総合ファミマが新規事業を託した異業種人材
企業ケース(3)ファミリーマート
順調に拡大を続けていたコンビニエンスストア業界だが、近年の市場は飽和状態にあると言われている。大手のコンビニ各社はPB(プライベートブランド)の強化に乗り出し、他社との差別化を狙った商品をラインナップ。弁当の宅配など、新たなサービスの展開にも力を注いでいる。
現在、ファミリーマートは国内コンビニエンスストア(CVS)事業、海外展開、そして新規事業に積極的に取り組んでいる。国内では2014年度に過去最高の1600店舗の出店を計画、海外も台湾や中国を中心に約5200店舗を展開中だ。新規事業にも意欲的に挑戦、ドラッグストアやスーパーマーケット、カラオケ店、外食店と一体型店舗を展開している。
「社会・生活インフラ企業」としての小売り業態の新たな形を追求すべく、菊池雅也氏(36歳)は、2014年3月に立ち上がったばかりのファミリーマート新規事業本部で力を発揮している。

2013年より、ファミリーマートは各地のドラッグストアと提携して新しい形の店舗を展開し始めている。コンビニとドラッグストア、それぞれの専門性とを兼ね備えた店舗だ。
そこでは弁当や飲み物といった商品はもちろん、ATMや公共料金の支払いなど、ファミリーマートならではの商品やサービスが取り扱われている。加えて、医薬品や健康食品、化粧品など、ドラッグストアにおいて売り上げ構成比の高い商品が並ぶ。
もちろん、店舗の営業時間は24時間。ドラッグストアの登録販売者も24時間常駐することで、一般用の医薬品がいつでも手に入るのが魅力だ。
ファミリーマートでは「社会・生活インフラ企業」を目指し、新たな取り組みに力を入れている。たとえば、電気自動車用の急速充電器を設置した店舗の拡大もそのひとつ。電気自動車の走行を支える充電のインフラ拠点としてコンビニがその役割を担えるのではないかという発想のもと、現在数十店舗がトライアルを行っているという。
こうした新規事業を検討し、迅速に立ち上げるために、ファミリーマートは2014年3月に新規事業本部を発足させた。この新規事業本部の立ち上げと同時に入社し、活躍中なのが、菊池雅也氏だ。前職のコンサルティング会社で事業立案支援などにも携わってきた菊池氏は、その知見をもとに、ファミリーマートでの新規事業開発に携わっている。すでにいくつかのプロジェクトが同時並行的に進んでおり、それらのマネジメントに力を注いでいる。

新規事業開発本部 新規事業開発部 新規事業開発グループ。大学を卒業後、マーケティングの会社に2年半在籍。その後、コンサルティングの会社に10年半在籍。小売り流通業の企業に対するコンサルティング経験を有する。2014年2月、ファミリーマートに入社。2週間の実地研修ののち、新規事業本部の立ち上げと同時に配属される
コンサルティング会社で活躍していた菊池氏は、小売り流通業のクライアントに対するプロジェクトに携わったことがあり、業界に関する知見を持っていた。また、ビジネスを語る上で欠かせないITソリューションに関する案件も数多く手掛けた経験があり、その全てがファミリーマートの新規事業開発に活かせていると話す。
「もちろん、個々のプロジェクトの経験もそうですが、コンサルティング会社で培ってきたロジカルシンキングといった基本も大いに役に立っています。課題の発生要因を特定し、課題解決策を模索していくといったコンサルタントの基本スタンスは、事業会社における新規事業開発においても不可欠なスキルです」(菊池氏)
すべてのフェーズを手掛ける
菊池氏が転職を考えたのは、事業コンセプトの立案だけではなく、実際に事業を回していく経験も積みたいと感じたことがきっかけだ。
「コンサルタントという立場では、最後に事業を着地させるところまで関わりきれないこともあります。トライアルでは大丈夫だと思ったのに、本格展開してみたらなかなか黒字化しないなどという局面もありうるのが、事業会社の実際。その最後の部分まで関わり、事業として安定させるまでのすべてを経験したいというのが、転職を考え始めたきっかけでした」
ファミリーマートに興味を持ったのは、「インフラとしての期待の高さはもとより、拠点が多く、消費者との接点が大きいというなかで、新規事業としてトライできる幅が広いのではないかと思ったから」と、菊池氏は語る。
「最終面接では、新規事業本部の本部長と総務人事部長の2名が対応してくださいました。こちらからもいくつか質問をさせてもらったのですが、お二人とも『社会・生活インフラ企業』を目指すべきという認識を持っていらっしゃいました。また、自分が仮説として考えた課題認識との共通点を確認できたことも決め手となりました。さらに、新しい組織を一緒に盛りたててほしいという言葉をいただき、ぜひ参加させてほしいとお返事をしました」
実はその面接のとき、菊池氏はカバンのなかに、自分なりに考えたファミリーマートの課題と新規事業として目指すべき方向性、そして、事業コンセプトの案をまとめた資料を潜ませていたという。面接においてそれを発表する機会は訪れなかったが、今後新規事業を企画していくなかで、徐々にその案を溶け込ませていくことができたらと嬉しいと、菊池氏は話す。
菊池氏は、新規事業のコンセプト作りから始まり、そのコンセプトを具体的なサービスモデルに落とし込んでいく作業や、落とし込んだものの事業性を検証していく作業などを手掛けている。その後、トライアルとしてプロトビジネスを作って実際に回してみる実証実験や、正式展開前の仕込みなど、数々のステップを踏んで実際の事業へと展開していく。
新規事業のイメージとしては、社会・生活インフラに資するようなサービスを作り上げていくことを目的に、さまざまな事業を計画中だ。
「例えば、今後の超高齢化を無視することはできません。ターゲットとしては、高齢者のみならず、そのお世話をする人も含まれます。社会動向の変化に応じてひとりひとりのライフソリューションは変わってきますが、そこにファミリーマートがどんな価値を提供できるかに注目し、事業を計画していきたいと考えています」
新組織を社内に根付かせるための交流にも尽力
さらに菊池氏は、新規事業本部というできたての組織の課題を解決すべく、社内的な協力体制の強化にも力を尽くしたいと語る。具体的には、案件ベースで新しく関係ができた人や部署と交流を計り、食事を一緒にするといった草の根的な交流はもちろん、ミーティングに参加してもらって話を聞くなどという機会を意識的に設けるようにしているという。
「これまでは、商品開発や物流といった部署それぞれに新しい試みを行っていましたが、それらの部署を横断するような形でできたのが、新規事業本部です。そのため、いろいろな人たちと足並みを合わせて協力していかないと、事業は立ち上がりません。そのあたりは、社内的に調整をしなければならないポイントが多いと認識しています」
菊池氏自身、これまでの社会人生活では深い接点がなかったような、管理栄養士や薬剤師といった関係者との交流を楽しんでいる。業務上の接点の有無に関わらず、さまざまなバックグラウンドを持った社員との意見交換や交流は、継続的に行っていきたいと語る。
新規事業の立ち上げに関わるにあたり、菊池氏が大切にしていることがある。それは、あくまでも個人のお客様を対象にしたファミリーマートの新規事業であり、個人のお客さまにとっての付加価値とは何かというポイントを忘れてはならないという視点だ。
そのことを教えてくれたのは、入社後2週間にわたり現場で行った研修の経験だった。
「慣れない手つきでレジを担当していたら、ご高齢のお客さまが『入ったばかりかい?』と声を掛けてくれたんです。住宅街ののんびりとした雰囲気の店舗だったので、少し雑談を交わしたりしました。その後も『今日も会いに来たよ』と言って来てくださったんですが、こういう関係もいいものだなって、つくづく思ったんです」
顧客と家族的な関係性を築けるようなファミリーマートの魅力。新規事業は、その魅力を失うようなものであってはならない。
積極的な海外への出店や、新しい業態の店舗の展開など、さまざまな領域に経営を展開し続けているファミリーマート。経営戦略のなかでも人事戦略が重要と位置付け、採用に関しては多くの手法を使っての人材獲得に挑んでいる。経営戦略の実現にはスピードが大事と考えるファミリーマートの採用戦略とは何か杉浦真氏に聞いた。(聞き手は南壮一郎=ビズリーチ社長)

上席執行役員 管理本部 総務人事部長。1986年入社。店舗勤務からSV、営業所長の経験を経て、2001年に南関東地区の管理部門の部長に。その後地区責任者として、営業、店舗開発の統括部長を歴任し、2008年12月に総務人事部長に就任し今年で6年目を迎える。(写真:的野弘路)
ここ最近は、グローバル展開や新業態の店舗の開発など、様々なチャレンジが目立ちます。改めて、事業戦略について聞かせて下さい。
杉浦:今期は国内のCVS事業に加え、海外と新規事業という3つの軸を据えています。特にコンビニの出店は、国内のみならず、海外出店を加速化していかなければなりません。また新規事業は、ファミリーマートならではの新規事業ということで、コンビニと親和性の高い事業を検討していかなければなりません。国内出店数も維持していきながら海外にも新規事業にも注力していくというのは、我々にとっての新しいチャレンジです。
特に海外展開に関しては、日本発のCVSとして世界ナンバーワンを目指し、アジア圏を中心に拡大を続けていきます。すでに出店をしている国々においても、まだまだ出店の余地はあります。なおかつアジアは、マーケットバリューもまだまだ大きいと考えています。今後も引き続き拡大を急ぐ計画です。
新規事業開発のほうはいかがですか?
杉浦:コンビニと親和性があり、そのシステムを活かしたビジネスを考えていかなければならないと思っています。ここ近年では、ドラッグストアとの一体型店舗のほか、スーパーマーケットやカラオケ店とのコラボレーションも手掛けています。コンビニの新しいフォーマットを広げていくビジネスも計画しています。
こうした経営戦略のなかでも人事戦略、なかでも採用戦略が最も重要だと考えています。経営戦略を効果的に実現させていくためには、スピードが不可欠です。
その一環として中途採用で、ダイレクト・リクルーティングを始めました。どのような印象をお持ちですか?
杉浦:求職者がオープンにしている情報をもとに人材の詳細部分に踏み込んでいけるので、相当な早さで候補者が何人いるのか、どのようなバックグラウンドの人なのかといった情報が把握できると考えています。我々のニーズに応じた人材を見つけることができる、新しいやり方ですよね。人材紹介と並行して活用していけるという感触を得ています。とりわけ、自分たちで人材を精査できるというのがとても良いと感じています。
多チャンネルを駆使して必要な人材を獲得
これまで人材紹介会社やヘッドハンターのデータベースはブラックボックス化されていましたが、それをオープンにしたことで、企業側が自分たちで人材の詳細を見ることができるようになったというのが、ダイレクト・リクルーティングの利点のひとつです。
杉浦:転職に興味がある人たちが自らの情報をオープンにしているのですから、それなりに質は高いと感じています。グローバルや新規事業開発に携われる人という、我々のニーズに合っている人が多く存在しているという印象を受けますね。
弊社では、新卒、中途ともに相当なボリュームを獲得していかなければならないと考えています。前提としては、今後数年は大量出店を続けていくという経営陣の意志があります。当然事業規模の拡大につながりますから、それに応じた人材の確保が必要になります。具体的には、スーパーバイザーや店舗開発担当といった現場の最前線を中心に採用をしていきます。
それと同時に、さきほどからお話しているとおり、新規事業や海外展開といった事業領域が広がっています。そのため、様々な活動に携われる人材を獲得する必要があるのです。
新規事業や海外展開など専門知識を要するような人材に関しては、ダイレクト・リクルーティングを含め、人材紹介やヘッドハンティングなども駆使して採用を行っています。採用のチャンネルは、できるだけ広げておきたいと思っています。
スピード感あふれる人材を、素早く採用していく
異業種からの採用をどのように考えていらますか?
杉浦:同業者出身でなければ務まらないとは考えていません。むしろ、ファミリーマートという企業に融合できそうな人材を、広くいろいろな業界から確保していきたいと考えています。優秀で経験豊富な方であっても、我々の会社に融合しきれなければ、お互いに不幸ですよね。ですから、ファミリーマートの社風との融合という観点を大切にして採用を行っています。
他の企業でさまざまな経験をされてきた方は、いろんな意味で我々の手本となる人材であるはずです。社員に対し、そして会社全体に対して、たくさんの刺激を与えてくれると期待しています。
融合というキーワードに関して、人材を見極めるポイントとはどこにあるのでしょうか?
杉浦:我々のビジネスは、フランチャイズ・システムによるコンビニ事業です。ビジネスの相手は、エンドユーザーであるお客さまと、加盟店という2つが存在します。そこに対して上手く対応できる人というのが最も大切です。そのひとつの例として、スピード感ある対応ができる、行動力がある人が挙げられます。
その一方で、多くの考えを巡らせ、思考する力を備えている人であることも必要です。素早い行動力と思考する力。どちらかが欠けていてはダメです。
この業界は、変化のスピードが早い業界です。お客さんのニーズにすぐに対応しなければならないですから、社員も臨機応変に動ける人材でなければなりません。
さらに景気が上向いてくれば、人材の獲得がますます厳しくなることは容易に想像ができます。なおさら採用のスピードが要求されるようになると考えています。