総合企業も注目!増える「共感転職」
9月22日の午後6時。週が始まったばかりの月曜夜にもかかわらず、東京都渋谷区のある会議室は大勢の若者が詰めかけ、熱気にあふれていた。
会議室ではあるイベントが開かれていた。潜在転職者と企業をインターネットを介して結びつけるサービスを手掛けるウォンテッドリー(港区、仲暁子CEO=最高経営責任者)が仕掛けたイベント「リアル・ウォンテッドリー」で、700人を越える若者が集まった。20~30代が中心で、転職を考える人が7割、新卒採用として入社を検討する学生が3割を占めた。

IT(情報技術)系やベンチャーを中心とした46の企業がブースを構え、来場者に自社をアピールする。概要を見れば合同の転職フェアのようだが、会場の雰囲気はまるで学園祭だ。通常の就職や転職のイベントならば、企業がブースを設けて用意した資料を見せ、来場者に会社説明をする光景が一般的。だが、このイベントでは企業も個人も、その多くは用意した椅子に座らず、立ち話で盛り上がっている。
「よければ今度、会社へ遊びに来ませんか?ランチでもご一緒しましょう」
企業の担当者は、話が合う来場者に対して気軽に声をかける。このフランクな関係から採用に結びつけるのが、ウォンテッドリーが築いた新たな採用スキームだ。
潜在的な転職者を掘り起こす
ウォンテッドリーは2010年に創業したばかりのベンチャー。創業者の仲暁子CEOは2008年に京都大学を卒業してゴールドマン・サックス証券に入社し、Facebook Japanの初期メンバーとして参画した後に自らウォンテッドリーを立ち上げた異色の経歴を持つ。
採用系ベンチャーは数多い中で同社に注目が集まるのは、企業と求職者のマッチングがユニークな点にある。それが「共感」だ。
20~30代の若年層は、「転職の壁」の意識がかつてに比べて低い。とはいえ、転職エージェントに登録する人はまだ少数派だ。現状の仕事にはそこそこ満足しているが、もっと刺激的な仕事がしたい。あるいは、職場のメンバーや環境が良い場所があれば転職したい。そういった潜在的な転職者をインターネット上のコミュニティーで集めている。
企業もまた、採用で悩みを抱えている。急に募集をかけても求めている人材が集まらない。採用したものの、想定していた人材とは違った。人事が採用した人材が、チームのメンバーとウマが合わない。コストはかかる一方で、せっかく採用した人材が早々に離職してしまう――。このようなミスマッチが少なくない。
4500社、30万人が利用
これを解消すべく、インターネットを活用した採用スキームをウォンテッドリーが開発した。フェイスブックなど、SNSを活用して人材を募集する企業を紹介。人材を募集する企業や団体が、仕事の内容やチームのメンバーを紹介するページを作成すると、ホームページ上に掲載される。利用企業数は約4500社。月額の登録料は3万~3万5000円程度と比較的安く、採用が決まった時の成果報酬が発生しないため、気軽に活用する企業が多い。ユーザーは約30万人で、半数近くが20代を占める。
ウォンテッドリーのページを見ると、求人内容が会社ごとに並んで掲載されている。ページの中には、仕事内容や組織の方針に共感する人が賛同を表す「応援」というボタンがある。フェイスブックの「いいね」のようなもので、クリックすると企業の募集要項がSNSを通じて拡散する仕組みだ。「賛同する人の友人や知人の目にも触れるため、転職を意識していなかった人の中で、より共感度の高い人に広がる」(仲CEO)。
「会社へ遊びに行く」という項目もある。これに登録すれば、採用面接という形ではなく、フランクな形でお互いを知ることができる。会社訪問や、チームメンバーとランチを共にすることでコミュニケーションを取っていき、お互いに共感し合えば転職や採用のステージへと高めていく。
採用スキームを変える企業も
共感採用を導入する企業も増えている。ヤフージャパンやディー・エヌ・エーは中途採用で多く活用しており、「スープストックトーキョー」を運営するスマイルズは、中途採用だけでなく、新卒採用も含めて採用をこの共感採用に切り替えているという。
活用するのはIT企業やベンチャーだけではない。タクシー会社の日本交通もまた、この共感採用で優秀な人材の獲得に成功している。リアル・ウォンテッドリーの会場で、ひときわ目立つ赤と白のロゴの前で来場者に声をかけていたのが、川鍋一朗社長その人だ。

外資系コンサルティング会社のマッキンゼー出身で、3代目として多額の借金を抱えた日本交通を引き継ぎ、経営改革に成功した実力派。経営改革の1つが、業界では初の全国配車アプリの開発だ。スマートフォンを活用し、スムーズにタクシーを呼べるアプリを開発して顧客の利便性を向上。今後もIT投資を考えているという。
「一般的な人材募集では、日本交通に優秀なIT技術者は集まらない。彼ら彼女らのキャリアパスに日本交通は入ってこない。それを変えたかった」と川鍋社長は語る。
乗務員を除く社員の平均年齢は45歳。創業86年の老舗企業にはなかなか若くて優秀な人材が入ってこなかったという。
川鍋社長はウォンテッドリーを活用して、ITとは無関係に思える会社のIT革命によるインパクトを力説。仕事のやりがいなどを説いた結果、米スタンフォード大学出身の人材獲得に成功した。今回のイベントも、新たな人材の獲得に向けて社長自ら会社のアピールに来たというわけだ。
仕事を選ぶ基準にも変化が見えている。知名度や給与水準だけでなく、働きがいやチームのメンバーとの一体感を基準に職場を選ぶ人が増えてきた。採用したい企業と求職者が「共感」を基に結びつく事例は今後も増えていきそうだ。