総合人件費増は悪者か 賃上げ、企業の自信の表れ
日本株への買いが続かない。投資家が強気に傾かないのは、企業業績を巡る不透明感がくすぶるためだ。前期の大幅増益に対し、今期予想は増益率が鈍っている。消費増税の影響への懸念などに加え、人手不足による人件費増が収益圧迫の一因とみられている。しかし賃上げなどの人件費増は、企業業績にとって本当に悪者なのか。
大幅高の翌日だった14日の日経平均株価は、小幅に反落。米国ではダウ工業株30種平均が最高値を更新するなど世界的な株高基調の波に、日本株はなかなか乗れない。企業業績にいまひとつ信頼が持てない投資家は、上値を追うような買いに二の足を踏んでいる。
その一因は人件費の増加が利益を削るとの心配だろう。有効求人倍率は16カ月連続で改善している。人手不足が賃金上昇につながる構図は鮮明になってきた。経団連によると大手企業の2014年の賃上げ率は2.39%と16年ぶりの高水準だ。毎月勤労統計調査では、残業代を含む給与総額が上昇に転じてきた。
人件費の増加そのものは、企業収益を下押しする。だが、法人企業統計をもとに振り返ってみると人件費の伸び率が高まる局面では、企業全体の利益率はむしろ改善するケースが多い。
なぜか。SMBC日興証券の圷正嗣・株式ストラテジストは「賃金上昇の局面では景気改善で売り上げも伸び、かえって収益性が高まることが多い」と指摘。「賃上げに踏み切る企業は、それだけ売上高を伸ばせる自信がある」とみる。
例えば旭化成。9日の14年3月期決算の発表時に、ベア実施で今期は人件費が十数億円規模で増えると明らかにした。それでも小堀秀毅専務執行役員は「海外中心に投資の成果が取り込め、人件費が増えても今期は経常最高益を更新できる」と胸を張った。賃金上昇は企業側の自信の表れといえる。株価は決算発表前から6%上昇している。
| 社名 | 4月以降の 騰落率 |
|---|---|
| ライフコーポレーション | 2.9 |
| レオン自動機 | ▲6.9 |
| ピジョン | ▲5.0 |
| セントラル硝子 | 1.8 |
| 積水ハウス | 0 |
| クボタ | 3.9 |
| トッパン・フォームズ | ▲1.6 |
| いすゞ自動車 | 1.2 |
| ファミリーマート | ▲6.1 |
| 東洋電機 | 3.1 |
| 日経平均株価 | ▲2.8 |
(注)賃上げ率上位10社の株価。単位は%、▲は下落
日本経済新聞が実施した14年の賃金動向調査(4月14日時点)で賃上げ率上位10社の4月以降の株価をみると、1位のライフコーポレーションは2.9%上昇するなど7社の株価は上昇しているか日経平均の下げより小幅にとどまる。
人手不足が収益の重荷になってきた大手ゼネコンにも明るい兆しが出ている。労務費上昇に合わせて利益を確保できる価格で受注した工事が増えている。このため、大手4社のうち3社は今期の営業増益を見込む。株式市場では再評価が進み、清水建設株は14日に年初来高値を更新した。
4月の景気ウオッチャー調査では、2~3カ月先の景気をみる先行き判断指数は大幅に改善した。景況感の先行きが明るいのは、賃金上昇が消費拡大につながるとの期待がある。野村証券の岡崎康平エコノミストは「賃金上昇などが支えになり景気は7~9月期には底入れし、持ち直していく」と予測。消費増税は景気後退を招かないとみる。株式市場では食品やサービスといった業種の上昇も目立ってきた。
アベノミクス相場が息切れしてきたともいわれる日本株。だが、人件費増が企業業績にとって前向きなサインならば、株価持ち直しのきっかけになる可能性がある。
