総合超ホワイト企業は“怒りの芽”をうまく摘む
前回は、ノーベル賞を受賞された中村修二教授が、会社員時代に会社に対して感じた怒りを原動力に研究のモチベーションを上げていたという話を書きました。つまり、自分の怒りとの上手な付き合い方についてです。
今回のテーマは、「自分」ではなく「他人」です。未来工業の創業者で、今年7月30日に逝去された山田昭男氏による社員の有効活用法から、「他人の怒り」との上手な付き合い方を考えます。
残業禁止、1日7時間15分労働、年間140日の休暇
岐阜県大垣市に本拠を置き、電気設備資材等の製造販売を行う未来工業。この会社の人材管理は、他社と大きく異なっていることで有名です。
そもそも「社員を管理するなんて、まったくのムダだよ」と山田氏が述べていたことから、「管理」という言葉を用いること自体誤っているのかもしれません。
未来工業における会社と社員の約束事は、以下のようなものです。
これとは逆に、半ば強制的な長時間労働や、育児休暇に入る女性社員の冷遇、休日・休暇を取りづらいといった社風がある会社は、働く人の不満を生み、不満が溜まれば、それが「怒りのもと」となります。
しかし、未来工業株式会社では、相手の怒りのもとを見極めたうえで、不満の解消策を図ったと言えるでしょう。
さらに特筆すべきは、労働時間数が短くとも、業績が好調だということ。従業員数1136名にして、連結売上高は352億円(2014年3月期)で、前期実績から増収増益。また、業界で圧倒的なシェアを誇る自社製品も多く、施工業者からの評判も高いそうです。
60歳以上の社員の平均年収は約700万円とのこと。「日本一幸せな会社」と呼ばれるのもうなずけます。
「第1次感情」を見極めよう
さて、ここで怒りが発生するメカニズムについて説明しておきます。前連載である『フェデラー選手も学んだアンガーマネジメント』の第4回「無用なケンカを回避するこんな方法」に詳しく書いたことですが、怒りは第2次感情(セカンダリー・エモーション)といって、それが発生する前には必ず第1次感情(プライマリー・エモーション)というネガティブな感情の蓄積があります。
ネガティブな感情とは、不安、ストレス、悲しみ、苦痛、身体的な辛さ、妬み、自分の弱さ、絶望感、悲観などですね。長時間労働や休暇の少なさは、ストレスや身体的な辛さを生み、高年齢労働者の賃下げは、将来への不安につながり、育児休業を取得する女性労働者への冷遇も、同じく大きな不安や絶望を呼ぶことでしょう。
近年、職場での妊婦への不理解や冷遇を指す「マタニティ・ハラスメント」という造語ができ、社会問題としてもクローズアップされています。これはまさに、冷遇をされてきた女性労働者たちの「怒りの声」でもあります。
広島市の理学療法士の女性が、妊娠をきっかけに配置転換され、勤務先の病院を訴えていた裁判では、この事業者の姿勢を最高裁が厳しく批判する結果となりました。これは怒りの声が届いたと言えるでしょう。
未来工業株式会社の社員有効活用法は、働く人の第1次感情をしっかり見極めて、怒りの芽を摘んでいたと言えます。そして、怒りの芽を摘むことで、「自分たちは大切にされているのだ」と感じさせ、「頑張らなければ」という気概から積極的、能動的に働くようになるのでしょう。
女性労働者を大切にするという点では、故山田氏の言葉に、
といったものがあったそうです。ますます意気に感じますね。
アンガーマネジメントでは、原則「他人を変える」を目指しません。自分の怒りをマネジメントするための技術論ですから、自分の第1次感情を把握し、ネガティブな感情を溜め込まないための対処術や体質改善の技法が用意されています。
けれど、故山田氏のような考え方を貫き、相手の第1次感情を知ることで、他人の怒りにも振り回されづらくなってきます。
好意には好意が返ってくる
たとえば、パワハラ上司の激しい言動に「不安」という第1次感情が見え隠れていたとすれば、「この人は、器の小さい人なのだな。不安を打ち消すために怒鳴っているんだな。ちょっと間合いや距離感を変えてみようか」という判断を働かすことができます。
また、クレーマーからの猛攻撃の裏に「寂しさ」という第1次感情が感じ取れたとしたら、「あー、この人は、こんな寂しさがあるから、クレームをぶつけてくるのだな。ならば、寂しさを解消してあげるような会話をすれば、怒りが鎮火するかもしれないな」といった対応を心掛けるのです。相手の気持ちが和らげば、反応が変わってくるかもしれません。
「好意の返法性」といって、人は相手から何らかの施しをしてもらうと、お返しをしなければならないという感情を抱く心理があります。そして相手からの好意に対して、 自然とその人へ好意的または友好的な振る舞いをするというものです。
相手の怒りの芽(もと)を見極め、好意的な対応等、適切な判断をくだせれば、きっと職場も活性化してくることでしょう。アンガーマネジメントに興味を持たれたかたは、拙著『パワハラ防止のためのアンガーマネジメント入門』(東洋経済新報社)をご高覧ください。