新卒「リファラル採用」は日本でも定着するのか 社員紹介による新卒・中途採用が本格化
「リファラル」(referral)という採用方法をご存知ですか? GoogleやFacebookなど米国のIT系企業から火が付き、日本でも中途採用ではすでに取り入れている企業もあるこの仕組みが、いよいよ新卒採用でも注目され始めています。
referralは紹介、推薦の意。「リファラル採用」とは、社員やOB・OGの人脈の中から、自分の会社に適性が高いと感じられる人や、今の職場に必要な能力を持っている人を紹介・推薦してもらい、選考をする採用手法です。
これまで最も一般的な採用の方法は、自社に興味のある学生をできるだけ多く集めて母集団とし、そこから適性検査やエントリーシートなどの応募書類などを用いたスクリーニングによって、面接対象者を選抜するというものです。この方法は、採用可能性のある人を取りこぼさないという利点がある反面、特に人気のある企業ほど、コストも時間もかかるという難点もありました。
縁故採用やリクルーター制と異なる
これに対してリファラルは、会社に近い立場の人からの人づてによる応募から選考することで、少ない母集団で自社に合う人を効率的に探すことを狙った手法なのです。
日本に昔からあるリクルーター制や縁故採用とどう違うのか、と思われる方もいるでしょう。これまでのリクルーター制は、企業が選定した採りたい学生を、企業の命によって派遣された社員がフォローする、いわば「企業主導」の色彩が濃いものでした。
これに対し、リファラルは、社員が個人的に持っている自らのネットワークの中から発掘して人事に紹介するもので、あくまで「個人主導」であり、さらにフォローを担う意味合いもほとんどありません。また、かつての縁故採用に見られた、企業の幹部や取引先の子弟などが能力の有無にかかわらずショートカットして採用されるコネ入社のイメージとも、まったく違うものです。
リファラルが最初に注目され始めたのは米国でした。2001年から採用に関する企業調査を行っているCareerXroads社が、大手71社に実施した2015年調査(Source of Hire 2015)では、採用者全体の22%がリファラル採用による人たちです。
シリコンバレーに拠点を置くIT系企業をはじめ、事業を拡大している企業ほど、リファラル採用を積極的に導入しています。その大きな理由の1つが、会社の成長スピードにふさわしく、入社後すぐに活躍する人、企業風土に合う人を採用したいからです。しかし従来の採用手法では、企業説明会の開催や応募書類・適性検査などの事前選考にある程度時間がかかります。
そこで、それぞれの職場で自分たちの仕事に必要な能力や志をもっている人を推薦・紹介してもらい、採用選考するという方法が注目されるようになりました。社員なら業務内容や社風もよくわかっています。どんなタイプの人が高いパフォーマンスを挙げられるのかも勘所があります。一定以上の質を担保しながら、適性のある人の採用に結び付けやすいのではないか、と考えられたのです。
そして実際に導入した企業の間で、「企業文化への適応度が高い」「早期に高い生産性を発揮する」などの評価が高まり、リファラル採用が一気に広がっていきました。また応募者から見ると、外からではわかりにくい企業風土や会社の雰囲気を先輩や知人を介して知ることができ、職場に早くなじみやすく定着率向上が期待できる、というメリットもあったのでしょう。
日本も外資やメーカーが中途採用で導入
このリファラル採用、日本でも外資系企業や大手メーカーなどの中途採用でも、導入が始まっています。あるメーカーの研究部門では、中途採用ならこれまでと同業種の職歴、新卒採用なら当該専攻から絞りこんでいました。しかし、リファラルを導入したところ、現場の社員から異業種の推薦があったのです。「今後、必要としている知識と技能を持っているから、推薦する」という熱いメッセージを見て、人事の方もハッとしたとお聞きしています。
このように、現場の社員であれば、同じ興味を持つ人同士の縦のつながりや横のつながりを持っている可能性も高く、ニッチなスキルに精通している異業界の人や、専攻学部は異なるがそのジャンルに精通している後輩がいるケースも少なくありません。稀少人材の確保にもつながっているのです。
筆者の所属するセクションでは、こうしたリファラルに注目し、社員紹介による採用活動=”リファラル・リクルーティング”をサポートする企業向けサービスを提供しています。
これまでリファラルは、ネット企業やゲームの会社などを中心に中途採用の場で導入されてきましたが、少数とはいえ、いよいよ日本の新卒採用にも広がりつつあると感じています。
その背景にはいくつかの理由があります。1つは、“自社の文化になじむ多様な人材”がほしいという企業側のニーズです。経済成長が止まり、人口減少が進む中で、今までのやり方で企業が業績を伸ばしていくことは厳しくなっています。新しいビジネスモデルを生み出すには、より多様な人材が求められますが、無作為に多様性だけを求めれば、企業としての求心力が保てません。
社の気風や文化にフィットすることをベースにしたうえでの多彩さを求める企業は多いのです。そのマッチングを図る手段として、インターンシップもありますが、学生を受け入れられる部門や人数の調整、大学や学生へのフォローなど人事担当の負担も大きく、対応枠を簡単には広げられないのが現状。自社文化との相性のよい応募者数を増やす仕組みとして、リファラル採用が新たに注目され始めているのです。
もう1つは、企業によっては応募数が膨大になり、職種や職場ごとの採用チャネルの必要性が生じているためです。本部の一括採用では、前述の研究所のように、所属や専攻などで募集枠を規定せざるをえなかったり、一次選考で数を絞らざるをえなかったりします。このため、何かに特化した能力や個々の意欲が業績を左右する職種や職場では、オープンな公募に合わせて、リファラルというチャネルも検討され始めています。
”人づてによる紹介”が選考活動になる?
また学生生活自体が多様化していることも影響しています。これまでのリクルーター制は、その多くはA大学のサッカー部、B大学の○○ゼミなど、所属組織ベースで優秀な学生を抽出しようというものでした。しかし、留学やボランティア、NPO活動、アルバイトなど活動が多様化し、固定されたチャネルだけでは、企業が採用したい学生と出会えなくなってきているのです。
こうしたことから、かつてはリクルーター制で学生を採用していた商社や銀行などでも、リファラルでの採用枠を検討する企業も出始めています。数はまだ多くありませんが、2017年春からの2018年卒の就職・採用活動では、大手企業の採用枠のうち10分の1程度が、リクルーター制やリファラルなど、“人づてによる紹介”で選考活動になる可能性があるのではないかと予測しています。
新たな採用チャネルの広がりは、学生のみなさんにとって、どんな影響があるのでしょうか。第一に、ラベルではなく能力を、面接用に用意した回答ではなく日頃の言動や姿勢を、どこかで誰かに評価してもらえる可能性が広がります。大学・学部名で判断されるのではなく、クラブ活動やバイト先、趣味で知り合った仲間など、多様なコミュニティでの日頃の経験や培ってきた力を見ていてくれる人がいるかもしれません。
ある大手流通企業では、アルバイトで活躍している人材を採用したいが店舗が多すぎるため、採用担当本部に個々の学生バイトまで把握できていませんでした。せっかく能力も経験もあるバイト学生が応募してくれても、これまでは一般学生に埋もれてしまっていた。それではもったいないと、店舗側から推薦する形でのリファラル・リクルーティングを導入しています。
第二に、志望する業界や職種があっても、なかなか絞り込めない人、どこが自分に向いているのかわからない人にとっては、先輩からの推薦が1つの判断基準にもなり、後押しにもなります。
HPでいくら丁寧に会社説明がなされていても、先輩からの「うちはいい会社だよ、合っていると思うよ」という一言に勝るアドバイスはないでしょう。またいくら詳細に自己アピールをしても、「彼は興味のあることには徹底的に粘れる人間ですよ」という、社員から採用担当への声のほうが、はるかに説得力があると学生は感じています。
推薦・紹介がある会社はロイヤリティが高い
社員によるリファラルなど推薦・紹介制度がある会社は、会社に対するロイヤリティが高い、社員が愛着や誠実さをもてる会社だとみることができると思います。推薦した社員には、何らかのインセンティブ(紹介ボーナス)が設けられているにしても、社員自身がいい会社だと思っていなければ、自分の知人や後輩を紹介しないでしょう。また会社も社員を信頼していなければ推薦を依頼しません。相互に信頼関係が成り立っているからこそ成立するのです。
平たくいえば、リファラル採用で多くの社員を採用できる企業は、社員が、自分の会社を本当にいいと思っている、つまりいい会社だということになるのではないでしょうか。
リファラルで採用されるため、特別なノウハウが存在するわけではありません。誰かの推薦を得ようと、恣意的にその人の前で言動を変えても、効果は低いでしょう。ただ、普段からもっている自分の興味や意欲、人とのつながりが、誰かのアンテナに引っかかったり、参考になり得たりします。そもそも人間の能力は多面的です。リファラルを通じて、多方向から光が当たる、一面的ではない採用が増えていくきっかけになればと思っています。