結局「インターンシップ」は就活に有利なのか 丸紅が5泊6日の超過酷インターンを行う理由

新卒結局「インターンシップ」は就活に有利なのか 丸紅が5泊6日の超過酷インターンを行う理由

本格的な就活シーズンがやってきた。会社説明会などの広報活動が解禁になるのは3月からだが、それ以前から企業はあの手この手を使って、水面下で学生に接触している。中でも近年存在感を増しているのが、企業で就業体験をする「インターンシップ」(以下インターン)だ。

日本経団連の会員企業であれば、就活解禁前に行うインターンは「選考や採用とは一切関係がない」ことを明確にすべきだとされているが、何日か泊まり込む合宿形式のもの、ビジネスコンペの形式を取るものなど、学生も企業も実際の選考以上に死力を尽くして取り組むものもある。いったい、企業のねらいはどこにあるのだろうか。

丸紅の「超過酷!」5日間泊まり込みインターンに潜入

「記者が取材に来るといったら、現場の担当者が難色を示しまして……。1人だけならなんとか大丈夫です」。就活探偵団が、インターンへの“潜入”取材を複数企業に申し込んだ結果、総合商社大手の丸紅が受け入れてくれた。

丸紅が2016年2月に実施したインターンは、5日間泊まり込みの合宿形式。2011年まで実施していた2泊3日のインターンを1度廃止し、2015年にインターンを復活させたときには、合宿形式を取りやめた。それが2016年からは、5泊6日の合宿にパワーアップした形だ。

見るからにハードそうだが、応募者数は実に約3000人。そのうち、選ばれし50名だけが参加できる。素倍率にして60倍の超難関だ。そこまで参加者を厳選しておきながら、例に洩れず「選考とは一切関係ない」(野村容人事部採用課長)と明言している。

2016年2月下旬。本社近くのホテルの1室に、50名の精鋭が集まった。輝くシャンデリアの下でリクルートスーツに身を包んだ学生たちは、「サッカーのインターハイで優勝しました」「大学に通いながら会社経営をしています」などと、誇らしげに自己紹介をした。まさにスーパーエリートたちだ。

勝ち抜けば役員の前でプレゼンできる!

5日間のインターンで学生たちに与えられた課題は、丸紅の事業分野である「生活産業」「エネルギー・金属」「電力・プラント」「輸送機」「素材」のどれかで新しいビジネスプランを考えること。5人ずつ10チームに分かれ、インターン最大の山場、5日目のプラン発表に向けて準備をすることになる。この発表は、各事業部営業グループの部長クラスが聞き、上位3チームが選ばれる。その3チームは、さらに役員クラスにプレゼンテーションする権利がもらえる。

今回就活探偵が密着したのは、その中の「素材グループB」。彼らの課題は、丸紅が実際に行っている肥料事業において、新規ビジネスを考えることだ。5つの国の中から1国を選び、事業の参画形態を考える。いったい、どのような5日間になるのだろうか。

インターン生の朝は、宿泊先である多摩センター研修所(東京・八王子市)から約1時間半かけて、通勤ラッシュにもまれながら大手町の本社(現在は日本橋に移転)に通うことから始まる。

“出社”してからも、1日中部屋に篭もって議論していればいいわけではない。朝から晩まで、スケジュールはびっしりと詰まっている。インターン開始から3日目ともなると、精鋭たちの顔にもさすがに疲労感がにじんできた。初日にはついていなかったスーツのシワが、それを物語る。「昨夜は夜中の2時くらいまで作業をしていた。朝は6時起きだ」。そういう人事部の安田洋介さんも疲れを隠せない様子。初日はヘアワックスできっちり整えられていた髪が乱れていた。

その日のメンバーは、課題に対する仮説を裏付けるために、1日で社内の6部門を訪ね、質問をしてまわった。訪問先の1つ、本社付属の経済研究所では、ハリウッドスターのような金髪の外国人社員が登場して、学生たちの質問に応じてくれた。もちろん、やり取りは英語だ。

続いて訪ねた財務部でも、試練が待ち受けていた。部内では、「IRR(内部収益率)」や「PL(損益計算書)」といった会計の専門用語が飛び交う。学生は必死にメモを取ろうとするものの、耳慣れない言葉にだんだん手の動きは鈍くなっていく。最後の部門を訪問し終えたころには、全員ぐったりとしていた。

そして迎えた最終日。「素材グループB」が発表で披露したのは、農業に関するプロジェクト。残念ながら上位3チームへの入選は逃し、肥料の散布にドローンを使うプロジェクトなどが「役員プレゼン」の権利を勝ち取った。発表には、丸紅の國分文也社長も登場し、「世界で通用する人材をめざし、ノウハウではなく日本や世界の動きを学ぶ厚みのある人間になってほしい」と学生を激励した。

インターン終了後、チームのメンバーたちに感想を聞いてみた。「あらかじめ覚悟はしていたが、知らないことや考えることが多く、大変だった」「勉強することが多すぎて、このインターンが採用につながるかどうかを考える余裕はなかった。チーム内でも、就活の話題は出ていない」と、想像以上の過酷さに疲労困憊の様子。一方で、「参加してよかった。志望度も高まった」と達成感も口にしていた。

丸紅が、この5日間のインターンのために動員した社員の人数は、社長以下役員を含めて約100名。ここまでするのだから、採用に直結しないのはもったいない気がする。だが冒頭で述べた通り、同社の野村容人事部採用課長は「今回のインターンは、商社のビジネスを知ってもらうことがねらいだ。選考とは関係ない」「会社によっては内定につなげるところもあるので、うちのインターンでもそれを期待した学生は過去にいたが、選考とはきっちり区切っている」と“潔白”を主張する。

2015年は参加者60名のうち50名が選考に進んだ

ただ、インターンがきっかけとなって、志望するに至った学生がいることは確かだ。丸紅の場合、「2015年のインターン参加者60名のうち、50名は選考に進んでくれた」(同上)という。

では、他の業界のインターンはどうなのか。証券会社大手、三菱UFJモルガン・スタンレー証券も、丸紅に負けず劣らず、力の入ったインターンを行っている会社の1つだ。同社では、分野別に3部門でインターンを行うが、中でも約200名と、最も多数の学生を受け入れるのが国内営業部だ。半日コースで計5日間のプログラムを、4回実施している。各回の参加人数は50名で、それぞれ20名近い社員を動員している。学生は、金融や投資に関する講義を最初に受けた上で、「誰に、どういう金融商品を、なぜ提案するか」をグループで考え、発表する。

ここまでやらせるにもかかわらず、同社もまた、インターンと採用が無関係であることを主張する。「2016年のインターンでは、応募人数が前年と比べておよそ2倍になった。ただ、採用には一切つなげていない」(嶺有佑人事部長代理)。

経団連の加盟企業である以上、インターンの目的はあくまでキャリア教育。選考解禁前であれば「選考には関係ない」と言わざるを得ない立場にあることは十分理解できる。ただ、あまりにそれを意識し過ぎて本業と関連性の薄い内容にしてしまうと、学生の志望意欲をそいでしまう可能性もある。

慶應大学文学部3年の女子学生は、情報サービス大手の大塚商会が2015年9月に開いたインターンに参加した。参加者に与えられた課題は、人材の採用方法を考えるというもの。「もしもこんな経営課題があったら」という仮説の上で議論する方式だが、学生の反応はイマイチ。「やりがいがあって楽しかったが、ただ楽しいだけで終わってしまった。それよりも、社員が普段どのような業務をしているのかを見られた方がよかった」と話す。

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結局、実際の仕事内容を思い描けなかったことを理由に、その学生は同社を志望しなかった。

また、経団連規定に縛られず、大手を振って選考にインターンを導入している企業がメリットを享受していることは確かなようだ。スマホ向けゲームを手がけるドリコムの総務人事部、長崎美香さんは「学生も会社側も嘘をついているような採用面接に疑問を抱いていたので、互いに本音が出るインターン参加者からだけ、採用をすることに決めた。まだ始めたばかりだが、とても手応えを感じている」と語る。

2015年にこのインターンに参加した早稲田大学4年の男子学生は、日程終了後に選考を受け、同社への入社を決めた。その理由は「インターン中に社員とたくさん交流し、同じデスクで仕事ができたことで、入社後のイメージが湧いた」から。

45%の学生が、インターンに参加した業界に入社

実際、リクルートキャリアが発表した「就職白書2016」によると、回答した学生の45.3%が、インターンに参加した業種に入社している。採用コンサルタントの谷出正直氏は、「直接選考に関係はないインターンでも、エントリーシートや面接の場面で、会社への理解度が高い参加者が、参加していない学生に比べて圧倒的に有利なことは間違いない」という。

学生、企業ともに負荷が大きいインターン。それが直接採用にかかわるかどうかはもちろん重要だが、そうでなくても、相互に納得のいく採用をする上で、挑戦してみる価値はありそうだ。