新卒驚愕!説明会から内定まで「即日」の採用に密着
3月に入って大学生の就職活動が本格化した。慣れないリクルートスーツを身にまとった学生たちが街中で目立つようになった。
大手企業ではまだ会社説明会を開催している段階で、これから始まる筆記試験や数次にわたる面接を考えれば、内定までの道のりはまだ遠い。そんな中で、会社説明会から筆記試験、数次の面接から内定通知までを、たった1日で済ませるという企業がある。インターネット広告事業やスマホ向けのコンテンツ事業などを展開するユナイテッドだ。
創業は旧母体であるネットエイジが誕生した1998年。その後合併などを経てモーションビートに社名を変更。同社が2012年にスパイアと合併して現行のユナイテッドとなった。ITベンチャーとはいえ、上場している企業だ。
ITベンチャーや中小企業で、一風変わった採用活動を実施して話題になる企業は少なくない。話題作りと批判されることもある。知名度が高くはない企業からすれば、知ってもらえれば御の字という気持ちもあるだろう。ユナイテッドが「1日採用」を始めたのは2015年のこと。なぜこのような採用を始めたのか、人事を担当する井上怜さんに話を聞いた。
「『1日採用』だけではなく、一般的な採用もやっています。ただ、1日採用の方が効率的で学生からの評判も高いんです」
どういうことだろう。
一般的な採用では、まずは会社説明会を実施して、採用試験に応募する学生にはエントリーシートを書いてもらい、筆記試験や面接を経て内定を出す。だが、それらの工程をたった1日で終えてしまうというのだ。
学生からすれば、会社の説明を受けたばかりなのに、志望の動機なんてないだろうし、会社分析などもできない。たとえ内定をもらったとしても、「こんな会社に行くのは不安」と内定を辞退する学生が続出してもおかしくはない。入社したとしても、すぐに辞めてしまうのではないか。
様々な疑問を抱きつつ、またユニークさに惑わされてはいけないと思いながらも、まずはユナイテッドの「1日採用」に同行させてもらうことにした。
地方で優秀な学生を確保しやすい
場所はまさかの札幌。ユナイテッドは地方学生の採用を強化しており、大阪や福岡、仙台など、本社のある東京以外でも「1日採用」を実施している。大阪のように応募学生が多い場合は2日にまたがることもあるが、原則1日で終えるスピード採用だ。昨年、大阪で実施した1日採用では国立大学の学生を複数確保したという。大学名=学生の質とは限らないが、地方の優良大学の学生を採用できるメリットは大きい。
【9:45】
街中にはまだ雪が残る中、札幌駅から徒歩5分ほどの場所にある貸し会議室へ向かう。到着すると、リクルートスーツに身を包んだ学生がたくさん並んでいた。参加した学生は25人。ユナイテッドの担当者いわく「もう少し集まるかと思った」。
【10:00】
定刻となり、1日採用がスタートする。まずは採用担当者がマイクを握り、当日のスケジュールを説明する。
「この後、エントリーシートを書いてもらい、筆記試験があります。その後面接が1次2次、最終と続きまして…」。1日で完結すると分かってはいるものの、なかなかハードなスケジュールだ。
続いて早川与規会長兼CEOが登壇し、会社説明のプレゼンが始まる。

学生たちは今日のために、インターネットなどで会社のことを調べてきているだろうが、じかに話を聞くのはこの場が初めて。プレゼン後には学生たちから様々な質問が出た。

【11:00】
一通りの質疑応答が終わると、今度はエントリーシートの記入と筆記試験に移る。エントリーしたい学生は残る仕組みで、今回は全学生が残って試験を受けた。会社のことなど、まだほとんど知らない学生ばかり。志望動機なんてあるのか?と不安に思うが、みな真剣にテストを受けていた。

【11:30】
筆記試験はここで終了。学生たちはひと時の休憩時間となる。だが、裏の控室はここからてんやわんや。採用担当や応援に来たスタッフがものすごいスピードで筆記試験の採点を始めた。気軽に声などかけられない雰囲気。なぜなら、すぐさま採点をして順位付けをし、13時からの1次面接に進む学生に連絡をしなければならないからだ。

筆記試験に合格したかどうか、学生は自分に割り当てられた番号の有無をインターネットの特設ページで確認できる仕組みだ。スタッフは合格者の番号を掲示すると同時に、学生へ電話をして面接のスケジュールを組まなければならない。合格者は20人。面接官は4人で、一人当たり約20分強の時間を取って面接をする。面接担当は若く見えるが、ユナイテッドの事業部長レベルの社員だ。彼らは限られた時間をフルに使って、エントリーシートをじっくりと読み込み、学生の面談に備えていた。
筆記試験の1時間半後に1次面接スタート
【13:00】
1次面接がスタート。筆記試験の終了時刻が11時半だったので、わずか1時間半後に面接となる。面接官は、ほとんど会社を知らない学生と20分近く話す。学生時代に打ち込んだことや、会社でどのように働きたいかなどを聞く、ごく一般的な面接だ。
「バツ、ダメだ」「マル、次に進めよう」
1人面接が終わるたびに、面接官は控室に戻ってきて、その場でスタッフに、次へ進めるかどうかの合否を告げる。合否を聞いたスタッフは、すぐさま学生に連絡する。進める場合は2次面接の時間設定をしなければならないからだ。

ある学生は「やっと1次面接のプレッシャーから解放されたと思ったら、すぐさま2次面接の連絡が来て驚いた」と感想を漏らしたほど、次から次へとスケジュールが組まれていく。
筆記試験から1次面接にはほとんどの学生が進めたため、1次面接も基準は緩いかなと勝手に思っていたが、やはり厳しかった。面接官は帰ってくるたびに「ダメだ」「残念…」と繰り返す。
【14:00】
まだ1次面接をしながら、同時並行で2次面接がスタート。そうしなければ「1日」で終わらないからだ。2次面接の面接官は、ユナイテッドの役員クラスの2人。ここをクリアすれば、早川会長による最終面接へ進むことになる。

1次面接に進んだ20人から2次面接に進めたのはわずか6人だけだった。
「目標人数を達成するために内定は出したいが、そのために採用基準を引き下げるわけにはいかない。もしうちが欲しい学生がおらず、誰も採用できなかったとなると…」。採用担当者の表情が曇る。
1日採用とはいえ、役員クラスが多く札幌へ足を運んでいることを考えると、なんとしても優秀な学生を見つけ出したいと、担当者は固唾をのんで面接官の合否を待っている。
そんなことはお構いなしとばかりに、役員の面談でも厳しいジャッジが繰り返される。
「残念だけれどダメだ」
【14:30】
ようやく1人の学生が、最終面接へ進めるようになった。担当者が再び学生に電話をする。「この後15時20分から最終面接です」。やっと2次面接が終わったと思ったら、もう最終面接の連絡が来る。心が落ち着く暇もないだろう。
【15:20】
厳しい状況の2次面接と並行して、今度は最終面接が始まった。とはいえ、最終面接に進める学生がほとんどいない。1人が面接を終えた後は、会長面接へ進める学生はなかなか来ず、時間ばかりが過ぎていく。

最後にもう1人の学生が最終面接に進み、結果は2人とも合格。この日に2人の学生に内定を出した。内定が出たことに喜ぶのは学生だけではない。採用担当者も胸をなでおろしていた。
採用活動が終了したのは17時過ぎ。過密なスケジュールの中で採用したユナイテッドの社員も一様にぐったりしていた。
1日での採用について、内定した学生は「疲れました(笑)。とはいえ、一気に会社のトップまで話せたことで、会社を深く知ることができたと思います」と語った。
「1日採用」は学生にも企業にもメリットがある
異色の採用方式だが、果たしてこのやり方はプラスなのだろうか。参加した学生に話を聞いてみた。
「拘束される時間が短いのでありがたい。ほかの企業は何度も時間を作らなければならず、いろんな企業を見ることができない」
「東京の企業を受ける際にかかる交通費や宿泊費を、大幅に軽減できる」
「説明会から面接まで、会社のことを一気に知ることができる」
そうしたプラスの意見が目立った。
「立て続けに面接するので集中力が続かない…」という意見もあったが、総じて見れば、拘束時間が1日で済むというのは受ける側からすれば大きなメリットがあると言えそうだ。
ユナイテッドは1日採用を2015年に始めている。
そもそもの導入のきっかけは、採用期間の短縮だ。一般的には、面接後に合否が通知されるのに数日から1週間程度かかる。だが、本当にそれほど時間がかかるのか?と社内で疑問が沸き起こった。
人事担当者に確認したところ「面接後にすぐ、合否は決まっている」という答えが返ってきた。だったら、その場で合否を伝えて次のステージに進めば、お互いにとって時間の短縮になる、というのが1日採用の構想が生まれたきっかけだ。
2015年は東京のみで試験的に開催。すると、意外に良い学生を確保することができたという。この成功体験を基に、昨年から東京だけでなく、北海道や大阪で展開。今年から仙台や福岡を追加した。
1日採用社員、離職は意外にゼロ
ただ、この採用には依然、疑問がいくつか残っている。
例えば、1日採用で学生が本当に会社のことを理解できるのか、だ。1日だけでは会社のことを理解するのは難しい。思い違いがあれば、入社してから気づいて、下手をするとすぐに退職してしまいかねない。
そんな疑問を解消すべく、ユナイテッドは内定を出した学生に対し、社員がメンターとなって相談を聞く機会を設けている。スカイプを使い、いつでもどこでも社員に話を聞けるというものだ。これならば地方の学生でも安心して会社を知ることができる。

ほかにも、入社前にアルバイトとして働く機会を設けている。これは主に在京学生向けのものだが、実際にアルバイトとして働いて昨年入社した社員は「1日採用で少し不安もあったが、会社の中でアルバイトをすることで深く知ることができた」という。
続く疑問は内定辞退が大量に出るのではないか、というものだ。
1日採用という軽いノリに見える採用だから、内定辞退も多いと考える読者も少なくないだろう。ユナイテッドは「内定しても就職活動は継続してもらっていい」というスタンスを打ち出している。ほかの企業を見てもらったうえで、それでも良いと思ったら入ってほしい。その姿勢があるため、内定辞退はやはり一定数は出るという。そういう背景もあり、1日採用以外の一般的な採用なども同時に行っている。辞退者をあらかじめ計算したうえで、内定を出している。
1日採用におけるユナイテッド側のメリットはどのようなものか。
「大手志望や当社を知らなかった学生が『1日採用』をキッカケに当社を知り、興味を持って説明会へ参加してくれている」と人事担当者の井上怜氏は語る。
この制度が呼び水になって、今まで獲得できなかった人材を獲得できるようになったという。また「説明会から、複数回の面接を1日で実施することで、当社の理解が進み、内定後の承諾にも繋がる」(井上氏)とも。
1日採用によって、昨年は6人の社員が入社し、もうすぐ1年経つが誰も退職はしていないという。今年は4月に11人が入ってくる予定で、現在採用中の来年入社組はさらに増える見込みだ。
ユナイテッドの1日採用には当初、いろいろな疑問があった。だが、その疑問をカバーする工夫を同時に施していることが分かった。優秀な人材をどう採り、育てていくか――。採用の仕方は企業によって千差万別。いろいろユニークな制度があって当然だ。ただ求められるのはユニークさだけではない。一風変わった制度の裏には、きちんと学生をサポートする仕組みが必要だ。