雇用は改善しているのに給与が伸びにくい理由とは

総合雇用は改善しているのに給与が伸びにくい理由とは

日本の雇用は、有効求人倍率、完全失業率ともに順調に回復しています。有効求人倍率は昨年11月以降、1倍を超える水準を保ち、直近では1.10倍です。完全失業率も3%台後半まで低下しました。ただ、一人あたりの給与総額の平均を示す「現金給与総額」は、前年比1%程度の増加に留まっており、物価の上昇を考えれば、それを補うほど大きく伸びているわけではありません。

この背景には、企業は、人手不足を非正規雇用者の増加で賄おうとしていることがあります。米国でも問題になっている雇用の「質」という点では懸念があり、給与の伸びを考えれば、景気を押し上げるには力強さに欠けるのではないか、と私は感じます。

今回は、雇用統計を細かく分析しながら、雇用の質について考えます。

給与は総じて増えているが、インフレ率には勝てない

6月の現金給与総額の内訳を見ますと、業種によってバラツキがあります。

01

「きまって支給する給与(基本給+各種手当+残業代)」を見ますと、鉱業・採石業、建設業、製造業、卸売業・小売業、不動産・物品賃貸業などが伸びています。人手不足や業績アップが給与アップに反映しているのです。

特徴的なのは、飲食サービス業です。「きまって支給する給与」は前年比1.1%増。そのうち、残業代を含む所定外給与が同比6.3%と大幅に増えているのです。人員不足から、残業によってカバーしている様子が窺えます。

全体的に見ますと、所定内給与よりも、残業代が含まれる所定外給与や、賞与が含まれる「特別に支払われた給与」の伸びが、現金給与総額全体を押し上げている様子が分かります。企業は、ベースアップよりも賞与を増やして業績の上昇分を働く人に配分しているのです。

現金給与総額はパートタイム労働者の伸びのほうが小さい

興味深いのは、次の「就業形態別月間現金給与総額(6月)」です。フルタイム勤務者である「一般労働者」とパートタイム労働者の現金給与総額の前年比伸び率の比較です。

02

「きまって支給する給与」をみると「一般労働者」の合計(調査産業計)は、前年比0.8%増。そのうち、事業所規模30人以上は同比1.2%増です。ここでも、賞与などの「特別に支払われた給与」の増加が顕著です。

一方、「パートタイム労働者」を見ると、「きまって支給する給与」では、調査産業計は同比0.7%増、事業所規模30人以上は同比マイナス0.1%となっています。企業はパート労働者を増やしたいということを見ると意外です。これは、扶養の枠によって自分の所得を抑えている人もいると思いますが、この統計では、いずれにしてもパートタイム労働者の伸びの方が小さいと言えます。

いずれにしても、一般労働者とパートタイム労働者ともに、この程度の伸びでは、物価上昇率をカバーできていません。6月の消費者物価指数(前年比)は、3.3%もありますからね。

正社員の有効求人倍率は依然として低い

続いて、有効求人倍率(6月)を見ていきます。全体では1.10倍と高水準を保っていますが、内訳はどうでしょうか。さらに詳しく見ていきましょう。

03

このデータは、ハローワークの求人票と離職票の数がベースになっています。

「パートタイムを除く常用」の有効求人倍率は、0.83倍です。そのうち、「正社員」は0.68倍。「常用的パートタイム」は1.05倍となっています。全体の数字が1.10倍でも、正社員は0.68倍しかないのです。

正社員の数字は一年前の0.55倍よりはかなり改善していますが、それでも正社員になりたい人全員が仕事を得られる水準よりはかなり低いことが分かります。

景気がよくなって、一部の業種では人員不足が問題になっていますが、それでも企業は正規雇用についてはいまだにかなり慎重です。

一方、「常用的パートタイム」の有効求人倍率は1倍を超えています。特に、「新規求人倍率」(新規の求職に対する求人数)は1.81倍とかなり上昇しているところを見ますと、企業が人手不足をまずは、常用のパートタイム労働者でカバーしようとする様子が窺えます。それでも足りない分を、正社員を増加することでカバーしようとしているようにも見えます。

また、現金給与総額とも関連しますが、正社員とパートタイム労働者との間には賃金差があります。つまり、企業は正社員よりパートタイム雇用者を欲しがっているのです。

企業は、好景気によって人が足りなくなってきて、新規求人を増やしていることは間違いないのですが、今のところ、パートタイムの求人の方が正規雇用よりずっと多いのです。しかし、それでも人員が確保できないから、正社員の求人も少し増やしているというわけです。「雇用の質」ということが言われるのはこのためです。

私のお客さまである経営者の方々からも、人員確保に頭を悩ませているという話をよく聞きます。できればパートタイム採用を増やしたいのだけど、なかなか確保できないから、新卒でカバーしようと考えているそうです。

新卒であれば、給与もそれほど高くないうえ、企業への愛着も転職者よりも比較的高いですから、企業にとっては好都合です。しかし、多くの企業が同じことを考えますから、新卒もなかなか集まりません。

こういった状況が、現金給与総額や有効求人倍率に現れていると感じます。

有効求人倍率は都道府県によってばらつきがある

次に、「都道府県別有効求人倍率(季節調整値)」を見てみましょう。有効求人倍率(求人数÷求職者数)は、各都道府県によって、大きな差があるのです。

04

2014年6月の数字を見ていきます。いつも最下位を争っているのが、沖縄県0.68倍、鹿児島県0.74倍、青森県0.80倍、高知県0.85倍です。高知県と青森県は、前年同月よりかなり改善しました。

最も高いのは、愛知県1.57倍です。同県東部には、トヨタ自動車やデンソーなどの自動車関連の大企業が集まっていますから、好景気になると雇用が大幅に改善するのです。自動車関連企業が多い関東内陸の群馬県や栃木県なども同じ傾向があります。

また、岡山県や香川県などの瀬戸内沿岸地域も総じて高くなっています。この地域は、造船、ケミカル、一部製紙業などが盛んな工業地帯ですから、雇用も安定しているのです。一方、先ほど見たように、高知県はそれよりもかなり低い状況です。

意外と高いのは北陸地方です。富山県1.42倍、石川県1.30倍、福井県1.50倍。元々豊かな地域ですが、YKKやセーレンなどの有力製造業も少なくありません。そして、地理的には日本の中心部に位置し、トラック配送での利便性が高いことなども工業発展のベースとなっています。

このように、有効求人倍率は、地域ごとに大きなばらつきがある興味深い指標なのです。このことに関連して、全体的に景気が向上し、雇用が改善していると言っても、その温度差は地域によってかなり違うということです。

雇用の改善は、消費に結びつくのか?

指標を見る限り、「雇用の質」の問題はあるものの、国内の雇用は順調に回復していると言えます。完全失業率も戻してきており、5月は3.5%まで低下しました。6月は若干上昇して3.7%となりましたが、これは労働市場への参加者が増えていることも考えられます。いずれにしても、ほぼ自然失業率に近いと考えられます。

そして、先ほども触れましたが、6月の有効求人倍率は1.10倍まで上昇しています。

ただ、現金給与総額はそれほど上昇していません。6月は1.0%しか増えていないのです。繰り返しますが、この指標は、一人あたりの給与総額の平均ですから、一部の企業が賃上げを行っても、非正規雇用などの比較的低賃金の雇用が増えれば、減少するのです。

一部の業種では、雇用が逼迫していることは間違いありませんが、先ほども見たように非正規雇用者の増加が大きいですから、一人あたりの平均給与の上昇に結びつきにくいということです。

大切なのは、これが消費増に繋がって景気が回復するか、という点です。

雇用者数自体は増えていますから、日本全体の所得は増えていると言えます。それが全体の消費を押し上げることに貢献することは間違いありません。

しかし、消費者物価の上昇も、もちろん国民全員に対する負担になります。ですから、一人ひとりの給与の増加率がインフレ率を超えなければ、理論上、長期的に消費が安定して増えることはないのです。

そういう点を考えると、今後、景気が失速するかどうかは、微妙なところだと感じます。

今後の注目点は、7月の現金給与総額

今後の注目点は、7月の現金給与総額です。理由は二つあります。一つは、7月は多くの企業で賞与が出ますから、もし、これが大きく伸びていれば、消費が刺激される可能性があります。

先ほどの現金給与総額の内訳を見ると、特に伸びているのは、賞与が含まれる「特別に支払われた給与」です。経営者の立場からすると、業績が上がったとしても、基本給を上げるより、賞与を増やすことで調整をしたいと考えます。基本給は一度上げてしまうと下げることがなかなかできないからです。従って、7月の現金給与総額は、賞与が出る影響で上昇する可能性が高いのです。

もう一つの理由は、7月に多くの企業が基本給を上げるということです。一部の企業では、春先に行われる組合との賃上げ交渉が、7月に反映されます。さらに、6月までに給与を上げてしまうと社会保険料が上がってしまうため、7月に給与を上げる企業が少なくありません。

以上の点を考えますと、7月の現金給与総額は、これまでより上昇すると期待できますが、どの程度上がるかに注目です。消費税増税もあり、前年比で3%以上上昇している消費者物価をどれくらいカバーできるかが焦点です。そして、それにより、4月以降3カ月連続でマイナスとなっている家計の消費支出が反転するかどうかがポイントです。消費税増税の影響を当初軽微だと見ていた人も少なくありませんが、まだまだ楽観視できる状況ではありません。