491億にまで成長を遂げています。
売上成長力が高い、すなわち、三幸製菓という会社は成長していて、働く社員にも成長できる機会が提供される環境である、ということを伝えていこうと考えました。キーワードとして「成長」というその1点だけに絞り込んでコミュニケーションを行っていこう、ということに決めたのです。
学生に伝えたいキーワードを絞り込む
就職活動の合同説明会では、学生は1日に多ければ十数社を見てまわります。どんなにこちらが一生懸命説明したとしても、各社それぞれの話を覚えているわけがありません。
何も覚えてもらえないくらいならば、徹底的に「成長」という言葉だけを覚えてもらおうと考え、会社の事業内容や、入ってからの仕事内容などのその他の情報を全て捨て、「成長」の一点に絞り「自分たちがいかに成長しているか」だけを伝えるプレゼンをしました。
さらに言葉だけではなく、様々な面からブランディングも行いました。まず、熱量が高く、成長している会社であることを学生に伝えるために、就職サイト、合同説明会でのブースの色などは「真っ赤」を基調にすることにしました。
また、色使いだけではなく、会社の勢いを感じてもらえるよう、説明会用の配布資料も“巻物”のようにして「なんだかよくわからないけど気合の入った成長企業を見つけた」という印象を残す工夫も施しました。
このように、キーワードを「成長」ということに絞り込み、各種のコミュニケーションを成長をイメージさせる色合いやメッセージ内容に統一していったのです。
その結果どうなったか? 結果は、想像を超えるものでした。
1日100名程度だった合同説明会動員数も1日2000名以上ブースに来てくれるようになり、エントリー数も当初300名程度だったものが、最高で1万3000名を超えるまで増えていきました。
知名度が低い地方企業でも、徹底的に「ポジショニング」を考え、メッセージを「成長」に絞り込むことで、このような爆発的な上昇を果たすことができたのです。
経営陣を巻き込め
もう1点、重要なことがあります。こうしたことはとても人事担当者単独でできることではありません。経営陣を巻き込んで、全社での取り組みとすること。つまり「経営陣と握ること」が重要です。
というのも、ここまでお話ししたことは、単年で果たせたものではありません。この結果が出るまでには、社内の理解を得る活動が必要でした。
私が始めた採用活動の初年度の結果から、いかに自社が採用活動に不利な状況であり、採用のリソースを必要としているかということを、経営陣に向けて事実をもとに数字で説得していったのです。
特に、採用担当に多くの人数が割けない中小企業の人事担当者にお伝えしたいのは、なによりも大事なのは、まず、経営陣の理解を得ること、わかりやすく言えば「経営陣と握ること」なのです。このことは、最も強調してお伝えしたいことです。
なぜなら、採用活動は企業の未来を築く根幹となるものであり、経営者にとっても重要なことであって、これから会社をどうしていきたいのか?という意思そのものが反映されることだからです。
つまるところ、採用戦略とは、企業の経営戦略そのもの。だから、経営の理解を得てバックアップを受けることが重要であり、必須のことでもあるのです。
当時、私は採用戦略について、経営陣と「三幸製菓という会社をこれからどうしていきたいのか?」という企業の方向性について徹底的に話し合いました。新潟の一ローカル企業として続けていくのか、ナショナルブランドとして全国に、その先に世界へと打って出るのか。経営陣の意思決定は「高成長を続け、ナショナルブランドとして基盤を築いていく」ということでした。そのためには、採用活動は新潟だけでなく、全国エリアから優秀な人材を採用していくことが必要になるということです。
このように、経営陣との議論をもとに、経営陣と握り、採用資源を得ながら、1万3000エントリーという規模の学生エントリーを獲得できるように変化していきました。
その結果、面接に来てくれる学生や採用できる学生が自社にとって優秀な方へと変わっていき、採用の“負け組”から少しずつ脱却することができはじめていったのです。
ところが、今度は大量のエントリーを前に、馬車馬のように選考を行っていくなかで、「じっくりと向き合うことができていない」という問題に直面するようになります。1万3000名のエントリーの中から、わずか十数名を採用するということは、1万2000名以上を「落とす」ことに労力を割く、ということになる。それはお互いにとってハッピーな状況なのだろうか、と考えるようになりました。
次回は、こうした「大量の母集団形成」という採用スタイルを見直すことで得た、新しい採用方法についてお伝えします。キーワードは「母集団採用からソーシャルへ」です。