総合人事部がこれから「会社の裏方」でなくなる必然 GAFAも導入する「戦略人事」とはいったい何か
企業にお勤めのみなさんは、「人事部」と聞くとどんなイメージを持っているだろうか。社員の評価などの機密情報を扱う仕事の性質もあり、漠然と特権的な役割だと感じている人が多いかもしれない。事実、人事部へ異動することが“出世コース”だとみなされる会社もあると聞く。
しかし近年、企業における人事のあり方は変わりつつある。例えば、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の導入。人材採用における応募者とのやり取りや労務における給与計算などを、外部の専門チームに委託するケースが増えており、人事部の社内人員は縮小傾向にあるのが実態だ。
HRTechの活用も盛んに
アウトソースが当たり前になりつつあるだけでなく、最近ではHRTechと呼ばれる人事関連のテクノロジー活用が盛んでもある。人が担ってきた役割は、ますますAIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)に置き換えられていくだろう。時代の変化を理解せずに出世コースだとあぐらをかいていると、いつの間にか機械にポジションを奪われかねない。
このように、従来の人事の役割を「社内の人間が」担うことは減っている一方で、徐々に重宝されはじめている役割もある。それが「戦略人事」と呼ばれる存在だ。企業の経営・組織コンサルティングを手がける弊社エッグフォワードでも、近年このポジションの設置についての相談が急激に増加している。
ところが従来の人事を担ってきた人に、突然次の日から「戦略的に人事をやって」と任せてもうまくいくものではない。そこで今回は、戦略人事の必要性を紹介するとともに、その役割を務める人が持つべき心構えや、導入のポイントなどをお伝えしていこう。
戦略人事は、「HRビジネスパートナー」といった組織名/職種を掲げている場合が多く、この名称はその位置づけを端的に表している。
つまり、HR(Human Resource)分野を専門とするビジネスパートナー。従来の人事の役割が、「経営層の意思決定に基づいて人事関連の実務を担う」ことだとすれば、戦略人事は、「経営や事業の意思決定に人や組織の面から介在・支援する」のが仕事であり、両者の立ち位置はまったく異なるのだ。
では、なぜ戦略人事が必要とされているのだろうか。最大の理由は、市場環境の変化のスピードが年々増しており、企業は先の見通しが立てにくい“不確実な世界”で事業成長をしていかねばならないからだ。
だからこそ、先に挙げたように、運用・管理の実務は外部のエキスパートや機械に任せて、人事には戦略立案などの役割を期待されるようになった。人事のフィールドで仕事をするのではなく、経営や事業部のフィールドに人事の専門分野を持ち込んで仕事をするようなイメージに近い。
GAFAでも導入されている
こうした戦略人事は、現代の成長(成功)企業の多くで活用・重視されているポジションだ。例えば、世界的なイノベーション企業の代名詞であるGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)には、4社ともHRビジネスパートナーのポジションが存在しており、もはや当たり前になっている。
また、日本においてもLINEやメルカリ、サイバーエージェントといった成長企業は、人事が戦略的に企業の顔として前に出ているような共通点がある。自らも表舞台に立って、社内外に経営理念やビジョンを発信する役割も担っており、人・組織をキーワードに活動の場を広げている印象だ。
このような流れを踏まえると、従来の人事と戦略人事はどちらも人事と名が付く役割ながら、必要となる能力がまったく違うことにお気づきいただけただろうか。今、もし人事部で運用実務を担っている人や、その管理をしているマネジャーがこの先も人事として活躍していきたいならば、今の自分のスキルでは通用しなくなる可能性も考え、新しい力を養っていかねばならない。
いちばんの大きな違いは、戦略人事が「攻めの人事」と称されることもあるほど、自らが事業や経営と一体となって会社の意思決定に関わる主体者となることだろう。人事は、経理や総務などの部署とともに“管理部門”や“バックオフィス”と言われてきたが、そういった位置づけに身を置くうちに、裏方のスタンスが染みついていないだろうか。
これからの人事は受け身では生き残れない。経営に提言していくうえでは、そもそも経営層の視界で物事を捉えられなければならないため、「上から降ってきたミッションを遂行するだけ」の人に戦略人事は任せられないだろう。また、的を射た提言をするには、事業部の深い理解が必要不可欠。経営と事業(現場)の双方を知ったうえで、人事的な知見を使って課題を解決し、計画を達成していくことが戦略人事の役割だからだ。
こうした自分の役割を理解していないと、経営や事業部の御用聞きと化してしまい、うまく機能しない。戦略人事を起用したものの失敗した企業の多くは、役割の定義や理解が曖昧なまま進めてしまったことが原因の場合が多いのだ。
極端な例を挙げれば、人事部の名称をHRビジネスパートナー部に変えただけで中身が変わっていなかったケースや、事業部側の立場が強いという長年の社内風土が尾を引いて、「パートナー」として認めてもらうのに苦労したケースもある。
戦略人事を成功させるには、もちろん個人の努力だけではなく企業としてこの新たな役割をどう定着・浸透させていくかもカギになるだろう。先ほど紹介したような定義の曖昧さを回避するためにも、HRビジネスパートナーと運用管理が主体の人事とではまったく別のスキルセットが必要なことを理解したうえで、何を期待しているのか当人へ明確に伝えることが必要だ。
社内での立ち位置を周知するためにも、経営と事業部とのコミュニケーションに積極的に巻き込んでいくといいだろう。それがひいては、経営・事業の理解促進にもつながる。
また、戦略人事がうまく機能している企業のなかには、あえて人事部から抜擢するのではなく、事業部側から選出しているケースもある。これは、人事的な知見は乏しくても、事業を深く理解している人なら事業成長に強くコミットメントしやすいという強みを重視しての抜擢。加えて、次世代リーダー(幹部候補)を育成する目的で、ジョブローテーションさせている場合もある。
注意点は?
これは、経営視点を養う意味でかなり有効な手段だ。なぜなら経営リソースである「ヒト・モノ・カネ」のうち、ヒトについて中長期視点で考えていく仕事でもあるし、生産・営業・マーケティング……と事業のビジネスプロセスを横断的な目で見ていくポジションでもあるからだ。
当然、既存の仕事ではあまり関わってこなかった社内関係者との協働も増えるので、多元的な視点で状況を捉え、意思決定をしていく力も身に付きやすい。
このように、戦略人事は既存の人事の中から任命するのも、事業部から抜擢するのもどちらもやり方次第で有効だが、1点だけ注意しておかねばならない。それは、誰に任せるかの判断基準。従来の延長線上にはない仕事の任せ方をするため、既存の仕事の評価基準があまり参考にならない場合もあるからだ。
弊社が組織コンサルティングを行う中でも、こういった例はよく見受けられる。客観的なモノサシで個人の能力や適性を把握していないために、人材配置にミスマッチが起こっているケースはよくある。昨今とくに引き合いが増えているのがこうした負を解消するために、客観的な評価基準で人を見極める人材のアセスメントだ。
マネジャーの勘と経験だけで実施されていた旧来型の人材配置や育成にメスを入れるのに非常に役に立っていると評価いただいている。これは人材配置の納得感も醸成することが可能で、まさに戦略人事を実践し、経営にも関わるような重要な人材の抜擢には、なおさら活用をオススメしたい。
以上のように戦略人事についてお伝えしてきたが、いずれにしろ従来の人事業務が縮小していくことは時代の変化によってもはや避けられないことだろう。人事のみなさんにとっては心穏やかでない話かもしれないが、この状況にいち早くみなさんが身を置くことは、実は人事職にとって非常に意味のあることだ。
なぜなら、イノベーションによって自分の役割・仕事がなくなるのは、人事だけの話ではないのだから。ある仕事がなくなったとしても、そこで活躍していた人が持つスキル・能力を分解・整理して見極め、新たな役割へと再配置すること。それができる人事のいる企業こそ、変化の激しい時代も力強く成長を続けられるのではないだろうか。