総合第2創業期の号令のもと、フロンティア人材が組織を動かす ホームセンター「セキチュー」の人材採用
企業ケース(6)セキチュー
群馬県高崎市に本社を構え、北関東を中心にホームセンターを運営している株式会社セキチュー。上場20周年の2014年2月21日に迎えた社長の代替わりを機に「第2創業期」と位置づけ、ホームセンターを核とした新たな経営戦略に取り組んでいる。
その1つにあげられるのが、ネットとチラシ、電話注文の融合。北関東エリアの暮らしに不可欠なものをネットや電話で簡単に注文できる仕組みを整え、3か月後の5月末に稼働させるに至った。その後、ネットや電話による売り上げは、毎月前年同月比で、1.8倍~2倍の伸びを記録し続けている。
この成長を支えているのは、今年大手総合小売業(GMS)業界から入社した営業企画部長の谷田幸雄氏、42歳。谷田氏が次々と実現しているセキチューの次世代戦略と、それを可能にした組織のあり方、そして、地方だからこそ生きてくる人材採用の新たな形について見ていく。

オムニチャネルという言葉をご存じだろうか。
「omni-(オムニ)」という接頭辞は、「すべて」や「あまねく」といった意味。「channel(チャネル)」は「経路」や「手段」といった意味。つまり、顧客とのつながりをあらゆる場所で確保し、有効にしていこうという考え方を指す。似た言葉にマルチチャネルがあるが、マルチチャネルは顧客との接点を複数確保するだけの多角化を指すのに対し、オムニチャネルはすべてのチャネルを連携させて顧客の利便性を高めていくという違いがある。顧客との接点、つまり「チャネル」には、店舗はもちろん、EC(電子商取引)サイトやコーポレートサイト、チラシやカタログ、モバイルサイト、SNS、コールセンターなどがあげられる。
具体的に、オムニチャネルの活用例を見てみよう。ある顧客がカタログで欲しい商品を見つけ、電話で注文をする。その商品を近隣の実店舗で受け取ったついでに、手に取ったほかの商品も欲しいと感じた。ただし、店舗には欲しい色がない。モバイルで調べると、その色はECサイトでのみ展開中。そこで顧客はECサイトで注文し、今度は宅配で商品を届けるように頼んだ……。
このように、複数のチャネルを横断した購買体験を提供することで顧客の利便性や満足感を高めることができるというのが、オムニチャネルの目指すところだ。また、企業側としては商品管理や顧客管理がしやすくなる。
そんなオムニチャネルに、群馬県をはじめとした北関東エリアで地域密着型のホームセンターを展開しているセキチューが挑戦を始めた。その結果、ネットや電話による売り上げを、前年比2倍の勢いで伸ばしている。防犯砂利や一空袋(収穫したコメを入れる紙袋)など、ホームセンターならではの商材は前年比250%で推移している。
この立役者が、2014年2月に大手GMSより転職してきた谷田氏だ。EC黎明期の2000年からインターネット事業に関係するあらゆる工程を体験し、自社のインターネット事業をゼロから立ち上げた経験を持つ、日本でも数少ないネット関連事業のエキスパートである。谷田氏によると、「GMSと比べたら 10年は遅れている」というホームセンター業界。特にオムニチャネルに関しては、「どこのホームセンターも、まだまだスタートラインにさえついていない状況」である。谷田氏は言う。
「だからこそ、ビジネスチャンスが大きいと感じたんです。オムニチャネルは、セキチューが掲げている『大きな企業より強い企業の実現』という理念にぴったりなのではないかと感じました」
「ホームセンター業界の常識は世間の非常識」
そもそもセキチューには、インターネット事業のテコ入れと、電話による受注の開始という2つの課題があった。特に電話注文は、高齢者が多いエリアではニーズの大きなサービスである。「セキチューでないと」とばかりに山間部から車で数十分かけて買い物に来てくれる顧客の中には、足腰が不自由で困っている人もいる。
そんなお客に対して、電話一本で必要な商品をお届けできたらいいのにという思いは、すべての社員が感じていた。しかし、その仕組みの作り方や実行の仕方が分からず、誰も手を出すことができなかったのだ。
谷田氏は、入社後1カ月にわたってインターネット事業や店舗の現場に張り付き、セキチューの現状を把握。Webサイトの作り方や物流のしくみに潜む問題点、送料が有料であることや、即日や翌日配送に対応していないことなど、世間的に見た場合の“非常識”を明らかにしていった。
中には、ECサイトと折り込みチラシの内容が同期していないという、初歩的な問題も潜んでいた。今おすすめしたい商品は何で、店舗とECサイトではどう見せていくべきか。そういった基本的な販売戦略が連動せず、バラバラに動いていたのである。
その理由は、単純なことだった。
「ECサイトを運営するインターネット事業課と、チラシを担当している販売促進課は、隣同士だったにも関わらず、ほとんど交流がなかったんです。そのため、情報の共有がなされていなかった。これでは、スピード感をもって変革をしていくことはできません。振り返ると、前職でも似たようなことが起こっていました」
谷田氏は、大きな会社だったがゆえの縦割り組織の弊害に苦しんだ前職での経験を踏まえ、2つの課を統合する営業企画部の新設を提案。課同士の情報共有を一気に進める組織変革を訴えた。そんな谷田氏に対し、経営陣は「それならお前がやってみろ」と一任。自身が営業企画部の部長に就任したのは、入社してわずか1カ月目のことだった。
その後谷田氏は、電話注文を軸とし、ECにも対応できるコンタクトセンターと、即日発送が可能な物流の仕組みを構築。自らが体得していたマーケティング分析の手法を販売促進課に伝え、目玉商品の選定方法やチラシ紙面のデザインなどを一新していった。
オムニチャネル化への準備を進める一方で、谷田氏は店舗の改善にも力を注ぐ。店舗のレイアウトや什器の設置、壁面デザインの変更、ユニバーサルフォントを使った高齢者にも見やすいポップへの統一など、CI(コーポレイト・アイデンティティ)戦略の見直しにも取り組んだ。
「前職で、インターネットを軸に商品企画や中期計画の策定など、さまざまなセクションに関わってきたことが役に立っています。自分でもいろいろなところに口出ししていると思っていますが、各部署の社員たちから相談を寄せられることも多いんですよね。トップからは権限を委譲していただいており、そのことを社員全員にも周知してくれているからこそ、はばかることなく思い切ったことができると思っています」
谷田氏が手がけた電話受注を軸とするコンタクトセンターと物流の仕組みは、入社4か月目の5月28日に運用を開始した。毎月前年同月比で、1.8倍から2倍ほどの数字を記録し続けていることは、冒頭に示した通りだ。
経営陣の強い意志と権限移譲がすべて
谷田氏がここまで思い切った改革をすることができたのは、トップから全幅の信頼を受け、任されているからにほかならない。「セキチューは第2創業期である」という位置づけ、「大きな企業より強い企業の実現」や「地域密着型」という守るべき方針、そして、成果は数値であるという意志。経営陣が変えるべきことと変えてはいけないことをはっきりと表明していたので、外から転職してきた谷田氏は行動がしやすかったという。
「インターネット事業は結果が出やすく、早い段階から効果が数値となって現れたことも、社員のみんながついてきてくれた理由だと思います。プロセスも大切ですが、ビジネスにおいては結果がすべて。経営陣から『結果を上げられるのであれば遠慮はいらない』と言っていただけたことも大きいです」
そもそも谷田氏がセキチューに入社を決めたのは、経営陣直下で多くの権限を与えられ、仕事をすることができるという部分に魅力を感じたからだ。実は当初、谷田氏はまったく転職を意識してはいなかった。ただ、「GMSで14年余りECに携わってきた自分の市場価値はどのくらいなのだろう?」という単純な好奇心から、さまざまな転職関係のサイトに登録してみたのがはじまりだった。
そんな谷田氏のもとには、数々の人材紹介会社からオファーが来た。そのなかでも数社、面接にまで進んだ会社もある。しかし谷田氏にはピンとこなかった。今の会社に大きな不満がないぶん、オファーに心を揺さぶられることもなかった。
しかし、セキチューだけは違った。取締役の室田善弘氏から、直接メッセージが来たのだ。室田氏は、当時谷田氏に送ったメッセージのことを、今でもよく覚えていると話す。
「今までGMSのいち社員としてやってきたことを、セキチューで経営陣の直下で権限をもってやってみませんかと誘いました。すると谷田からは、ホームセンター業界、そしてセキチューについて、鋭い質問が返ってきたことを覚えています。20通以上にもわたるメールのやりとりで、お互いに手ごたえを感じることができました」
谷田氏自身、心のどこかで、巨大な組織ゆえにスピーディにものごとが進みづらく、ネットサービスならではの速い時間軸に沿ったサービスが提供しきれていない前職に対するもどかしさを抱えていた。その点セキチューであれば、経営陣のコミットメントのもと、自由に力を発揮できる。組織の大きさも、すべてに目と声が届く適正な大きさだ。本社が群馬県にあるという事実は、できる仕事の大きさを感じた谷田氏にとって、取るに足らない問題だった。
谷田氏は、前職での店舗勤務を含めた20年の経験をすべて活かそうと、持てる力を惜しみなく発揮している。2014年は、上場20周年という節目を生かした販売戦略を、そして来る2015年には、ホームセンター1号店を出店してから40周年になるという節目を活かした企画も計画中だ。
自分の経験にセキチューらしさを加え、新たな展開を模索
ただし谷田氏は、自分の経験を部下に教えて、それを実行するだけではダメだと考えている。特にECに関しては、前年同月比200%に安住してはいけない。来期、再来期には一気に攻めていこうというのが目標だ。
戦略的にオムニチャネル化を具現化させるため、さいたま市にある大宮ソニックシティへ「ビジネスセンター大宮」を新設。新たなビジネスモデルを創造し、実行可能なオフィスを開設した。
「まだ規模が小さいうちは、店舗の在庫を流用して出荷していくというスキームで間違いありません。しかし、売り上げをさらに加速させるためには、売り上げの上位20%の商品だけでもいいので、あえて在庫を抱えて展開していく必要があります。そのためにはバックルームを借りることも必要ですし、商品をピッキングするパートさんの作業効率を考えた商品レイアウトも考えなければなりません。やるべきことはたくさんあります」
頼りになるのは、小売りや飲食、インターネットサービスの現場でそれぞれECを経験してきた4人の中途採用者たち。そして、新卒からセキチューで経験を積んできたプロパー社員からなるインターネット事業課のメンバーだ。
谷田氏は、「すぐに結果が数字となって表れるのがインターネット事業の特徴。良いと思ったことはどんどんやっていこうと伝えている」と語る。それぞれの個性と経験を持った5名のメンバーを独り立ちできるように育てていくことも、自分の大きな役割だと考えている。
第二創業期として、インターネット事業の拡充のほか、ホームセンター事業全体のブランディングにも力を入れているセキチュー。それに応じて、優秀な人材の採用にも積極的に乗り出している。地方企業が優秀な人材を採用するために不可欠な取り組みについて、取締役の室田善弘氏に聞いた。
(聞き手は南壮一郎=ビズリーチ社長)
御社は現在、第2創業期であることを打ち出しています。従来との違いはどのあたりにあるのでしょうか。

株式会社セキチュー 取締役管理本部長
1983年、株式会社日本交通公社(現株式会社JTB)入社。1994年、ソニー生命保険株式会社入社。2012年、株式会社セキチューに入社し、総務人事統括部長を務める。その後、経営企画室長、内部監査室長等を歴任し、2013年1月、執行役員管理統括部長、2013年5月、取締役に就任。
室田:セキチューは、2015年にホームセンター事業40周年の節目を迎えます。群馬の大間々に第一号店を出店したのを皮切りに、現在は35店舗を展開。主に北関東一円をカバーする地域密着型のホームセンターを運営しています。
しかしホームセンター業界は、人口減少などの影響もあり出店過剰になっているとも言われています。そのなかであえて第二創業期と位置付けたのは、2014年2月に創業者から2代目へとバトンタッチしたことだけが理由ではありません。ホームセンター業界のなかでイノベーションを起こしていこうという意味を込めています。
地方企業だからこそ分かる応募者の本気度
当社は全国を網羅するチェーンストアではありませんし、今後もその道は取らない方針です。一方、ECサイトは時間や空間を意識せずにアクセスできます。そのため、弊社のような地域密着型の企業こそ、ECのような時間と空間を越えられるやり方を強化しないと生き残っていけないのではないかと考えています。
EC強化に至るきっかけとしては、ひとつエピソードがあります。ある日、弊社のECサイトで買い物をされた横浜在住のお客様から商品の初期不良の連絡を本社にいただきました。
その方は弊社の店舗(横浜みなとみらい店)の近くにお住まいだったため、実店舗ですぐに新しい商品に交換させていただいたところ、その際の対応に関するお礼のお手紙を頂戴したのです。このエピソードこそ、オムニチャンネルの本質をついているのではないかと。地域密着型のセキチューが展開するECとはどのような形であるべきか、考えるきっかけになったのです。
現在は楽天市場やヤフーに出店しているネットショップがインターネット事業の中心となっていますが、いずれは「セキチュードットコム」をひとつのブランドとして成長させたいと考えています。また、オリジナル商品の開発も視野に入れています。そのためにも、優秀な人材が必要なのです。
具体的には、どのようなポジションにどのような人材が必要なのですか?
室田:最初はインターネット周りの人材ということで、基幹システムのリプレイスの担当者とともに、ECサイトの構築や運営にかかわる人材の採用からスタートしました。現在は、すべてのポジションで新風を巻き起こせる人材を採用したいと考えています。
採用にあたっては何がハードルになりますか。
室田:セキチューの本社は群馬県の高崎市にあります。求人を出している企業は圧倒的に東京を中心とした首都圏の企業が多いため、当初は地方企業であるということが物理的な壁になるのではないかと感じていました。
しかし、それは逆に、その人の本気度が測れる尺度としても作用しています。勤務する場所ではなく、仕事の中身を大切にしたい、経営に近いところで力を発揮したいという人を選り分けるフィルターにもなっていると感じています。
人材紹介会社は活用していますか。
室田:人材紹介会社は、どんなに優秀なコンサルタントの方がいらっしゃったとしても、私以上にセキチューについて熱く語れないというデメリットがあります。
どうしてもそのコンサルタント独自のフィルターが入ってしまうため、マッチする確率が下がってしまうのです。また、紹介会社が抱えている案件のほとんどが東京の企業であるため、地方企業であるということがハンディキャップになることも少なくありません。
人材紹介会社は、黙っていても社員候補を紹介してくれるので楽なようにも感じます。しかし、弊社の経営戦略を含んだすべてを理解したうえで紹介してくれているかというと、そこはギャップがある場合も多いと感じています。その分、我々が直接めぼしい人材にお声をかけるダイレクト・リクルーティングという手法は、求人する側と求職する側の距離が近く、余計なものを介さないで話せるという緊張感とスピード感が魅力です。
経営陣のコミットメントが何よりも大切
ダイレクト・リクルーティングを成功させるコツとは何でしょうか?
室田:こちらからのスカウトや、応募者からの応募など、すべてを私が一括して確認しています。人事の採用担当者からテンプレートを使って出すスカウトもありますが、「この人は!」と思った方には、私の名前で、オリジナルの文章をお出しします。
1人ですべてを確認し、管理するのは確かに時間と労力が必要ですが、誰かが一括して担当しないと、良い情報が散逸してしまう恐れがあると考えています。
優秀な人材サーチは、毎日やり続ける必要があります。私の場合は、朝と夕方に1時間ずつ、ほかの仕事の手を止めてでも行っています。優秀な人は他社から見ても優秀なはずですから、少しでも早くアプローチする必要があります。来たメールに対する返信も、スピードが命。土日も含め、来た返事にはすぐに返信するように心がけています。
ちなみに、本気で自分のキャリアプランを考えている優秀な人からは、本質を突いた質問が来ることが多いですね。「質問力がある人は、自ら課題の設定ができる人」。我々が求める人材もそうです。
採用で大切にしているポイントとは何ですか?
室田:「プロ的思考マインドと経営的行動マインドを持っている人」ですね。中途採用なのですから、即戦力なのは当たり前。将来、経営層に入ってきたいという気概を大切にしています。そしてなにより、「大きな企業より強い企業」というセキチューの経営理念に共感してくださる人。どんな能力や実績よりも、この志が大切です。
企業で活躍する人材を選ぶのは、経営者の仕事であり、経営戦略そのもの。なぜなら、「経営理念を最終的に具現化するのは人(ひと)」だからです。
ですから、採用には経営者が全力で関わるべき。ミスマッチを少なくするためにも絶対に必要な条件だと考えています。経営に責任のある人が出てきて、自社の理念はもちろん、場合によっては自分達がいま困っている部分までを正直に、誠実な気持ちをもって話すことが大切なのではないでしょうか。
地方企業が優秀な人を本気で採用したいと思うなら、経営者、自らが直接声をかけ、自社の理念や思いを熱意をもってストレートにぶつけることが大切。