企業の「伝統」を競争力に転換する方法

総合企業の「伝統」を競争力に転換する方法

クレイトン・クリステンセンは破壊的イノベーションの理論の中で、既存企業がいかにして自社の成功に溺れるかを解説し、それが戦略論の主流になった。企業の歴史や規模が資産と見なされたこともあったが、今日ではそれらは脆弱性と考えられている。

しかし、ディスラプションを回避して、繁栄し続ける企業は多数存在する。本稿では、既存企業が競争力を維持し続けるための方法論を、具体例とともに提示する。伝統企業が積み上げた資産を競争力に転換し、競争優位をもたらす3つのケイパビリティについて解説する。
『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2022年4月号より、1週間の期間限定で全文をお届けする。

既存企業が競争力を維持する方法

筆者らは数年前、ある伝統的大企業とともに、産業界の擬似的な墓地をつくった。その墓地は、経営破綻したり、売却されたりした大企業の名前が刻まれた墓石で埋め尽くされた。コダックやブロックバスター、ディジタル・イクイップメント・コーポレーション、パンアメリカン航空、ボーダーズ、HMV、ノーテル・ネットワークス、サーブといった、時代を象徴した企業が埋葬された。

この作業の狙いは、一つの問いについて、ビジネスリーダーにじっくり考えてもらうことだった。「既存企業の衰退は避けられないのか」という問いである。多くの企業リーダーはこの20年間で、企業の存続に対する問いと向き合うようになった。もしかしたら、向き合いすぎたのかもしれない。

長年事業を展開して盤石な市場シェアと多くの従業員を抱える企業は、20世紀の間は肯定的にとらえられていた。規模は資産であり、負債ではないと見なされていたのである。

しかし1990年代初め、IBMやゼネラルモーターズといった、長い間市場を支配してきた企業が多額の損失を出した。90年代後半には、ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセンが破壊的イノベーションの理論の中で、伝統企業がいかにして自社の成功に溺れるかを解説し、戦略論の主流になった。そこから一般的な考え方も転換した。

今日では、企業年齢の高さや規模の大きさは脆弱性と見なされることが多い。そして「レガシー」企業は、やがて自分より小柄で敏捷な少年ダビデに倒される巨人ゴリアテになぞらえられるようになった。企業がディスラプションに見舞われて滅びるのは避けられないという考え方が浸透し、多くの市場リーダーが守勢に回った。守りに入ってしまった企業の内部では、イノベーションや変革が絶望的と見なされてしまうことがある。

既存企業はディスラプションを避けられないのか。筆者らは別の道が存在すると考えている。既存企業は守りに入るのではなく、特徴的なマインドセットや行動様式を持つ「戦略的既存企業」として振る舞うべきだ。

戦略的既存企業とは、筆者ら独自の表現である。自社の歴史や規模、そして伝統を、市場支配力、ステークホルダーとの信頼関係、深い洞察など、優位性の確立に不可欠な要素にダイナミックに転換できる既存企業を指す。この転換をうまくマネジメントすることで、既存企業は自分たちのあり方や戦略、ビジネスモデルを改革し、新たな事業機会をつくり出すとともに、新興企業による挑戦をはねのけることができる。

では、どうすればよいのか。成功している既存企業は、厳しい状況を乗り切るためにどのようなステップを踏んでいるのか。他の企業よりいかなる点で優れているのか。そして、どのような落とし穴を回避しているのか。

このような質問に答えを出すため、筆者らは幅広い業種でグローバルに事業を展開する既存企業を3年にわたって調査した。

フォーチュン・グローバル500に加えて、研究で知りえた企業に6つの基準(社齢、市場シェア、不況期における財務業績、コア事業の適応力、第2の成長エンジンを生み出す力、芳しくない事態に直面した時のレジリエンス)を適用した。そして最終的に、困難を乗り越え、新興企業の挑戦をかわし、いまもなお繁栄している38社を特定した。これらの企業が1995年から2019年にかけてどのように活動してきたのかを徹底的に調査し、経営幹部を対象としたインタビューを何度も実施して、組織がどのように競争優位を維持しているのかを解明した。

筆者らが調査した企業は、長年優れた業績を上げているにもかかわらず、現状維持という誘惑に負けることはない。顧客ニーズは安定しているか、競合企業は明確か、ブランドは保護されているかなど、受け身の姿勢で既成概念を鵜呑みにするのではなく、みずから能動的に問いかける。顧客ニーズはどのように変化するのか、従来とは異なるプレーヤーから競争上の脅威はどのように生じるのか、ブランドロイヤルティが急速に変化し、競合ブランドがシェアを奪う可能性はあるか、などである。

また、このような組織は、既存企業であることを強みとしている。筆者らは研究の中で、組織に競争優位をもたらす3つのケイパビリティを特定した。すなわち、複雑性をマネジメントする能力、長期的な視座を維持する能力、信頼できる顧客との関係を活かして隣接領域に進出する能力だ。

本稿では、これらのケイパビリティを活用し、競争力を発揮してきた3社について詳しく解説する。

複雑性をマネジメントする

複雑性にはネガティブな意味合いが付きまとうが、良い面も悪い面もある。意思決定を遅らせ、社内に権力闘争をもたらし、忙しさを増大させる官僚的プロセスは悪しき複雑性である。逆に、売上げや利益を拡大し、連携やエネルギーを生み出し、焦点を明確にするものは、良き複雑性だ。

戦略的既存企業は、「悪しき複雑性」を組織的に排除し、「良き複雑性」を効果的に増大させる。規模の小さい競合他社が真似できない方法で幅広い顧客ニーズにアプローチしている。

価値をもたらす複雑性の例として、ユニリーバのインド子会社であるヒンドゥスタン・ユニリーバ・リミテッド(HUL)を挙げよう。2013年の時点で創業80年を迎えていた同社のCEOに就任したサンジブ・メフタは、社内に広がっていた考え方に異議を唱えた。それは国内最大手の日用消費財メーカーである同社に成長の余地はほとんどないという考え方で、彼は反論するためにシンプルな問いを投げかけた。「インドの消費者のアイデンティティとは何か」

人口が10億人を超え、数百キロメートル単位の地域で言語や文化、味覚、嗜好が変わるインドでは、その問いに対する唯一の答えなどなかった。メフタと配下のチームはインドを一枚岩ととらえるのではなく、「Winning in Many Indias」(いくつものインドで勝利する)と呼ぶ戦略を考案した。

まず、消費パターンと経済の発展状況から、インドを14の消費者群に分類した。次に、各地域の嗜好に製品を合わせるだけでなく、地域ごとに異なる物流やサプライチェーン戦略を取ることで現地化を進め、成長を促す方法を見出した。組織のアジリティを高めるため、15のカテゴリービジネスチームを立ち上げた。ホームケア、ランドリー、ヘアケア、スキンケア、ナチュラル、フードといった具合だ。各チームとも小規模の取締役会が独立して運営に当たり、チームを率いるゼネラルマネジャーが損益計算書上の責任を負った。

分散型の組織が地域ごとのニーズや嗜好に対応することで、HULは最大のリターンを上げられるところにリソースを投じやすくなった。たとえば、地域で掘り起こした消費者情報に基づきさまざまな紅茶のブレンドを製造・販売したり、消費者の肌のトーンに合わせた化粧品を開発したりしていた。

この戦略の複雑性は、14×15のマトリックスに表れている。各象限には、インド国内の特徴的なローカル市場と、そこで製品をいかにマーケティングすべきかというアプローチ法が示されていた。HULの規模とリソース、つまり既存企業であることが、一度に多種多様なアプローチを行うことを可能にした。新興企業が、これほど多くの地域に向けて、これほど多くの製品をローカライズすることは不可能である。

成功した既存企業であるにもかかわらず、これほど大掛かりな構造改革を敢行したリーダーシップチームはどのくらいあるだろうか。メフタにとって、HULを次の成長軌道に乗せる唯一の方法は、自社の事業構造をインドの異質性に合わせることにほかならなかった。彼は投資家にこう説明している。「新たな事業構造は、ビジネスに複雑性をもたらしましたが、それは善玉コレステロールのようなものです。我々が歓迎すべき複雑性であり、我々がマネジメントすべき複雑性です」

この取り組みにより、HULは2013~19年にかけて売上高が41%伸びたほか、経常利益が倍増し、利幅が改善した。投資家も同社に報いた。2019年10月に同社の時価総額は600億ドルに達し、コルゲート・パルモリーブ、クラフト・ハインツ、レキットベンキーザーを超えて、世界有数の企業価値を誇る日用消費財企業に躍り出たのだ。

長期的な視座を維持する

筆者らの調査では、成功している既存企業は、長期の計画を完遂する優れた能力を持っていることが示された。受け身の既存企業が四半期の業績に拘泥するのに対し、戦略的既存企業は足元の業績達成と将来への備えのバランスをうまく取ろうとする。

調査対象となったある企業のCEOは、「短期的な指標は外部向けのスコアカードですが、長期的な視座で従業員、顧客、社会への貢献を測る内部向けのスコアカードも必要です」と語った。CEOのコミットメントや取締役会の積極的な監視が、揺るぎない視座を維持するためのカギとなることがわかった。

米国を代表する企業、ディア・アンド・カンパニーを取り上げよう。同社は、景気循環に大きく左右される農機業界で事業を展開している。幾多の不況を乗り越え、10年、また10年と歩み続けられた理由の一つは、歴代CEOの在任期間の長さにある。1837年に設立し、創業180年を超える同社で、これまでにCEOを務めたのはわずか10人だ。

2009年から19年にかけてCEOを務めたサミュエル・アレンは、引退するまで45年間のキャリアを同社でまっとうした。経営の舵取りを担っている間、同社は半世紀で最悪の不況に遭遇した。2014年から16年にかけて主要農産物の価格が下落し、米国の農家の所得は低下して、農機の新規購入は先送りされた。売上げが落ち込むと、業界アナリストは同社の将来性に懐疑的になった。

しかしアレンは、精密農業機器のリーダーになるという自社の長期戦略を守り通した。これは、農機とテクノロジーを融合し、効率的かつ環境に優しい方法で農家の収穫増と収益性向上を支援するという目標で、1990年代にアレンの前任者が打ち出したものだ。アレンは厳格なコスト管理を徹底し、当面の財政難に対応する一方、、最も厳しい時期にも、年間売上高の約4~6%をM&A(合併・買収)やR&Dに投じ続けることでデジタルケイパビリティを構築した。

ディアは、この戦略を追求する中で、既存企業としての優位性を活用した。すなわち膨大な累計出荷台数と、100年以上の歴史で培ってきた評判である。

農業は数世代続く傾向がある。古くから存在するディアは、スチールプラウという、土を耕す農機具を世に送り出した企業と認識されていた。この農機具が米国中西部を穀倉地帯に変えたのだ。同社はかつてのイノベーションが遺してくれた財産を基盤に、自社のバリュープロポジションを近代化した。自社製品にオートメーションやテレマティックス、コンピュータビジョン、GPS、センサーを搭載することによって、農家の収穫増、コスト削減、効率と採算性の向上、そして成長促進を支援したのである。

2010年代初めには、人工知能(AI)や機械学習といったデジタルテクノロジーを重視するようになり、農作物ごとにリアルタイムで必要な対応を判断できるようになった。たとえば、同社が先頃買収した、カリフォルニア州のブルーリバー・テクノロジーは、コンピュータビジョンと機械学習を統合した技術を用いて、農家が雑草だけに農薬を散布できる技術を実現している。

農家に新しいテクノロジーを販売するのは容易ではない。農家は保守的で、倹約家が多いからだ。だが、ディアは諦めなかった。顧客に関する深い知識を活かし、テクノロジーの導入に前向きな最先端の農家に的を絞って導入を促し、その技術が農業の効率化を支援すると確証を得たうえで、他の農家にも普及させていった。

ディアが目指したのは、農家の資金投入量の最適化と、その結果もたらされる産出量の最大化だけではない。地球規模の現実が大きなモチベーションになっている。

世界の人口は2050年までに97億人まで増えると見込まれている。現在と同じ耕作地の面積で、今後の需要を満たすには、農作物の収穫量を現在の2倍に引き上げなければならない。精密農業機器は製品戦略であるだけでなく、次世代を支える手段でもある。

信頼できる顧客との関係を活かし
隣接領域に進出する

筆者らは、「信頼」こそ競争条件の再定義を可能にする有力な手段であると判断した。戦略的既存企業は、ステークホルダーとの強固な関係を足がかりに深く話し合う。ニーズがいかに進化しているか、今後対処すべき重要な課題とは何か、ステークホルダーと自社の共通の関心事とは何か、などである。

これを実践した企業に、APモラー・マースクがある。1904年に設立された同社は120年近い歴史を持ち、その社名は世界中の貨物船を彩っている(同社の貨物船アラバマ号がソマリアの海賊に乗っ取られた2009年には世界中の注目を浴び、この事件がトム・ハンクス主演で映画化された)。2016年にCEOに就任したセーレン・スコウには、欧州産業界の中でも最大規模の変革が託された。スコウは、マースクの石油・エネルギー事業を売却し、海上と陸上の物流という2つに事業を絞った。

デンマークの巨大企業である同社は、その屋台骨である海運事業の優位性を守らなければならないと考えていた。1970年代、他社に先駆けて大型コンテナ船の運航に乗り出し、より大型のコンテナ船を次々と就航させ、同社は世界最大のコンテナ船の記録を何度も塗り替えた。しかし、海運業界はコモディティ化や激しい浮き沈み、業界再編、低利益率に悩まされたうえ、2008~16年は、この60年間で最長の不況期となった。

このような状況の中でスコウが打ち出した戦略は、単にコンテナを港から港へ動かすのではなく、グローバルサプライチェーンを接続し、簡素化することにより、顧客に価値を提供するというものだった。事業機会は計り知れないほど大きかった。というのも、マースクは世界の海上貨物全体の約5分の1の輸送を担っていた一方で、陸運事業の顧客は海運事業の顧客の2割に満たなかったからだ。

しかし、海運事業という伝統的なケイパビリティだけでは、新たなバリュープロポジションの構築を推進できない。そこで同社は新しい人材を招き入れたり、M&Aに投資したりしてロジスティックス部門を再編するとともに、そのケイパビリティを高めていった。顧客に製品を売り込む供給主導型のアプローチから、顧客のニーズやペインポイントに対応する製品・サービスをつくり出す需要主導型へと大きく舵を切ったのだ。

マースクの海運部門の責任者、ビンセント・クラークは次のように述べている。「当社が向かっているのは、提案の中心に顧客ニーズを据えたソリューション型の事業です。面倒を排除し、海運や陸運に関わるさまざまな商品を組み合わせて、それを機能させ、成果に対して説明責任を負っています」

マースクは競争に勝ち抜く力をどこから得ているのか。同社の優位性の一端は、物流に関するさまざまな資産を保有していることにある。それが、顧客に約束した成果をもたらす。また、到着貨物や出荷貨物、貨物の追跡、ボトルネック、天候が輸送ルートに及ぼす影響、到着予定に関するリアルタイム情報など、幅広いデータを取りまとめることにより、物流の始まりから終わりまでを可視化する力にもなる。

この方向転換を実現するうえでカギとなったのが、テクノロジーだ。顧客が同社のサイト(Maersk.com)にアクセスすれば、見積もりの取得、予約、諸手続き、決済まで完了できるように、デジタルイノベーションの統合を開始した。

既存企業は往々にして、レガシーなシステムという重荷に対処する必要がない、敏捷な新規参入企業に羨望の眼差しを向ける。だが、うらやましがっていては、自社の強みを見落としてしまう。マースクの場合は違った。長年にわたり手がけてきた海運、数千社の顧客との既存の関係が、陸運に手を広げる際に非常に大きな強みとなることを見抜き、4年という短期間で自社のバリュープロポジションを書き換え、新たな市場へと進出したのだ。

なぜ多くの企業は守りに入るのか

企業やリーダーが、受け身の姿勢から抜け出せず、戦略的既存企業の利点を活用できないのはなぜか。筆者らは、より能動的な姿勢を取ろうとしても、その努力を頓挫させる5つの行動様式があることに気づいた。

(1)シニアリーダーは、受け身の姿勢から抜け出せない原因に対処することに抵抗があり、受け身の姿勢を改めることを完全に否定する時もある。対処すれば、自分たちが細心の注意を払って構築した既存の事業構造を解体することになるというのが主な理由だ。

筆者らが一緒に仕事をした、世界的な消費財メーカーの例を挙げよう。この企業は新興市場で伸び悩んでいた。原因は、高コストの自社工場に全面的に依存していたため、市場で求められる価格で製品を提供できなかったからだ。同社のリーダーは、低コストの現地企業と手を組んで製造やパッケージングに取り組む体制に転換しようとはせず、自社工場のサンクコストを正当化し、現地企業と提携すれば品質が低下すると主張し続けた。

(2)経営陣が従業員をコンフォートゾーンの中から押し出そうとすると「経営陣対従業員」という意識が根付く。リーダーが無理強いすれば、従業員の意欲が減退しかねない。

(3)変革の取り組みが実際に始まると、突然勢いを失うことが多い。だからこそリーダーは、ハーフタイムにコーチがやるように、途中で取り組みを評価して「勝てそうか、負けそうか」と問いかける必要がある。組織が後れを取っているのであれば、戦術を変えるか、ペースを変えるか、選手を変えなければならない。

(4)企業が最も重視するのはR&Dの「D」の部分、つまり、製品の漸進的な改善だ。これに対して戦略的既存企業は、従来とはかけ離れたバリュープロポジションやビジネスモデルに力を入れるため、より広範かつ明確な研究投資が必要になる。

このようなプロジェクトは当初、企業にとって型破りなアイデアであり、原資の確保は時に難しくなる。ビジネスケースの検証が困難で、付随するリスクがかなり高くなるからだ。結果としてリスク回避のために様子見に終始したり、複数のプロジェクトにR&Dを分散させたりしてしまい、各プロジェクトへの取り組みが貧弱になってしまうことは多い。

(5)エネルギーやリソースを大胆な改革プロジェクトに集中投資したとしても、それを中核事業から切り離すケースがあまりにも多すぎる。

ディスラプションに専念する新部門を遠隔地に設立し、柔軟な体制を持たせるとともに、新しいリーダーを迎え入れ、新しい人材を配置する。そして、中核事業とは異なる業績指標(考案した新しいアイデアや検証できた新コンセプトの数、スタートアップとの提携件数など)を設定するのだ。

このように設立間もないベンチャー事業を切り離すのは、既存企業のマインドセットやビジネスモデル、業務プロセスに、新たな事業が潰されないようにするためだ。しかし、この手法は、既存企業が弱点に縛られていることを浮き彫りにするだけである。新部門を中核事業と統合し、イノベーションのスケールアップを図ろうとする時、切り離したデメリットが必ず明らかになるだろう。

ただし、筆者らが調査した戦略的既存企業の多くは、変革を担う部門やイノベーション創出の取り組みを、遠方の特命プロジェクトに追いやらず、本業と常に一体化させていた。

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顧客としっかりつながっている企業は、業界の未来を形づくるのに役立つ洞察を得ることができる。問題は、受け身の姿勢から抜け出し、タイムリーに行動できるかどうかだ。

組織を受動的な既存企業から、能動的な既存企業へと移行させるには、リーダーの役割が非常に重要だ。リーダーは常に疑問を持ち、たえず業界外の動きに目を配り、成功する成長モデルを模索し、コミットメントと忍耐を持って新しい道を最後まで進み続けることが必要だ。新規事業をつくり出すだけでなく、既存事業をつくり変え、最終的には新旧両方の事業を戦略的に一致させるまで責任を負わなくてはならない。

一般的に、レガシー企業はディスラプションを避けられない運命であるといわれる。しかし、衰退し滅びる必要はない。自社に内在する強みを活かし、戦略的既存企業として振る舞わなければならないのだ。