総合就活生の内定辞退恐れ「オワハラ」「オヤカク」に走る人事
2016年卒業予定者の就活は「完全な売り手市場」(メーカー人事)と言われる。既に内定を得ている学生は3月5日の時点で3.8%いる(ディスコ調べ)。もっとも、その学生とて、現在の内定先に就職するとも限らない。だから、人事は、10月1日の内定式まではいっときも気を抜けない。そんな中、学生にもう他社を受けるなと圧をかける「就活終われハラスメント(通称オワハラ)」に走る人事が現れ、問題視されている。
Pick 1:「就活終われハラスメント(オワハラ)」の実態とは?
最近、雇用関係の専門家の間で話題になっているのが、NTTドコモの採用担当者出身の小林史明衆議院議員がユーチューブにアップした「『就活終われハラスメント』とは?」という動画だ。
通称「オワハラ」。採用したい学生を他社に奪われるのを恐れる余り、人事が学生を「明日も面接に来て」などと言って拘束したり、他社を受けないと誓約書を書かせるなど、あの手この手で強引に迫り、学生の自由な就活を阻害することだ。
同映像の中では、「再現VTR」として、採用担当者が学生に「君がうちに入りたいと思っているなら、今ここでA社に辞退の連絡してくれる?」と圧迫する場面、「明日も明後日も、面接やるから必ず来てね」という採用担当者の言葉に、学生が困惑する場面などが紹介される。
なぜ、今年は「オワハラ」増加が予想されるのか?
もっとも、人事が優秀な学生を囲い込もうとするのは何も、今に始まったわけではない。私が取材した今年卒業の内定者の一人も、こんなことを言っていた。
「4月入社予定の外資系金融機関は、研修が4月1〜3日にありました。この日は、面接解禁日だったので、普通、日系大手の面接が2〜3社入りますからね。わざと、そこに行かせないように、日系大手と“もろかぶり”させたんでしょう」
だが、今年は経団連の指針によると「3月解禁、8月選考開始」となった。もっとも、これをうのみにする企業は、多勢派ではない。HR総研が行った調査によると、メーカーの説明会開催時期は「3月」「4月」が6割を超え、非メーカーでは「5月」が58%でピークになることが分かった。(「2016年度新卒採用 スケジュールはどう変わるのか」)
さらに、各企業のインターンシップはすでに行われている。ディスコの調査によると、2016年卒業予定の全国の大学3年生(理系は大学院修士課程1年生含む)のうちインターンシップに応募した学生は83.8%、参加した学生は73.7%にものぼる。よって、この中からめぼしい学生に既に内定を出している企業もある。
つまり、今年は経団連の指針、「3月解禁、8月選考開始」をかたくなに守る企業と、それを無視して内定を前倒しにする企業が混在することが予想される。
しかも、指針を守らないにせよ、昨年までは、内定解禁日より「ちょっと早く」内定を出していればよかったのが、今年はそれが後ろ倒しになったため、結果として解禁日より「かなり早く」内定を出す企業が増える見込みだ。そうなると、内定を出した後、つまり、10月1日の内定式までの期間が長い。
すると、学生が人事と接触しない時間が自ずと長くなる。一方で、学生が他社と触れ合う機会が増す。だからこそ、人事は学生に他社に乗り換えないように、「オワハラ」的な行動に走りやすい──そう懸念されているのだ。
Pick 2:学生の企業選びの決め手は「親」。「オヤカク」に必死な人事担当者
学生の自由な就職活動を阻害する「オワハラ」は論外としても、採用担当者が学生の内定辞退を防ぐためあの手この手をこらす現象は、売り手市場に転じた昨年あたりから激化している(「内定辞退防ぐ 決め手は“オヤカク”」)。
その一つが、「オヤカク」。企業が学生を採用する前に親の確認を取っておく、という意味だ。この重要性について、私が取材したある採用関係者はこう語る。
「今の学生は、兄妹も少なく、親と友達のように密着して育った世代。親を異常なまでに尊敬していて、親の言うことは絶対。だから『御社に行きます』とあれほど固く誓ってくれた学生が、『親の一言』で平気で裏切る」
だから、採用担当者は、親に確認を取ることすなわち「オヤカク」に熱心にならざるを得ないと言う。
「無名企業の場合、採用担当者がどんな地方にでも飛んで親御さんに事業の将来性について説明するなんてことは当たり前。たとえ有名企業でも、優秀な学生は複数の内定を得るため、実家への挨拶や贈呈品を送るなど、普通に行っている」(前出・採用関係者)
この彼に言わせれば、「今までは対本人。一人の説得でよかったのが、その背景にいる両親、はたまた祖父母、6人の了承を得ないと、説得できない時代になりつつある」と言う。学生には、いい加減、自分の頭で考えろと言ってやりたいですよ」(同)
Pick 3:「内定辞退者」が出すと査定が下がる? 怯える人事採用担当者
人事採用担当者が、これほどに焦る背景には「人事査定」の影響も大きい。日経新聞の報道によると(「査定が怖い…早くも内定辞退に脅える人事」)、ある採用担当者の査定は、
1)母集団をどの程度集めたか、特に前年比の増減率
2)どの大学から何人採れたか
3)内定辞退者の比率
の3点だったそうだ。
そして、採用担当者はこれらが達成できないと、査定が下げられるのではないかと恐怖に駆られ、無茶に走りやすい。同記事によると、「内定を出した学生を通じて大学のゼミに食い込んで、その学生にLINEのグループをつくらせ、その学生経由で採用関連情報を流す」なんてことまでする採用担当者までいるようだ。
「オワハラ」に「オヤカク」──。口に出すのもはばかられるほどばからしい言葉だが、その背景には、日本の会社の従業員の大半が新卒一括採用により支えられていること、学生にとっては新卒採用の成否で人生やキャリアのかなりが決まってしまうこと──にあるのだろう。