「落とすための採用活動」は即刻止めるべきだ 企業は採用実績校を開示したほうがいい

新卒「落とすための採用活動」は即刻止めるべきだ 企業は採用実績校を開示したほうがいい

日本の主要企業の多くは、「落とすための新卒採用活動」を知らず知らずのうちに行い、多くの学生に多大なる無駄な就職活動を強いている。それが学生の学業を圧迫する主要因になっており、多くの学生の心を折っている。その原因が何かを明らかにし、企業が落とすための採用活動から脱却するために何をすればいいか、提言したい。

巷では、日本の新卒一括採用が旧態依然で、学業を圧迫するものとして批判する傾向があるが、それは大間違いだ。学生が在学中に採用内定を出し、就職が決まる新卒一括採用は、若年層の失業率を低く抑え、社会を安定させる装置となっている。諸外国に比べて日本は圧倒的に若年層の失業率が低い。日本の新卒一括採用自体はすばらしい仕組みなのである。

新卒一括採用はすばらしい仕組み

ちなみに誤解をしている人が多いので言っておくが、新卒一括採用の「一括」とは、選考時期を一律に決めることではない。選考時期を一律に決めることは大反対である。時期を決めず通年で採用することは、新卒一括採用の反対概念ではない。ゆえに、新卒一括採用を止めて通年採用にしたというのは、実はおかしい表現である。その企業が学生の在学中に内定を出さないなら、新卒一括採用をしていないと表現していいだろう。

また、新卒一括採用を中心に行っている企業でも、中途採用を併用しているところは多い。その採用数のバランスは、企業ごとの採用戦略に応じて異なるものであり、外部から「新卒一括採用はやめろ」などと言うのはおかしな話だ、ということをはっきり言っておく。

では、日本の新卒採用や就職活動のあり方に問題がないかというと、そんなことはない。たとえば、就職活動期の学生が学校に来られず、授業が成り立たないという現実がある。

かつてに比べると多くの学生は就職活動に膨大な労力をかけざるを得なくなった。そのため、新卒一括採用という仕組みが学業を圧迫していると、誤解されてしまっているが、問題は新卒一括採用という仕組み自体ではない。1990年代後半から普及した「就職ナビ」がその問題を引き起こしているのだ。

「就職ナビ」が応募殺到を加速した

就職ナビがまだ普及していない時代、企業はどのように新卒採用の募集をしていたかというと、主には紙の就職情報誌と大学の求人票であった。大手企業の多くは、ターゲットとなる大学に向けた就職情報誌にのみ情報を掲載し、専用の資料請求ハガキをつけていた。

仮に全大学を対象にした就職情報誌に情報を掲載しても、専用の資料請求ハガキはつけなかった。求人票も特定の大学にのみ送っていた。指定校制をとる企業もあり、それ以外の学校の学生を門前払いするケースもあった。また、大手企業が全学生を対象にする合同企業説明会に参加するようなことはほぼなく、せいぜい求人票を送っている採用対象大学の学内説明会に出る程度だった。

つまり、大手企業の多くは採用対象の大学を中心とした採用広報を行っており、すべての大学の学生の目に触れる機会は少なかった。自分の大学を採用対象と見ていない大手企業に応募したい場合、専用の資料請求ハガキでなく、普通の郵便ハガキで資料請求をしていたりした。ただ、そうした学生はごく少数だったが、「見どころがある」と応対する採用担当者もいたのである。

そうした状況の中で就職ナビが出現した。就職ナビは、すべての学生に対し、すべての企業が門戸を開くように作られていった。その時のキーワードは「オープン&フェア」。インターネット上で学校差別をすることが明らかになるとの悪評が広がると、企業側が危惧したこともあるが、新しいインターネットという場で、学校差別のない採用や就職の場を作ろうという、極めて真っ当な志のもとに草創期の就職ナビは作られていたのである。そして大手企業を含むすべての企業が全学生からのエントリーを受け付けるようになった。

それで起こった現象は何か。一部の大手人気企業へのエントリーの集中だ。

ある大手メーカーは、就職情報誌が全盛だった頃、採用数100人程度に対して2000人程度の応募だった。しかし、就職ナビに変わってからは、4万~5万人のエントリー数になったという。

さらに、就職情報会社間のエントリー数獲得競争が激しくなり、「一括エントリー機能」という、同時に複数の企業に対して応募できる機能が登場した。その結果、学生が知っている企業に安易にエントリーするようになり、その数は膨大な量になった。また、「就職人気企業ランキング」の投票を就職ナビ上で実施するようになり、上位に入りたい大手企業が就職ナビ上でPR合戦をするといった状態にもなったのである。かつて就職情報誌で行われていた人気企業ランキング調査では、調査対象が偏差値上位大学の学生に限られていた。

集まった大量のエントリーを大手企業はどう扱うか。すべてを相手にするわけにはいかず、エントリーシートの応募があっても採用対象大学のところで切る、いわゆる”学歴フィルター”が行われるようになった。また、会社説明会でも学校名で自動的に受付枠を設定する学歴フィルターを含め、就職ナビの企業側の管理画面では学校別にグルーピングができるようなさまざまな機能が加わっていった。

企業は詳細な採用実績校の開示を

こうした大手企業の採用活動で対象大学やターゲット校になっている学生はいいが、それ以外の学生は一生懸命書いたエントリーシートがどんどん落とされることになる。全国で大学数は約780校あるが、著名な大手企業の採用対象大学は、偏差値上位20校程度、多くても30~40校くらいだろう。それ以外の多数の大学の学生は、エントリーシート段階で落とされる。企業は就職ナビ出現によって「落とすための採用活動」を余儀なくされているのだ。

最大の被害者は言うまでもなく学生である。就職ナビの普及でエントリーシートを採用する企業が増えていった結果、学生は長期間自己分析をやり、大変な労力をかけてエントリーシートを書くことを求められている。個別の会社説明会への参加申し込みも、採用対象大学の学生でなければ人気コンサート並みの競争倍率で(まったく席が取れないケースもある)、参加できる可能性が少ないのにもかかわらず、説明会の申し込み作業を続ける学生も多い。

著名な大手企業ばかりエントリーすると、学校名だけで落とされてしまい、延々と就職活動を続ける悪循環に陥ってしまう。学校の講義にも出られなくなり、結果的に学業圧迫が起こるのである。

では、落とすための採用活動を脱却するためには、どうすればいいか。企業が採用対象にしている学校を開示することが一番いいが、学校差別との批判が怖くて、そんなことができる大手企業はほとんどない。

であれば、せめてできるだけ正確で詳細な採用実績校や学部名、学科名の情報を公開してほしい。またどの大学に求人票を出しているかも明示してほしい。そうすることで、採用対象大学を暗に示すことになり、それを見た学生がその企業を受けるかどうかの判断材料になるだろう。

大学側も、学生にそうした情報をできるだけ正確に、詳細に出してほしい。また、就職実績企業での離職率や満足度の調査を行い、就職活動をする学生に情報開示することを行うこともいいと思う。

できれば、第三者機関がこうした企業と大学の情報を取りまとめ、採用の可能性を予測して、その情報を公開するとなおいい。予備校が大学受験の合格確率を出すようなものだ。そうした情報を見ても、「あえてこの企業に挑戦したい」という学生がいても、もちろんいい。安易な応募でないそうした学生なら、企業も「見どころがある」と相手にするかもしれない。

採用指針を「守るふり」はやめよ

情報公開についていえば、企業は自社の選考時期についても嘘をつかずに明示してほしい。経団連の採用活動に関する指針の時期を守っている企業など、経団連傘下の企業でもほとんどないのが現状。なぜ守れていない選考開始時期を”守るふり”をするのか。選考解禁日の6月1日より前、実際は選考面接なのに、「面談」「懇親会」などの名目で行っているのか。

こうした”建前の情報”も学生の不安をあおり、過剰な準備や行動を引き起こし、学業圧迫の状態を作ってしまっている。

嘘で塗り固めたきれいごとの採用広報をやめる。そして正確で詳細な情報開示を行い、自社の採用ターゲットに集中した活動を行うことで、落とすための採用活動は減り、無駄な労力を学生、企業ともに減らすことができる。そうすれば、より重視すべき活動に、双方がじっくり時間をかけることができるだろう。