IT、金の卵は地方に ベンチャー採用で大手と競合回避

総合IT、金の卵は地方に ベンチャー採用で大手と競合回避

地方の新卒学生らの採用に力を入れるIT(情報技術)系ベンチャー企業が増えている。景気回復で産業界全体の人手不足感が強いうえ、ITの知識を持っていたり、関心が高かったりする学生を採りたいという企業は業種を問わずに多い。大手との競合も激しくなるなか、IT関連の仕事が首都圏より少ない地方に目を向け、優秀な学生を獲得しようとしている。

「早くから幅広い仕事を担当できるのはおもしろい。ぜひ働いてみたい」。9月上旬、愛媛大学3年生の男子学生は東京都内のオフィスで開かれたITベンチャーの社員らとの座談会で声を弾ませた。

ニュースアプリ運営のユーザベース(東京・港、梅田優祐代表取締役)や、弁当宅配サイトを運営するスターフェスティバル(東京・港、岸田祐介社長)などベンチャー5社が共同で開いた「バスツアー」の一コマだ。

参加したのは四国の大学に通う約10人の学生。企業側が用意したバスを使って各社のオフィスを巡った。四国で起業支援を手掛けるルシオル(松山市、武田知大最高経営責任者)が企画し、ベンチャー志向の強い学生を中心に募集した。

各社は今後もアルバイトの仕事の依頼などで学生とのつながりを維持し、「採用候補者を確保していきたい」(参加企業の担当者)。ユーザベースの坂本大典ディレクターは「これはという学生がいれば、いち早く社長選考にまで持ち込みたい」と意気込む。企画した武田氏も「これからも毎年夏に実施したい」と手応えを感じている。

「東京では大手に加えてIT系新興企業も採用を強化している。2012年に設立したばかりの当社の新卒採用は厳しい」。ソーシャルメディアを使ったマーケティング支援システムを開発するインタレストマーケティング(東京・新宿)の坂井光社長は強調する。

そこで打ち出したのが地方での人材獲得だ。2月には福岡市に支社を開設。16年春入社をにらみ、大学3年生や大学院1年生らのインターンシップの受け入れ準備を進める。地元大学とプログラミングのワークショップを開いたり、社会人らのインターンを受け入れたりする。

インターネットの普及により、IT技術者にとって勤務する場所は大きな問題ではなくなりつつある。インタレストマーケティングは15年春に福岡の大学出身者を2人採用し、本人の希望を踏まえて、東京か福岡で勤務してもらう予定だ。将来は東京と福岡を同じ規模の開発拠点にすることも検討しており、福岡での採用を広げる。

セキュリティーソフトを開発するサイファー・テック(徳島県美波町、吉田基晴社長)も本社を東京都から徳島県に移した。もともと徳島市内にも開発拠点を置いており、20人規模の企業ながら新宿区、徳島市、美波町の3拠点体制をとる。

同社はこれまで、慢性的な人材不足に苦しんでいた。美波町に拠点を設けてからは、新卒を含め20~30代の若いエンジニアの応募が増えたという。15年春には新卒のエンジニアが1人入社する予定。中途を含めて16年春までに10人ほどの採用を目指す。

地域活性化や雇用確保に向けてIT人材の育成に力を入れる地方都市が増えている。国家戦略特区に選ばれた福岡市もその一つだ。企業向けウェブサイト改善支援事業を手がけるカイゼンプラットフォーム(米カリフォルニア州、須藤憲司最高経営責任者)は今夏、同市の約10社のIT企業と人材育成ネットワークをつくった。

企業のウェブサイトの操作性を改善する業務をカイゼンから地元各社に依頼。各社はこの業務を学生を含めた若いクリエーターらに担当してもらい、プログラムやデザインの技能を向上させる。これらの活動により地方での人材育成が進めば、地元企業を含めたITベンチャーの人材獲得の機会も増えていきそうだ。