「超日本的企業」の実態とは 初の外国人取締役が物申す

総合「超日本的企業」の実態とは 初の外国人取締役が物申す

三菱重工業は2012年に、一橋大学大学院商学研究科教授のクリスティーナ・アメージャン氏を初の外国人社外取締役として招いた。長年にわたって日本企業の経営について研究してきたアメージャン氏は、三菱重工を意思決定の遅い「スーパー・ジャパニーズ・カンパニー(超日本的企業)」と断じ、社内の改革を厳しく監督してきた。その三菱重工に少しずつ変化がみられ始めたという。

社外取締役を引き受けた時に、大宮英明会長などから「ぜひ三菱重工に来てほしい」と強く請われたと聞いた。なぜ、引き受けたのか。

クリスティーナ・アメージャン氏
1987年米スタンフォード大学経営大学院でMBA(経営学修士号)、95年米カリフォルニア大学バークレー校でPh.D.(博士号)を取得。三菱電機、ベイン・アンド・カンパニーなど民間企業での勤務経験を経て、95年米コロンビア大学経営大学院助教授。2001年一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授。2004年同教授。2010年4月同研究科長。2012年4月から一橋大学大学院商学研究科教授を務める。研究テーマはコーポレート・ガバナンスや、東アジアおよび欧州、米国の資本主義の比較制度など。日本在住は17年で流暢な日本語を話す。(写真:都築雅人、以下同)

アメージャン:最初に社外取締役に就任する話が来たとき、絶対に受けないと考えていました。建前だけで社外取締役に招かれ、ただの「お飾り」になってしまうのが嫌だったからです。三菱重工業のイメージは意思決定が遅く、経営が内向きな「スーパー・ジャパニーズ・カンパニー(超日本的企業)」でした。社外取締役のオファーについて、日本人の恩師などにも相談しましたが、皆「やめたほうがいい」と助言をくれました。「三菱重工よりももっと改革に取り組んでいる会社があるから」という理由でした。

そこで、どのような会社かを判断するため、三菱重工の経営陣に対する講演を引き受けたのです。厳しい話をして、どのような反応をするか見るつもりでした。高齢の経営陣が多いうえ、頭が固いのでグローバル経営では意思決定が遅い。そうした経営の負の面を指摘しました。講演の後、大宮英明会長(当時は社長)と佃和夫相談役(当時は会長)がすぐに反応して、講演の内容を真摯に受け止めてくれました。経営陣の姿勢から三菱重工が変わる可能性を感じ、「1年やってダメだったら辞めよう」という気持ちで引き受けることにしたのです。

取締役会ではどのような課題を指摘しているのか。

アメージャン:取締役で私は「Who is accountable?(誰の責任なの?)」と言って、責任の所在を厳しく問い詰めています。例えば、「検討します」という返事。何を、何時までに、誰の責任で検討するのか。あいまいさでごまかさないように追求するのが私の役目だと考えています。

ただ、社内の暗黙知があるので説明が足りず、会議に参加していても話の内容がよく分らないことがありました。例えば、経営陣にはエンジニア出身者が多く、会議に分厚い資料を持ってきて製品の技術論ばかりを話していました。私が聞いてもよく分らない内容です。本来、取締役会に必要な戦略的な話ではありませんでした。

こうした会議の様子は宮永俊一社長が変えてきました。まずは4つのドメイン制に移行したことで、取締役会への参加者が減り、話し合いがスムーズになりました。そして、宮永社長が経営陣に「分厚い技術資料などは必要ないので、企業戦略や新規投資の話をしましょう」と説明して会議の質を変えてきたのです。

米ゼネラル・エレクトリックと対峙した仏重電大手アルストムの部門買収交渉では、どのような議論を展開したのか。

アメージャン:宮永社長の動きの早さに驚きました。私が社外取締役に就任した1年前とは全然、経営のスピード感が違った。議論の詳細は話せませんが、宮永社長は取締役と情報を共有して、世界的なM&A(合併・買収)合戦に臨んだのです。

情報共有は徹底していました。通常、日本の会社では社外取締役が重要な決定に加わっていると、「秘密が漏れてしまう」と警戒します。この点、宮永社長の説明は私に対しても丁寧で非常に良かったと思います。もうひとつ三菱重工の「変化」を感じたのが、自社の能力で製品を作ってしまおう、という自前主義が大きく変わり始めたという点です。最近では経営会議で「検討します」という回答も減ってきました。

ただ、過去の三菱重工に比べてスピードは速いのですが、まだまだ(海外競合と比べれば)遅い。例えば、海外の現地法人ではようやく現地人のトップが誕生しました。2012年頃には、外国人が経営陣に加わるような雰囲気がありませんでしたから、進歩はしています。現在も一生懸命(外国人トップを)育てようとしていますが、どれほどの人材がいるかは分らず、取り組みは遅いと感じています。

人員削減を伴う組織改革などについて、日本は欧米に比べて難しいという見方もある。

アメージャン:そうとは言い切れません。欧州は労働組合の力が強いため、人員削減が日本より大変な場合があります。日本では確かに法律上(従業員の解雇は)難しいと言われますが、それを言い訳に使っている会社もあるのです。会社の歴史観に対する憧憬が強い。100年企業、1000年企業といった歴史ある企業が大好きでしょう。確かに100年続いた企業は良い会社かもしれませんが、既に力を失ったゾンビ企業かもしれないと考えなければなりません。

地域ごとに工場の力が強かった三菱重工はこうした日本的な組織を意識的に変えています。背景には宮永社長を始め経営陣に、国際的な競争で取り残されるという危機感があるからです。実際に変化は起こっています。業績は改善してきました。市場からも評価されて株価も堅調です。ただ、改革の成果が出るには、まだ長い道のりが続きます。社外取締役として私は、わずかな成果に三菱重工が楽観的にならないよう、ウオッチドックとして見守りたいと考えています。

日本の代表的な製造業としてトヨタと比較すると三菱重工はどのように見えるか。

アメージャン:トヨタと三菱重工は同じ日系メーカーと言っても単純に比べられません。トヨタはクルマという1つの製品を数十年にわたって製造している。その中で生産方式を磨いてトヨタウェイとして海外に展開しました。一方、三菱重工には「三菱重工ウェイ」がありません。それは当然で、あらゆる製品を製造しており、各製品分野でテクノロジーが急速に進化している。だから、単純にトヨタウェイを取り入れて事業が改善するというわけではありません。

日本の会社の問題点だと思いますが、ビジネスモデルが全く違うのに、上手くいった生産方式などを真似て取り入れるきらいがあります。だから、三菱重工には「○○ウェイ」はいっそないほうがいい。基本的な原則だけを決めておけばいい。三菱重工の場合はドメインやSBU(ストラテジック・ビジネス・ユニット)ごとに生産手法や競合との戦い方が違ってくるはずです。

米GEや独シーメンスなど、世界の巨人との違いはどこにあるのか?

アメージャン:三菱重工は日本では存在感が大きいが、世界に出るとGEやシーメンスと資産規模や時価総額で大きな差があります。部門によって世界の巨人と戦える分野もありますが、全体的にみれば競合との戦いに、経営陣は怖さを感じるでしょう。

それは良い傾向と言えます。2012年に社外取締役に就任した当時は、会議でGEやシーメンスの話がほとんど出てきませんでした。国内だけでビジネスが成り立っていた時の感覚が抜けていなかったためです。私は経営陣に日本の大手企業の世界市場でのポジションを示した図を何度も示してきました。例えば、食品分野で味の素は日本有数の企業ですが、スイスのネスレと比べるとその規模は小さい。世界市場から鳥瞰して自社を捉えるという考え方を伝えることに力を入れたのです。今では経営陣の中に「生き残るためにどうするべきか」という危機意識が芽生え始めたように思います。

世界のライバルと戦ううえで、三菱重工の課題はどこにあるか

アメージャン:今はなにより「実行力」が問われています。なぜかといえば、経営陣と中間管理層の危機意識がずれているからです。経営陣は海外を動き回って欧米のライバルと勝負する場面で、恐怖感を感じる機会が増えています。中間管理層は目の前の仕事を成し遂げることに追われるため、どうしても危機意識が会社全体に及びにくい。これは三菱重工だけではなく、日本企業に共通する問題ですね。

日本の大手企業は終身雇用を続けている会社が多い。同じ会社で日本的な働き方で偉くなった管理職が40~50代になって、いきなり働き方を変えて違うことができるとは考えにくい。だから、経営陣がしっかりと危機意識を伝えて、現場で変革を実行できる人材をどれだけ育成できるか。それが改革を成功させられるかどうかのカギとなるでしょう。