なぜ長寿企業は「人材育成」が上手なのか

総合なぜ長寿企業は「人材育成」が上手なのか

世界から見ても、日本は創業100年以上の長寿企業の宝庫と言われています。なぜそんなに長寿企業が多いのか、長く繁栄する秘訣はどこにあるのか。その謎を解き、いまの日本企業が学ぶべきことを探ろうと、このたび『創業三〇〇年の長寿企業はなぜ栄え続けるのか』を出版しました。これまで2回にわたって300年以上の歴史があり50億円以上の売り上げを誇る「日本型サスティブル企業」について解説してきました。


最終回の今回は、これらの企業の「人材育成」について見ていきます。企業を長く存続させるためには、社長や後継者だけでなく、社員一人ひとりが構成する組織が変化に対応し、その企業の社風を体現することが必要です。このような社員を育てるため、組織構成員の相互の関係性の中で学習する方法を中心に据えているケースが多く見られます。

機能不全のOJT

いわゆるOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)は、広く用いられている人材育成の方法であり、職場の上司や先輩が部下や後輩に対して具体的な仕事を通じて、仕事に必要なスキルと考え方を習得させる企業内教育です。これまでの日本企業は、終身雇用を背景にした継続的なOJTによる組織学習が強みのひとつと言われていました。

しかし、最近そのお家芸であったOJTが上手く機能しないという話が多く聞かれます。低成長による育成機会の減少、非正規社員の増加やリストラ、転職による雇用の流動化、経費削減に伴う社内飲み会の減少、産業構造の変化、多様性のある集団、短期成果の追求、若手の価値観の大きな変化など、さまざまなビジネス環境の変化があり、組織の慣性や時間の経過とともに自然にでき上がったOJTのままでは機能しにくくなっているのかもしれません。

徒弟的システムを上手く活用

このような時代背景の中、日本型サスティナブル企業には、徒弟制度的な仕組み、つまり正統的なOJTをしっかりと根付かせ有効に活用しているケースが多く見られます。

組織学習の場である会社に新しいメンバーが加わると、熟達者=中心的存在のメンバーである先輩社員や経営者、顧客を含めたステークホルダー全員が教師になり、新メンバーを含めた学習が回り始めます。新入社員は、ステークホルダーである教師との間で徒弟制度的プロセスを経て、その実践共同体の価値観やコア能力を発揮するといった社風を体現する社員に成長していくのです。徒弟制度的プロセスは、次の4つのプロセスから成り立っています。

① 規範と目的の提示
最初は周辺的(レストラン修業で言えば皿洗いなど)な仕事をしながら、先輩の仕事のやり方を観察し、自分が会社の一員であると認識する段階です。

②親方による個別指導
先輩が適切な課題を選んで、手取り足取り教えながら、失敗を通じて学んでいく段階。例えば、顧客との接し方などを先輩が指導しながら、顧客や仕入先との交渉を初めて経験します。失敗しながら学び、先輩の仕事を見よう見まねでできるようにするイメージです。

② 独り立ちの足場作り
一通りの仕事ができるようになり、独り立ちの準備をしていく段階です。例えば「○○さんらしい」と言ってもらえる仕事の実践を通じて学び、実感する段階になります。

④支援を減らし自律に導く
必要なこと以外は口出ししないようにして、先輩が離れていき、独り立ちする段階です。

これらの段階を、上司や先輩に加え、顧客などのステークホルダーを教師にして、社会的実践を通じて学び成長することでアイデンティティを確立し、新参者から価値観やコア能力を体現できる組織の中心的存在になっていくのです。

寮生活や合宿、クラブ活動で「らしさ」を伝授

日本型サスティナブル企業には、職場でのOJTをサポートするような仕組みをもっているところがあります。

名古屋に本社を置くある日本型サスティナブル企業においては、入社した男性新入社員は、入社1年間は独身寮に住むことが義務づけられています。性別、国籍を問わず、2人部屋・年に3回部屋替えが行われ、同室者が替わるという制度を有している企業もあります。

近年は経費削減や世代の変化により、企業寮そのものが減少傾向にある中で、1年とはいえ入寮が義務づけられているのは時代に逆行したルールなのかもしれません。しかし、その会社の寮は自治寮として運営され、しつけ等も含め共同生活を通じて社会人としての基礎教育の場と捉えられ、継続されています。そして寮の活動を通じて他部署の先輩と積極的にかかわり、部署や入社年度を超えた強いつながりが自然に生まれる場になっているのです。「この寮生活が忘れがたい経験なっている」という話はあちら、こちらで聞きました。

また、同社はさまざまな「クラブ活動」にも、多くの従業員が参加しています。世代を超えた活動が「らしさ」のを伝えるキーのひとつになっていることは想像に難くありません。

京都の日本酒メーカーは新卒内定者研修の一環で酒造り研修を行っています。これは内定者と入社1年目の社員に酒造りの工程の一部を体験させるもので、泊まり込みの研修です。内定者はまだ正式な社員ではないのでホテルに宿泊しますが、1年目の社員は同社施設で全員寝泊まりをします。自社の本業である酒造りがどういうものであるかを新入社員の時に知ることは、たとえ数日でも強い体験となるのです。

製造部門の古参社員に現場で教えられることは、研修会場で聞くより何倍ものリアリティがあります。そして同期や年齢の近い先輩と一緒に体験することで、自分たちの絆が深まる効果もあります。1年目社員の中では特に営業部門の者から「もっと体験したい」という声が聞かれるそうです。日々酒造りに接していない社員にこそ、このような体験は貴重なのかもしれません。

当たり前のことを当たり前のように

こうしてみてくると、日本型サスティナブル企業は極めて特殊なことをしているというよりも、一昔前は当たり前のように多くの日本企業が実施していた制度や仕組みを、「企業は人なり」といったたぐいの信念に基づいて継続しているのだと言えるでしょう。

多くの日本型サスティナブル企業の経営者の方々は、インタビューの中で
「普通でしょ」
「あたりまえのことをしているだけ」
「顧客第一に考えているだけ」
「従業員満足はとても大切」
「大事なことはやめない」
そんな発言を繰り返されました。

合理化という流れの中で、日本が、日本人が、日本企業が大切にしてきたものを失ってきているケースが多くなっているのかもしれません。そんな時代だからこそ、300年間の長きにわたり、荒波を乗り越え続けている先輩企業から学ぶべきことがたくさんあるように思います。

グロービス経営大学院では、『創業三〇〇年の長寿企業はなぜ栄え続けるのか』の出版を記念してセミナーを行いますので、ふるってご参加ください。